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仁義の死闘 ~Mafia War~  作者: レイ・R・チャールズ
ベトナム帰還兵 死闘編
6/44

 スカレッタファミリーの幹部兼会計士のヴィクター・ジルバは、エイシアの依頼案件にあたっていた。

 エイシアが10万ドルで購入したい土地があるが、持ち主のロシアンマフィアが100万ドルを高額要求しているという案件。

 交渉相手はロシアンマフィアの幹部フランツ・シュルツ。

 ヴィクターは、10万ドルで土地の件から手を引くように提案した。しかし、

「それは無理な話だな。ヴィクターさん、あの土地の値段はそんなちっぽけなものじゃありませんよ。……だが、まぁ、あなた達がどうしてもと言うのなら、50万ドルで手を打ってもいいですよ」

 こちらの足元を見ている。ぼったくり商法だ。

 企業が引っ掛かった土地売買の話、そう簡単にまとめる気はないのだろう。

 つり上げるだけつり上げようって魂胆か。

 ヴィクターは相手の思惑を察したうえで、なに食わぬ顔で、交渉を続ける。

「いえ、そこを何とか10万ドルでお願いします。この売買の話、あなた達にとっても悪い話じゃないと-」

「しつこいぞ! 100万ドル積まれなきゃ聞かんと言ってるだろ!」

 ついにシュルツはぶち切れた。恫喝(どうかつ)だ。

「おぉ、怖……それでは今日はこれで失礼します。ですが、10万ドルで手を打つのがいいと思いますが」

 ヴィクターはそう言うと、しれっと皿のクッキーを頬張り席を立った。

 

 

 アントニオ・ヴァリーは部下達を連れて、フランク・サンダ組の仕切っているカジノクラブに向かっていた。

 ロシアンマフィアのチンピラ数名が、荒稼ぎしているらしい。

(よくもうちのシマで……ええ度胸しとるやんけ)

「あぁ、儲かった儲かった」

「さすが、兄貴! 兄貴がいたら怖いもんなしですね」

「マフィアが経営してる店っていっても、兄貴がちょっと吠えたら、すぐ金出す」

 チンピラ達は上機嫌で兄貴分をほめちぎる。

「そうだろ、そうだろ、もっとほめていいんだぜ」

 兄貴分も浮かれまくっている。

 そこへ、子分数名を連れて優男が現れた。

「なんだ、お前ら」

「俺達とやろうってのか?」

「どこの組だ?」

 よほど兄貴分の腕っぷしが強いのか、余裕の態度だ。

 だが、優男が手に握っている肉切りナタに気付いていたら、しっぽを巻いて逃げただろう。

「わしか? わしゃ、サンダ組のもんや。おまえら、ちょっとお遊びが過ぎたな…落とし前つけてもらうで!」

 アントニオは兄貴分を殴り倒すと、近くの廃墟に引きずって行く。

「なにすんだ!」

 チンピラの一人がアントニオに殴りかかっていく。

 素早くよけると殴り飛ばし、その倒れ込んだ体を踏みつける。

 そして………ダァン!

「ぎゃああああ!!」

 振り上げた肉切りナタで、左腕をぶった切る。

 響きわたる絶叫、血を流しながらのたうちまわるチンピラ。

 兄貴分も他のチンピラ達も顔色を失った。

 アントニオは顔色一つ変えず、兄貴分を見下ろす。ふと微笑んだ。

「お前は右腕やで」

「……や…やめろ」

 恐ろしさで足がすくみ、誰ひとり動ける者はいなかった。

 ゆっくりと兄貴分に近づき、ダァン!

