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108話 囮捜査の開始。

【基本一日置きで夜の18時に更新します】

どうぞ、よろしくお願いします。



 

 そしてその後も、依頼人の家々を周った。

 だが得た情報はノーアとほぼいっしょで名前と年齢と髪の色と獣人の少女であることだけだったのだ。




 その夜、宿。

 僕たち『ひとつの足跡』は宿の食堂で夕食を摂っていた。

 食堂内は空いていて食事中なのは僕たちだけだった。

 なので依頼の話を誰かに聞かれることはないので、そのことについて話し合いをしながらの食事だった。




「わかっていることは少ないわね」




「むしろわかっている方が少ないですっ。ある日突然行方不明になったことがわかっただけですっ」




「そうじゃのう。犯人からの要求がないので身代金目当ての営利誘拐ではない。ましてや殺害されて遺体が見つかった訳でもない。こうなると、やはり攫われて囚われていると考えるのが普通じゃのう」




「そうなるよね……」




 そうなのだ。

 街の外に出た記録はない。身代金の要求もない。そして事件や事故に巻き込まれて死亡したというのもない。

 だとすると誘拐されてどこかに閉じ込められている可能性が高いのだ。




「あと、わかっているのが行方不明なのが獣人少女のみってことね。これは私の故郷で攫われたサイラとミーラ、そしてタマユラが匿っていたユミアとシリスとアンシュもすべて獣人の少女って事実と一致するわ」




「そうですねっ。そのサイラちゃんたち、ユミアちゃんたち5人の件も含めると、やっぱりノーアちゃんたちは誘拐団に攫われたと考えてるのが正しいと思いますっ」




 獣人族の少女という共通点がある事実は大きい。

 なので僕たちはやはり誘拐されたとして、それを実行した犯罪組織に囚われているとしか考えられない少女たちを救うことに方向性を決めたのだった。




「のう。サイラやユミアたち5人の件をズンドさんたちや冒険者組合や衛兵隊にも言わんかったが、なにか考えがあってのことかのう?」




 タマユラが僕たちを見回してそう尋ねた。

 そう。それは実は僕も感じていた。今日、行方不明者たちの家族と会話をしたのはリーダーであるエリーゼだった。

 エリーゼはズンドさんたちにサイラやユミアたちの件を話していない。そして依頼を受けた際に冒険者組合にも、街の治安を守る衛兵隊にも伝えていないのだ。




「それは用心のためよ。相手がそれなりの組織だったら、どこに監視の目があるかわからないもの」




「確かにそうですねっ。ご家族に教えたら、その周りの人たちにも知られる可能性は高いですっ。話が拡散して誘拐団の耳に入る可能性がありますっ。そうすると警戒されちゃいますっ。それに冒険者組合や衛兵隊にも内部に協力者がいることも考えられますからねっ」




 なるほど。

 確かにズンドさんたちにサイラやユミアたちの件を教えたら、身内やご近所さんに話してしまう可能性がある。

 どこに組織の人間がいるのかわからないのだ。これは行方不明になったノーアたちのためにも伏せておいたのは正解だ。

 それにエリーゼが言うように、誘拐団、違法奴隷業者たちの協力者もどこかにいるだろう。それが冒険者組合や衛兵隊の中にいないとは限らない。

 だとするとやはりエリーゼの判断は正しいと思えるね。




「うん。エリーゼの判断は正しいと思うよ。さすがエリーゼ。うん、お見事だよ」




 僕が思わずそう口にした。

 するとエリーゼは一瞬キョトンとなると俯いてしまう。




「……そ、そう。そう言ってもらえると嬉しいわ」




 なぜだろう。

 なんか甘酸っぱい感じの空気が漂っている気になった。

 すると、フララランとタマユラが互いに目配せをしてクスリと笑む。

 ……なにごと?

 僕は訳がわからず戸惑ってしまう。

 だが、コホンと咳払いしたタマユラが発言する。




「それでじゃがのう。これからどうやって捜索するのじゃ? 具体的に決めた方がいいと思うんだが」




「街中でひとりで出歩いている獣人少女を見つけて監視するのはどうですかっ?」




「それは無理じゃないかしら? もう4人も獣人少女が行方不明になっているのよ。警戒してもう娘をひとりだけで出かけさせる親はいないんじゃない?」




 なるほど。

 確かにエリーゼの言うことは間違っていないだろう。

 街の住民、少なくとも獣人族の間では連続少女行方不明事件は伝わっているだろう。

 なので、街中を歩いて獣人少女を見張る作戦はできそうにない。




「ひとつ手があるのう」




 なにやら考え顔でタマユラが発言するのであった。




 ■




 サンバーンメの街をひとりの獣人少女が歩いている。

 その少女は狐獣人だ。そのピンと尖った耳とフサフサの長い尻尾を時折動かしながら街中を散策しているのだ。

 服装は生成り色のチェニックと濃い茶色のロングスカート。庶民層の町娘に見える。

 その正体はタマユラだった。




「我が囮になるってのはどうじゃ?」




 タマユラはそう提案してきたのだ。

 これには危険すぎると僕とフララランが反対し、タマユラがやるなら私もやる、とエリーゼも立候補を言い出す。

 その後も話し合いは続き、結局タマユラだけが囮になることになった。




「我は強いぞ。攫われてもなんとかなるしのう」




 それは事実だ。

 なんせタマユラは本当は狐獣人じゃない。魔力豊富な魔物の妖狐なのだ。そこいらの人間が適う訳がないからだ。

 そしてタマユラひとりとなったのは、エリーゼでは問題があるからだ。




「確かに私は成人しているし、背が高いものね」




 そうなのだ。

 行方不明になったのは未成年の少女だけなのだ。

 エリーゼは背が高いし成人しているので厳密には少女ではない。

 なので本当は妖狐で年齢もかなり高いけど、小柄な上に見た目だけは13歳から14歳程度に思えるタマユラが囮となって街をうろついているのであった。

 そして僕とエリーゼ、フララランは遠く後方からタマユラを見張っていると言う訳だ。




 捜査1日目は街を貫く大通りを往復した。

 見目麗しい狐獣人少女がひとりで歩いている。

 時折興味を引いた商店の品を手に取ってみたり、串焼きを値下げ交渉して買っていたりする。

 その姿は町娘の格好とはいえ、愛くるしい美少女だけあって行き交う人々から注目されている。




「うまくやっているようね」




「そうだね。ちゃんと目立っているよ」




「そうですねっ。あれなら獣人少女誘拐団ならきっと目をつけると思いますっ」




 尾行のような形で距離を置き、離れず見張っている僕たちはそんな会話をした。

 そしてこの岩盤の上に築かれたサンバーンメの街の大通りの往復が終わる。

 日も傾いてきたので、今日はこれで終わりとなるのだった。



タマユラを囮に使うのです。(`・ω・´)∩



 


よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。



私の別作品


「いらぬ神にたたりなし」連載中


「生忌物倶楽部」連載中



「夢見るように夢見たい」完結済み


「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み


「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み


「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み


「墓場でdabada」完結済み 


「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み


「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み


「空から来たりて杖を振る」完結済み


「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み


「こころのこりエンドレス」完結済み


「沈黙のシスターとその戒律」完結済み



 も、よろしくお願いいたします。


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