106話 突然の謹慎解除。
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「リリエさんの訊いてみますっ。きっとなにか情報を持っているはずですよっ」
フララランはそう発言すると混んでいる窓口を避けて、やっぱり誰も並んでいない非常用窓口に向かう。
僕とエリーゼ、タマユラはやれやれって感じの顔になったが、仕方なくフララランに着いて行くのであった。
「……フララランさん、またですか?」
窓口に呼び出されたのはもはやお馴染みの受付嬢であるリリエさんだった。
そのリリエさんだが、もはや悟りの境地に達したのかその表情に怒りの要素はない。
ただ呆れ返っている感じでの応対であった。
「またですっ。あっちの掲示板にある獣人少女行方不明の件でお聞きしたいのですっ」
「フララランさんたちはまだ謹慎中ですよ。依頼は受けられません」
「情報だけでも教えてもらえませんか? もし謹慎期間が終わった時に依頼が残っていれば受注したいと考えていますので」
エリーゼがそう発言した。
パーティリーダーはエリーゼだからね。しかもちゃんと筋が通っているお願いだ。だからなのだろう、リリエさんは書架から該当する書類を持ち出し、受付の席に腰を下ろした。
「わかりました。あの依頼は合同発注された依頼なのです。行方不明になった少女たちの親御さんたちが共同で依頼料を払って冒険者組合に持ち込まれた案件です」
リリエさんの話によると親御さんたちも最初は衛兵隊に話を持って行ったらしい。だけど受理こそしてくれたものの、何日経過しても一向に進展がなかったので、冒険者組合の方にも依頼したとのことだ。
青空市の無愛想な店主さんが言っていた通り、この街の衛兵隊はあまり仕事熱心ではないように思える。
「そう言えば、私たちがスリを引き渡したときも衛兵隊は働き者って印象はなかったわね」
エリーゼとタマユラによると、ああ、わかりました。じゃあ牢に入れときます、程度の反応だったそうだ。
そしてゴブリン出現の話をしても、魔物は冒険者組合の担当だからなあ、となんともやる気のない曖昧な返事をしたそうだ。
やっぱりこの街の衛兵隊には勤勉な印象がないね。
「依頼の背景はわかったわ。後は行方不明者に関してね。すべて少女なのよね?」
「そうです。すべて少女です。年齢は12歳から14歳。人数は4人。すべて街中で行方がわからなくなっています。買い物を親御さんから頼まれたり、友人と遊ぶために出かけたり、と危険な場所に出向いたりしていた可能性は低いですね。また念の為調べましたが街の外には出た記録はありません」
なるほど。
街中で行方不明となり、街からは出ていない。
これはやはり違法奴隷の組織の関与が濃厚になって来たね。
僕たち4人は互いの顔を見て意見が一致しているのを確認すると深く頷くのであった。
そんなときだった。
聞き覚えのある男性の声が窓口の奥から聞こえてきたのだ。
「リリエ、ちょっといいか? ……お、ちょうどいい。『ひとつの足跡』もいるのか」
支部長のロイドさんだった。
熊耳をピクピクと動かしながらその巨体で僕たちの方へと近づいて来たのだ。
「お前ら全員に話がある。至急、俺の部屋まで来てくれ」
何事?
僕たち4人は先頭を歩くロイドさん、そしてそれに着いて行くリリエさんを追って支部長室まで向かうのであった。
「私たち、なにもしてないわよね?」
「そうだね。別に情報を聞いていただけだし」
「そうですねっ。依頼を受けた訳じゃありませんっ。話を聞いていただけなので違反行為はしていませんよっ」
「そうじゃのう。冒険者としての活動は一切してないしのう」
僕たち4人に呼び出される理由が一切浮かばない。
しかし来いと言われたので行かざるを得ないだろう。
なので僕たちは疑問のまま先行する2人の後を追うのであった。
そして支部長室に到着した。
4人がけのソファに僕たち『ひとつの足跡』が並んで座り、その対面にはロイドさんとリリエさんが座った。
「お前ら、ヨンバーンメの領主となにか関係があるのか?」
突然、ロイドさんがそう尋ねてきた。
「ヨンバーンメ? ……確かシャルロットお嬢様のお母さんだったわよね?」
「そうですねっ。猫のシローヌを助けたときに知り合いましたねっ。……えっと、なんて名前の伯爵様でしたか憶えてませんっ」
「確か、ザボルーグ女伯爵じゃったかのう? お嬢様から招待状をもらったのう」
そうなのだ。
このサンバーンメの街に来る途中の野営地で知り合ったのがザボルーグ女伯爵様で、そのお嬢様がシャルロット様だったはずだ。
そしてエリーゼが代表して、その経緯をロイドさんたちに話したのであった。
「……なるほどな。それで緊急指名依頼って訳か」
ロイドさんは腕組みをして頷いた。
どうやらひとり納得しているようだが、僕たち『ひとつの足跡』の4人はもちろん組合の受付嬢であるリリエさんも話がわかっていない。
「あのっ。その伯爵様がどうしたんですかっ? なにか私たちに関係があるんですかっ?」
我慢の限界だったのかフララランが喰らいつくようにロイドさんに質問する。
するとロイドさんは、まだ説明していなかったことを理解したようで、苦笑しながら口を開くのであった。
「ヨンバーンメの冒険者組合から魔道具通信で連絡が来たのだ。お前らが貴族からの緊急指名依頼を達成したことがな」
なるほど。
冒険者組合には各支部と魔道具で通信ができると聞いたことがある。
なので女伯爵様御一行がヨンバーンメの街に帰還して、そして約束通り依頼票を組合に提出してくれたらしい。
「ならお嬢様たちは無事に到着したってことよね?」
「そうですねっ。それでちゃんと依頼票を提出して報告してくれたことになりますねっ」
僕はあの女伯爵様を思い出す。
厳しい人っていう印象があるけれど約束はしっかり守ってくれそうな人物に見えた。
そしてそれは間違っていなかったということだ。
「でな。お前らの謹慎が明けた。本日付けで冒険者復帰という訳だ」
「「「「……えっ!」」」」
僕とエリーゼ、フラララン、タマユラは同時に叫んでしまった。
それもそのはずだ。なぜあと6日残っている謹慎が一気に解除されてしまったのか、その理由がわからない。
あの粘り強いフララランが交渉しても、もう限界だ、と跳ね除けられていたにも関わらずだ。
「貴族からの緊急指名依頼達成と言うのはそれほど重いのだ。ましてやヨンバーンメ領主でもあるザボルーグ伯爵家だからな」
ロイドさんやリリエさんの説明によると貴族からの依頼を達成させると言うのは冒険者組合にとっても喜ばしいことらしい。
世間に対して組合の箔が付くことになるようだ。
「……そしてその冒険者パーティが謹慎中と言うのも世間体が悪い。そのための特例だ」
「……そ、それは嬉しいのですが、いいのですか?」
エリーゼが恐る恐る尋ねる。
その気持ち、わかるよ。
だって僕たちが受けた伯爵家の依頼って、ただ高い木の上から降りられなくなった猫を助けただけなんだよね。
だけど、組合としては依頼の中身よりも貴族家からの依頼を達成した事実の方が重要らしい。
お貴族様はすごいのです。(`・ω・´)∩
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「いらぬ神にたたりなし」連載中
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」完結済み
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




