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290話 狼獣人の里の記憶。

更新、とても遅れてしまいました。すみません。


以降なるべく早く更新できるよう努力します。

 

「エリーゼの知ってる場所?」




「ええ。……私の故郷の近くにこの形そっくりの大木があるのよ」




 そう答えたエリーゼは周囲を注意深く見回す。そして納得したのかひとつ大きく頷くのであった。




「間違いないわ。……ここは私が生まれ育った狼獣人の里の近くよ」




「……話では空間の魔道具は巻き込まれた者の記憶の風景が再現されるって聞いた。だとするとここはエリーゼの記憶の森なのかもしれないね」




「なるほど。……だとすると私の里へ向かうべきなのかしらね」




 そしてエリーゼとフーシュは歩き始めた。

 エリーゼにとってもうこの森は未知の土地ではない。記憶している懐かしい風景なのだ。なので道に迷うこともない。




 そしてエリーゼとフーシュはやがて里を見下ろす丘の上に到着した。眼下には木柵で保護された集落が見えた。

 草葺の屋根を持つ80件くらいもある大きめの集落だ。そしてそれは間違いなくエリーゼが生まれ育った狼獣人の里であったのだ。




「妙ね。……人がいないわ」




 まだ距離があるので詳細はわからないが、それでも里の通りに人が出ていないのがわかる。そのことに訝しがりながらもエリーゼとフーシュは里へ道を進む。

 やがて門があった。

 そこにも人影はなく、エリーゼとフーシュは無言のまま門を潜る。




「やっぱり誰もいないみたいだね」




 フーシュがエリーゼに質問がてらそう口にする。通りの両側には板壁の木造家屋が並んでいるのだが、どの家屋も戸を閉ざし話し声すら聞こえてこない。もちろん通りを歩く人もいない。

 そんなときだった。




「……待って。なにか聞こえるわ」




 狼獣人であるエリーゼは耳が良い。その耳が通りの奥での音を拾ったのだ。それは硬い金属のようなものがぶつかる音であった。




「……誰かが戦っているわ」




「この無人の里で? 誰だろうね」




 エリーゼとフーシュの2人は足音を忍ばせて音の方角へと進む。いくつか家屋を越えるとやがて視界が開けた。

 すると家屋と家屋の間で広場になっている場所があった。そこで赤や黄色の色使いの上着を着た狼獣人の民族衣装の男が剣を持ち、青黒く筋骨隆々で角を生やした魔族と戦っていたのであった。




 男は緑色に光る刃の剣を振り、魔族を切り裂こうとする。それを魔族は後方に飛ぶことで間合いを外し、男が剣を振り切るとそこへ鋭い爪をたて襲いかかっていたのだ。




「……ち、父上……!」




 エリーゼは戦う男を見て、そう呟き、のちに絶句する。

 そう。魔族と戦っているのは里の戦士団の団長であったエリーゼの父親だったのである。そのことでエリーゼはここが現在の時間ではないことに気づく。エリーゼの父親は数年前に襲撃してきた魔族と刺し違えることで命を落としたからだ。




 だがそんなことは些末なことだ。目の前に魔族がいて父親と戦っているのだ。そのことからエリーゼは加勢に入るための機会を伺う。

 しかし戦いは接近しての接戦のため、なかなかタイミングが掴めないでいた。そのことがエリーゼの焦燥を煽る。




「……どうしよう……」




「加勢に入ろうと思ってるんだね?」




「え? ……ええ、そうよ」




 フーシュの落ち着いた声に尋ねられてエリーゼは戸惑い気味に答える。そんなエリーゼをフーシュは正面からまっすぐ見つめた。




「これは過去の記憶なんだね?」




「そ、そうよ」




 エリーゼは以前に父親の最後をフーシュに語ったことがあるのだ。そしてフーシュはエリーゼの返事に納得した様子を見せる。




「冷たいようだけど、これは過去だから変えられないよ。エリーゼのお父さんはここで命を落としてしまうんだ」




 フーシュは語る。

 この現場を当時の幼いエリーゼは見ていないことを知っていた。エリーゼは他の里人たちと同じく避難していたからだ。

 なのに、目の前に魔族と父親の戦いが繰り広げられている。そのことからこれは過去の再現であり、誰も目撃者がいなかったことから誰かの記憶ではなくこの土地の記憶だと言うのであった。




「……言われてみれば、そうよね。……私、この場面は見ていないもの」




「そう。だから誰かがあたいたちにこの風景を見せようとしているんだと思う」




「誰か……? そうね。あのダリドーンていう中級魔族ね」




 エリーゼの問にフーシュは頷いた。

 そして2人は物陰から戦いを見る。先ほどまで一進一退の攻防であったが、下級魔族の爪攻撃を躱したエリーゼの父親である戦士団長が一気に攻勢を仕掛ける。

 左右の爪を交互に弾き、真一文字に頭から魔族を深々と切り下げた。




「グギャァァァァァァ……!」




 どす黒い血を吹き流しながら魔族は一歩、一歩とゆっくり後退する。だがまだ致命傷には至っていない。

 これが人間相手ならば決着は着いていたであろうが、心臓を破壊しないと魔族は止められないからだ。




 エリーゼは手に汗を握る。自分は参戦できない。ならばせめて見届けるだけができることだと理解したからだ。

 そしてエリーゼの想いが伝わったのか、戦士団長は剣を水平に構え、逃れるように後ずさる魔族の胸の中央に突き刺した。




「グギャァァァァァァ……!」




 心臓を貫かれた魔族は断末魔の叫びを上げた。そしてその場でドウと倒れる。すると身体が粉のように分解されて風にさらさらと流され輪郭を失うのであった。




「……やった。父上が勝った。……え、……でも……」




 エリーゼはそこで違和感を覚えた。眼前には剣を手にした父親が疲労困憊ながらも誇らしげな笑みを浮かべていたからであった。


下級魔族は倒されたのです。(`・ω・´)∩


よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。

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