109話 気配察知の限界。
【基本一日置きで夜の18時に更新します】
どうぞ、よろしくお願いします。
その夜。宿の部屋。
僕たち4人は今日の捜索の報告会と言うか反省会と言うか、とにかくそういうものを行っていた。
4つのベッドにそれぞれが座り顔を向け合っている形だ。
「注目されておるのはわかったのう」
「そうですねっ。ただ人目が多かったからか相手はなにもして来なかったですっ」
「でも、方法は間違ってないと思うのよ。これが最適な方法ともね」
「最適な方法?」
僕がそう聞き返すとエリーゼはひとつ深く頷くと再び口を開く。
「私たちは最初から今回の件が行方不明事件ではなく実は誘拐事件だと知っている。だけど冒険者組合も衛兵隊も街の人も、そして被害者のご家族たちもこの件はまだただの行方不明事件だと思い込んでいる。そして誘拐組織もそう認識されていると思っているからよ」
エリーゼの説明は続く。
この件が連続獣人少女誘拐事件とはっきりわかっていて、そのための対応をしているのは自分たち『ひとつの足跡』だけだと言うのだ。
なので誰も囮を使って捜査していることを誰も知らない。
冒険者組合も衛兵隊も、そして誘拐組織団も……。
そのため自分たちが用意した囮には必ず食いつくはずだと断言するのであった。
「……ヤツらはサイラたち、ユミアたちの誘拐に失敗してすでに5人も捕らえ損ねているのよ。補充のために必死で獣人少女を探しているはずだと思うのよね」
「そうですねっ。ヤツらは必死なのは間違いないと思いますっ。それを踏まえるとエリーゼも囮に加えた方がいいとも考えましたっ。でも……」
「今まで攫われた街の少女たちは、ひとりでいるところを狙われたんだったよね? それを考えると囮はひとりの方がいいと思う」
僕は行方不明者の聞き取りで訪ねたご家族たちから聞いた内容を思い出す。
今回4名の少女たちが行方不明になっているのだけど、すべてひとりで外出しているところを狙われたと聞いている。
そのことを考慮すると囮はタマユラひとりの方が正しい気がするのだ。
「そうね。それを考えると私も囮になってしまったら、囮を二手に分けることで見張りの人数を割かなきゃならなくなるわ。それぞれ囮ひとり、見張りひとりずつになってしまう。これだといざと言うときに追跡が難しくなるわ」
それは確かに言えた。
今はタマユラだけが囮なので、エリーゼ、フラララン、僕の3人で見張っていられるのだ。
これが囮2人になり、それぞれに見張りをつけるとなると見張りがたった1人になってしまう。
囮を増やせば囮が誘拐団に見つかる確率が高くなるけど、その後の追跡や捕縛が難しいものになってしまうからね。
「……ちょっと気になることがあるんじゃがのう。サイラたちやユミアたちの人数は合計で5人。そして現在まで行方不明になった少女が4人。あと1人を集めるのことを誘拐団が狙っている可能性がありそうなんじゃがのう」
タマユラが小首を傾げた考え顔で言う。
「……それはあり得るわね。この事件には黒幕がいて、そこからの要求で5人の獣人少女を用意しようとしたってことね?」
「そうですねっ。そして誘拐組織団は最初は足がつきにくい街の外で用意しようとしてサイラちゃんたちやユミアちゃんたちを誘拐したってことですねっ」
「それでその誘拐が失敗に終わってしまって少女の人数が確保できなくなったから、急いで集めるために危険を犯してまでこのサンバーンメの街の中で攫ったってこと?」
「可能性はあるじゃろう? 今、ヤツらが確保している少女は4人じゃ。じゃとするとあと1人は絶対に捕まえる必要があると思っているんじゃないかのう」
あり得る。
そうなると誘拐組織団は最低でもあと1人は確保しなければならないのだ。
だとすると、このタマユラ囮作戦はかなり的確な方法かもしれないのだ。
「そうね。まあ、今日はまだ初日だったし人通りの多い大通りだったから向こうも手が出せなかった可能性が高いわね」
「そうですねっ。じゃあ明日は人通りが少ない道に変更しましょうっ」
それで作戦は決定された。
明日は大通りから1本外側になる、やや人通りが少ない通りで活動しようと言うことになったのだ。
そして夜は更けるのであった。
■
そして翌日。
昨夜の決定通りに僕たちはやや人通りが少ない道を歩いていた。
先頭は町娘姿のタマユラ。そしてやや離れて僕とエリーゼ、フララランが姿を隠しつつ追う形だ。
道路は馬車がかろうじてすれ違える程度の広さしかない。
そして道の両脇に建っているのは石造りと木造が半々くらいの割合になっている2階建ての少々くたびれた建物。
店もちらほらとあって、大通り程じゃないがそれなりの賑わいを見せている。
そして建物と建物の間には人がすれ違える程度の薄暗い路地裏がある。
視界が悪いのでそこへ引き込まれたら簡単に攫われてしまいそうだ。
まあ、囮になっているのが非力な少女じゃなくて、タマユラだから大丈夫だろうけどね。
「エリーゼに質問があるのですっ」
タマユラを追跡中なのに突然フララランが質問してきた。
たださすがに状況が状況なのかはフララランでもわかっているようで小声でだった。
「なにかしら?」
「エリーゼの気配察知の件なのですっ。今、誘拐犯相手には使えないのですかっ?」
なるほど。
エリーゼの気配察知はすごい。森の中でも街道でも魔物や盗賊の数まで察知できるのだ。なので、今こうしている最中でも気配察知で誘拐団の構成員を察知できたら便利だ。
だが、エリーゼはちょっと困った顔になっている。
「……私の能力は魔物でも人間でも、魔族でも確かに察知できるわ。でも、それは最初から明らかに強い敵意、強い悪意がある相手にしか判別できないの。誘拐犯は誘拐しようと思っている相手に強い敵意を持っている訳じゃないし、まして見張っている私たちに害意を持っている訳じゃないから察知しにくいのよね」
そうなのか。
エリーゼの気配察知も万能じゃないんだな。
そう思った僕だが、ふと疑問を感じた。
それはスリの隠れ家を捜索したときだ。
「ねえ、エリーゼ。スリの鼠獣人の隠れ家の洞窟に入ったときは、どうしてスリがいるってわかったの? あのときスリは僕たちに敵意を持っていたのかな?」
するとエリーゼは僕が言わんとした意味がわかったようで、ひとつ頷くと返事をしてくれる。
「あのときのことね。スリは別に私たちに敵意を持っていた訳じゃないわ。ただ見えない先に人の気配がひとつだけあるとわかっただけなのよ」
「……?」
意味がわからない。
なので僕は疑問の表情を浮かべてしまったようだ。だからなのだろう、エリーゼは説明を補足してくれる。
「街には人がいっぱいでしょ? 例え見えていなくても建物の中にはたくさんいるわ。その全部が私には察知できるの。だから察知できてしまう対象が多過ぎて、誰が犯人か断定できないってことなのよ」
「なるほどなのですっ。つまり誘拐犯の察知自体はおそらくできているけど、察知できてしまう対象が多過ぎて誰が誘拐犯かわからないってことですねっ」
なるほど。
つまり例えれば森には木がたくさんある。だけどそのたくさんの中の木の対象の1本だけを見つけるのは難しいと言う訳か。
なにか特徴、要するに強い敵意とかを持っている対象ならすぐに判別できるけど、そうじゃない場合は見分けがつかないってことなのだろうね。
気配察知には限界があるのです。(`・ω・´)∩
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「いらぬ神にたたりなし」連載中
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」完結済み
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