「ぅああああ!!」絶叫が響きわたる。

 兄貴分の右腕をぶった切った。

 廃墟から絶叫が次々と聞こえ、やがて静かになった。

 彼らはこの日、イタリアンマフィアの恐ろしさを身をもって知った。

 決して、イタリアンマフィアのシマに立ち入ってはならない。

 決して、サンダ組の(微笑みの悪魔)に関わってはならない。

 

 

 ショーンはアパートの一室で目を覚ました。

「ダメよ、まだ寝てなきゃ」

 昨夜、見ず知らずの自分をかくまってくれた女だ。

「あんた、ずいぶんうなされてた……まだ、無理しない方が良いんじゃないの」

 ちらりとこちらを見ると、また気だるげな様子で窓の外を見ている。

 昨夜は気付かなかったが、前腕や足にタトゥーが入っている。

 兄貴分が入れてるのとは違う、繊細なデザイン。

「そのタトゥー、綺麗やな」

 その言葉にまたこちらを見て、今度はベッド脇にくる。

「これ、あたしが入れたの」

「へぇぇ……お前、上手いな」

 羽根と名前、何かの模様。右と左、似た感じのデザイン。

「アンジェラ……あんたの名前?」

 腕のタトゥーを撫でながら、首を横に振る。

「……子供の名前……死んじゃったの…」

 寂しげな微笑み。忘れられない、忘れたくないのか……

 ショーンは女のギターを手に取ると、兄貴分が弾いてくれた曲を弾いた。

(馬鹿な兄貴や…強くもないのに意気がりやがって……)

 

 

 トーマス・スカレッタは、長女ジューンとフランクリン・ベイトマンの結婚式に、妻マリア、次女ジーナと出席していた。

 ただ、結婚式にマフィアの会長が名前を出すと、波風が立つと配慮して、親戚一同に混じっての参加だ。

 そのため、式の前に花嫁の控室で家族水いらずで言葉を交わす。

「ジューン、綺麗だな……」

 ウェディングドレスの娘に、トーマスは感無量だ。

 この子の健やかな成長を望み、マフィアと切り離してきたのだ。

 自分とは違う、カタギの世界で幸せに暮らして欲しい。

「お父さん、お母さん、今日まで育てて下さってありがとうございました…」

 頭を下げるジューンに、思わずマリアは泣いてしまった。

 そんなマリアの肩を優しく撫でながら

「おい、めでたい結婚式に泣くやつがあるか…」トーマスが声をかける。

「ほんまやで、お姉ちゃんもせっかくのお化粧が台無しやわ」 

 もらい泣きする姉の涙を、優しくジーナがぬぐった。

 

 結婚式の会場には多くの有名人が出席していた。

「トーマスさん、お嬢さんのご結婚おめでとう。いい婿さんをもらったね」

 大物政治家オリバー・クルードも出席している。

「あれは時期大統領候補のオリバーじゃないですか……あの人もトーマスさんの知り合いですか」

 大物出席者が驚きを隠せないでいると、隣の総合企業グループエイシアの社長が、葉巻を吸いながら話す。

「ええ、トーマスさんは政界とも繋がりがありますから」

 そんな中、トーマスに一人の男が挨拶に来る。アメリカの全てを支配する[裏の大統領]と呼ばれる財界の巨頭、ウォルター・ドナルド・トーマスである。

 気付いたトーマスもすぐ挨拶する。

「ウォルターさん、これはこれは…わざわざお越しいただきまして…」

「式の名簿に君の名前が無かったから見落としてしまって、後で知って急いで駆けつけたんだよ。奥さんもご立派ですな。苦労して育てた娘さんの結婚を、陰ながら祝福するなんて……今までよくやってこられましたなぁ」

 トーマスの隣で、そっとマリアは一礼した。

 

 フランクリンとジューンの結婚式が始まった。

 神父と新郎フランクリンの前まで、新婦ジューンを引率するのはギデス氏だ。

 多くの参列者の祝福の拍手の中、トーマスとマリアも拍手を送った。

「それでは、ここに二人を夫婦と認め、二人の愛を永遠に祈る」

 神父の言葉に、二人は祝杯をあげた。

 

 

 披露パーティーに出席していたトニー・ヴェルセティは、呼ばれて電話に出ていた。

「トニーだ」

「サミュエルです。サンダ組の若いもんが、さっきシュルツ組の若いヤツにばらされたと連絡が入りました。兄貴、予定より早いけどやりましょうか」

「……よし、やれ」

 

 

 

 

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