老人曰く
あるギルドの隅っこに、朝からぽつんと座っている老人がいる。
ロクに依頼も受けられない、立って歩けるのがやっとの老人である。
「もう!今日も来たんですか!?」
その老人を気に掛ける若者冒険者は心配そうに駆け寄ってくる。
「若い子は元気でいいねぇ。」老人は呑気にそう答えた。
「そうじゃなくて、なんで来るんですか!家が近いとはいえ...」
「雰囲気が好きなんだ。昔を思い出して。」
「そうですか...でも、無理はしないでくださいね。」
「お前さんもな。」
どこか納得できない様子の冒険者はカウンターへ歩いて行った。
昼間になり、人が増えてきたころ、少年がこちらに走って来た。
「なぁじいちゃん!また昔の話聞かせてくれよ!」
「もちろんだとも!途中で忘れてしまうかもしれんが。」
「むかしむかし、赤く大きな竜が...」
老人は夕方になるまで話し続けた。
「竜と冒険者は仲良くなり...そうしてその土地は平和になりましたとさ。」
目を輝かせながら少年は質問した。
「それで、その冒険者はどうなったんだ!?」
「その冒険者は...すまん、もう忘れてしまった。」
「そっかぁ...じゃあおれ、そろそろ帰るよ!うちの母ちゃん怒ると怖いんだ。」
「じゃあな!」
「じゃあ。母親を大切にな。」
少年は頷き、家へと走って行った。
「今のって...」
一方、若者冒険者は任務から帰り、話を盗み聞きしていた。
「すみません、気になることがあるんですけど。」
「はい、なんでしょう?」
疑問に耐えられなくなった冒険者は受付へ質問した。
「あのおじいさん、何者なんですか?
前、父親から聞いた話と全く同じ...それどころか当時のことを詳しく話していました。」
老人が話していた赤い竜と英雄の話である。
「ええとですね...わかりました、今から言うことは内密にお願いしますね。」
「はい、口の堅さには自信があるので。」
「実は...あの英雄なんです。私も信じられませんが。」
「本当ですか?おとぎ話ではなく?」「はい。記録にも残ってます。」
「...詳しく見せてください!お願いします!僕の憧れなんです!!」
「わかったから!声が大きいです!」
辺りが暗くなり、ギルドが騒がしくなってきた。
今日の冒険の話を肴に酒を飲むのが冒険者の日常である。
そんな時に、老人はあるエルフに話しかけられていた。
「...お高くとまってると思ったら、こんな田舎にいるなんてね。」
「誰だ?エルフはここ何十年と見てないが。」
「私だよ、戦争の最前列にいたんだけど。覚えてる?」
「...あぁ!あの矢鱈と強いエルフか!魔法で何回か死にかけたぞ、クソババアめ。」
「貴方だって頑丈すぎ。大体、竜と友達になるなんておかしいでしょ。」
「友達ではない、妻君だ。」
「もう驚かないよ。戦争が終わった後、貴方も竜も強すぎて魔族や精霊みんなが恐れてた。もちろん私も。」
「嘘つけ、今更カマトトぶるな。」「嘘じゃないよ。二度と戦いたくない。」
「もう老人だ、昔のようには動けん。」
「60年って、人間にとっては人生の大半だもんね。そりゃそうか。」
「歳を取るというのは嫌だねぇ。酒も飲めない、体を動かすことすら危うい。」
「老いると誰でも丸くなるよね。精神的な意味で。」
「...葬式には行ってあげるよ。」
「来るな、お前がいると怖くて逝けねえ。」
「そうかもね。じゃあ、会うのはこれで最後になるかな。」
「ああ、じゃあな。」
「あとババアじゃなくてお姉さんな。」
そんな言葉を交わし、エルフと老人は別れを告げた。
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