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仁義の死闘 ~Mafia War~  作者: レイ・R・チャールズ
ベトナム帰還兵 死闘編
5/44

 ヴィト、アントニオ・ヴァリー、マイケル・レオーネは、ヴィクター・ジルバを呼んで、秘密裏に一計を案じた。

 それは、マイケルをリーダーにした作戦部隊をつくり、エイシアのような企業からの依頼を戦略的に解決する。

 だがそれは表向き、裏では兵隊達をまとめ上げていこうというもの。

 常々、ヴィトとアントニオは、マイケルならトニー・ヴェルセティの後を継げるのではないかと考え、三人で話し合っていた。

「なるほどな…確かにトニーの兄貴がファミリーの会長になれば、マイケルがヴェルセティ組を継げるな」

 ヴィクターは何度もうなずきながら納得した。

「よし、わかった。今度の幹部の会議に持ち出す」

 OKとこころよく請け負った。

 

 数日後、スカレッタファミリー幹部の会議が開かれた。

 今やファミリーの数は、1万人に膨れ上がっている。

 この日、ヴィクターは議題の提案に手を上げた。

 居並ぶ幹部達を前に、マイケルを隣に控えさせ 

「このマイケル・レオーネを社長にして、企業向けコンサルタント会社をつくろうかと思います。表向きはコンサルタント会社ですが、裏は組の事務所として使うつもりです。先日のエイシアの件のように、企業からの依頼を引き受ける窓口が必要だと思います」

 しかし、反対意見が次々とあげられる。

「おい、ヴィクター、俺達に一言あるべきだろ」

「そうだ。こんな大きな事は、まず俺達に聞いてもらわんとなぁ」

「マイケルはまだまだ青い。それならアントニオがちょうどいい」

「まったく…頭でっかちな奴等でかたぎの会社ごっこか」

 普段あまり働いていない幹部連中が騒ぎ出す。

 これに、サミュエルが切れてしまう。

「がたがた言うな! ヴィクターの意見につまらん口出しするな!」

「なに! サミュエル、お前こそ話に入ってくるな! 黙っとけ!」

 ダンッ! 頭にきたサミュエルは、机を拳で叩き怒鳴る。

「お前ら、兄貴の前でいい加減にしろよ! 人に意見する前に、自分が分相応に働くのが先だろ!」

 緊迫した空気が広がる。

「……まぁ、いい。サミュエル、その元気、ロシアンマフィアに取っておけ」

 幹部達の中で最もトップ、トニー・ヴェルセティの一声。

「コンサルタント会社か、いいな、その話。お前とマイケルに任せた」

 トニーの言葉に、騒ぎは収まった。

 

 

 トーマス・スカレッタは組員達と家族とは、切り離した生活を送っている。

 居間で家族と過ごしていた時のこと、長女の様子がいつもと違うと感じた。

「ジューン、どうした? 何かあったのか?」

 トーマスには娘が二人いる。実子ではなく養女だ。長女はジューン、次女はジーナ。

 長女のジューンは、26歳、薬剤師だが今は退職中。聡明で温厚、両親の話を良く聞く出来た娘。

 次女ジーナは、22歳、フリーター。明るく天真爛漫、自由奔放な娘。

 二人がまったく違う性格なのは、養女ゆえか。

 長女は結婚話が進んでおり、最近情緒不安定なのもそのせいか。

「お姉ちゃん、恋人のフランクリンさんとの結婚が上手くいくか心配してるのよ」

「ジーナ! なんてこと言うの」

 トーマスの妻マリアがたしなめる。

「だって本当のことでしょ。私ならパパの悪口言うヤツ、こっちからお断りよ」

「! ジーナ! いい加減にしなさい!」

 まったく悪びれずにずけずけ言うジーナを、マリアが叱りつける。

 そんな二人を取りなすように、ジューンが

「……きっと、私に足りないところがあるんだわ」

 微笑みながら呟く。

「あ-辛気くさ。パパ、今から買物行きたいから、お小遣いちょうだい」

 長女を気遣う雰囲気を振り切るように、ジーナはトーマスから小遣いを受け取ると、さっさと出かけてしまった。

 そんな次女に何も言わないトーマスに、マリアはため息をつく。

「はぁ、あの子には本当に手を焼くわ……もう! あなたが甘やかすから…」

 ファミリーの会長も、家では形無しだった。

 

