116話 大魔法使い。
【基本一日置きで夜の18時に更新します】
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「マキラ、タマユラ。フララランの魔法が発動するまでなんとか耐えて」
エリーゼのお願いの声が届く。
僕は額から汗を垂らしながら懸命に転倒を唱え続けるのであった。
今、戦闘開始から何分経ったんだろう……?
僕は魔法を唱え続けている。そしてタマユラも霧の維持に集中している。
だが、フララランの魔法はまだ発動しない。
……早く、早く、早くしてくれ!
声には出さない。魔法を唱え続けているからだ。
だが、限界が近いのが自分でもわかる。あと10回、……いや、7回くらい唱えたら意識が朦朧としてぶっ倒れてしまうのが自分でもよくわかる。
……頼む。頼む。頼む。フラララン……!!
「お待たせしましたっ!」
待望のフララランの声だった。
僕は思わず膝から崩れそうになり懸命にこらえる。
「10分間予約できましたっ! 行きますよっ!」
そう叫んだフララランは手に持つ長い杖を頭上高く掲げる。
すると道の脇にある花壇から、ゴウッと言う唸る音が鳴り、人の足ほどの太さの木の根が飛び出すかのように生えてきたのだ。
……なるほど。花壇の土!
すべて岩の地下ではフララランの植物魔法は使えないと聞いている。だがここには土があるのだ。普段の言動からは察せないが、実は抜け目のないフララランは最初からここに土があることを見抜いていたのだろう。
そして問題の木の根。
のろまな足で右往左往している魔族を捕食するかのようにその足元に巻きついた。そしてぐるぐると身体を巻き付いて登り最後には顔全体まで覆ってしまった。要するに簀巻き状態にさせたのである。
そして魔族はバランスを崩して、ドウッと音を立てて地面に倒れた。
その瞬間、魔族に展開していた僕の魔法陣は割れた。
僕は両膝を地面について杖で身体を支えている。限界だったのだ。非常に際どいところだったがどうやら僕は役割を果たしたようだ。
そしてタマユラだが、彼女もどうやら僕同様だったようで深い溜め息を吐いた後、魔族の身体を包む霧を解除していた。
どうやら魔族の身体を常時包む霧と言うのはそうとう魔力を消耗するものだったようだ。
「……グゥゥゥ」
顔までぐるぐる巻きにされてしまったことで、言葉を発せないようだ。だが身体全体を使って身動きしている。
ピシリピシリと木の根が裂ける嫌な音が聞こえてくる。
「フラララン、これは大丈夫なのかしら……?」
ノーアたちを背後に隠したエリーゼがそう質問してくる。
そして問われたフララランを見ると額に汗をびっしょりかいている。まるでさっきまでの僕と同じように思える。
「……正直言うと非常にぎりぎりですっ。さすがは魔族ですっ。予約魔法発動までもう10分あれば確実に倒せたのですがっ……」
どうやら本当はフララランは20分くらい時間をかけて魔法を予約したかったようだ。だけど僕たちの状態からその半分の10分で発動させてしまったようだ。
そして魔族だがものすごく藻掻く。地面の上でドタンバタンと跳ね回り力任せに木の根を引きちぎるつもりのようだ。
ピシリピシリと裂ける音が増えていく。
このままじゃまずい。
フララランの表情を見ると必死に魔力を制御して木の根を抑え込んでいるのがわかる。
だが魔族は力が有り余っているようで藻掻く激しさは増すばかりだ。
「やっぱり魔族は強いのですっ……。普通の魔物ならとうに息絶えているんですが、これ以上締め付けられないのですっ」
「我もキツイのう。魔族がこれほど強敵とは思わなんだ」
どうやらタマユラも幻術を使い過ぎたようで肩を大きく上下させながら苦しそうに呼吸をしている。そして顔色も悪い。
「私がやるわ。みんなは女の子たちをお願い!」
ただひとり、ノーアたちの護衛に回っていたエリーゼがそう叫んで飛び出した。
だが僕はとっさに手を伸ばしてエリーゼの腕を掴む。
「駄目だよ。エリーゼの剣は魔剣じゃないんだ。通用しないよ」
「でも、今動けるのは私だけなのよ」
魔族を見る。
すると木の根は限界のようで数カ所で千切れる事態が発生していた。
「もう長くはもちませんっ。今、魔族に近寄るのは危険ですっ」
フララランが苦しげに片膝をつき、エリーゼに伝える。
見ると魔族の右手が木の根の隙間から出ていた。そしてその腕で根っこを掴み千切っている。
本当にそろそろ限界らしい。
万事休す。
そんな言葉が僕の頭に浮かび上がる。
そんなときだった。
――ズザザッ……!
激しく風を切る音とともに直上から轟々と燃え盛る炎の槍たちが降り注いできたのだ。
グサッと音を立ててその槍は魔族の身体に刺さる。その数4本。
頭、右肩、腹、右足をそれぞれ貫いたのだ。
「グェェェェ……」
魔族が苦悶の声を上げる。
まだ息はあるようだが、傷を再生できないのかぴくぴくと痙攣を起こしたままだ。
僕は思わず頭上を見上げた。
すると地上10メートルくらいの位置に三角帽、ローブ、杖の魔法使い3点セットを装備した女性が浮かんでいたのだ。
僕はその姿に一瞬見とれたが、すぐにその正体に気がつく。
「えっ! し、師匠……」
そうなのだ。
やがて緩やかに降りてきて地面に着地した女性は僕の師匠である大魔法使いアルだったのだ。
そして師匠は杖を振り上げて、改めて炎の槍を出現させた。そして発射。
槍は魔族の胸のほぼ中央。つまり心臓の位置にズブリと突き刺さる。
「……グゥゥ……」
魔族はやがて塵となり風に攫われる砂粒のように消えていく。
そしてゆっくりと振り返った師匠は僕を見る。
その顔は懐かしい。あの山奥の小屋でいっしょに暮らしていたときの師匠のままだった。
師匠の登場なのです。(`・ω・´)∩
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「いらぬ神にたたりなし」連載中
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」完結済み
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