「あんた、頼むわ」

 若い組員が運転手に指名された。ジーナに声をかけられてオタオタしている。

 マイケルは指名された若い組員に、強く念を押した。

「いいか、会長の娘ってことを忘れるな」

 ファミリーには厳しい掟がある。会長の娘に手を出したら即、制裁だ。

 夜の街へ繰り出し、買い物を楽しみ、疲れたらバーで休憩。

 早速、買ったばかりの服を車中で着替える。

 ふと、バックミラー越しに若い組員と目があった。組員は慌てて目を反らしたが、若い娘ジーナの色気に惹かれているのは明らかだ。

「ねぇ、あんた名前は?」

「ヒューガ・ミチといいます」

 ヒューガは終始おどおどして、今もジーナから視線を外している。

 そんなヒューガにいたずら心がわき、甘え声で頼んでみる。

「ミチ、どっか人の居ないところへ連れてって」

 

 夜の波止場はほとんど人気がない。

 座り込んでぴたりと寄り添うジーナとヒューガ。どこからみてもカップルにしか見えない。

 誘われるままキス。ヒューガはジーナにはまってしまった。忠告されても、目の前の誘惑には抗えない。

「なぁ、ミチ……ホテル行こ…」

 ヒューガは抗えなかった。

 

 

『ベイトマン先生、ベイトマン先生、内科まで』

 アナウンスで呼ばれ、フランクリン・ベイトマンは急いで内科医務室に向かった。

 そこには、トーマスとマイケルが居た。

「フランクリンさん、はじめまして。私、ジューンの父親、トーマス・スカレッタと申します」

「これは! どうも、ご挨拶が遅れました。はじめまして、フランクリン・ベイトマンと申します」

 突然の来訪に驚きつつも、挨拶が交わされる。

「先生、どこか外に食事でも」

「いいですね。しかしあいにく、1時に仕事が入っていまして…どうでしょう、病院の食堂では?」

 それではと、三人は食堂に向かった。

 昼時なため、食堂は込み合っている。空いてる席へ案内すると、フランクリンは食事を取りに行った。

 席で待っている間に、トーマスはマイケルにフランクリンとジューンの馴れ初めを話して聞かせる。

「ジューンがこの病院の薬局で働いていた時に、知り合ったんだ」

「いい人ですね。医者にしておくには、もったいないぐらいです」

 トーマスはフランクリンのことを気に入っている、とマイケルは察した。

 マフィアの会長を目の前にして、全く怯える様子がなく、いたって普通に接する度量。

 医者という仕事に誇りをもって勤める姿勢。

 そこへ、三人分の食事を持って、フランクリンが戻ってきた。ランチメニューはハンバーグセット。

「うん、美味い!」

「美味いんですよ、ここの食事は」

 美味しそうに食べていると、やがてトーマスが話し出した。

「フランクリンさん、私が今日ここに来た用件は、娘のことなんですよ。あなたのご家族は娘との結婚を、あまりよく思っていないそうですね……。私はそんな結婚をして、娘が幸せになれるのか心配でしてね…」

 その言葉に、フランクリンは手を止め、姿勢を正す。

「お言葉ですが、私は結婚する方はジューンさんだけと決めています。私とジューンさんが幸せな家庭を(きず)けば親は安心してくれると思います」

 視線をそらすことなく、きっぱりと言った。

 

 

 総合企業グループエイシアのギデス氏は、トーマスの長女ジューンを連れて、社長宅を訪れていた。

「社長、突然すいません。こちら娘のジューンと言います」

「ジューンです。よろしくお願いします」

「実は、娘はベイトマンという青年と、近々結婚式を上げたいと望んでいまして、どうか社長夫妻に証人に…」

 社長は黙礼すると、ジューンに庭を見せてあげるように妻に言った。

 二人だけになると、おもむろに口を開いた。

「何か訳ありかね」

「はい、実はあの娘はトーマス・スカレッタの長女でございます」

「トーマスの?!」驚く社長。

「はい。どうやら先方の親御さんが、マフィアの娘だと難色を示しているらしいんです」

「そりゃそうだろう。マフィアの、しかも会長の娘なんて誰でもそうなるよ」

 明らかに親御側に共感する社長に、ギデス氏は話を続ける。

「トーマスは、結婚式に顔を出さないと言ってます。まぁ、娘のこととなると、一般人よりも臆病になるものですね」

「しかし君、それは勝手だよ。人殺しも平気でするマフィアが、自分の子は立派な玉の輿に乗せたいなんて…」

 ギデス氏は紅茶を一口飲む。

「あの娘は養女なんです。孤児をスカレッタ夫妻が拾って育て上げたんですよ」

「……あの綺麗な娘さんが……そうか…」

 社長は黙りこみ、妻と一緒に庭を散歩するジューンに目をやった。

 おしとやかで、時々妻に見せる笑顔は可憐だ。マフィアの会長の娘でなければ、皆に祝福される結婚があげられるだろう。マフィアの娘でなければ……

 

 

 

 

 

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