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仁義の死闘 ~Mafia War~  作者: レイ・R・チャールズ
ベトナム帰還兵 死闘編
4/44

 そのころ、イタリアンマフィアとロシアンマフィアの二大勢力が、いつ闘いを仕掛けるか互いに睨みあっていた。

 

 総合企業グループエイシアはロシアンマフィアに恐喝されていた。

 ことの発端は、エイシアの社長が受けた接待。

 接待で行ったナイトクラブの女性と、一夜を共にしてしまったのだ。

「……あの時の女性がマフィアの情婦だったとは……面目ない」

 社長は最初に亭主に電話で(おど)された時、3万ドルで解決した。

 マフィアともめるのは得策ではない、少し目をつぶって金でおさまればと考えた。

 ところが、恐喝は続き、金額も増える一方、今回は50万ドルになってしまった。

 困り果てて社長は、エイシアの大黒柱ギデス氏に頼み込んだ。

 

 ギデス氏はイタリアンマフィアの幹部、会計士のヴィクター・ジルバに頼んで、ファミリーの会長トーマス・スカレッタへの面会をとりつけた。

 マフィアにはマフィアでなければ治められない。

 指定されたスカレッタ組の事務所に、緊張した面持ちでおもむいた。

 話はおおよそはヴィクターが伝えてあるようで、ギデス氏は要望だけを話す。 

「スカレッタさん、我々は出来るだけ穏便に解決したい、穏便にお願いします」

 そして、アタッシュケースをテーブルに置き

「これは、前金の20万ドルです。解決後は成功報酬として30万ドルを支払います」

「いや」即座にトーマスが断る。

「いや、ギデスさん。我々はこれを貰うわけにはいきません。我々がこれを貰えば、向こうへ渡す金がこちらに渡ったことになります。そうなれば、我々の品格が落ちてしまいます。ギデスさん、お金はしまってください」

 そう言って、依頼を引き受けたのだった。

 

 ヴェルセティ組の事務所では、トニー・ヴェルセティにヴィクターが今回の仕事の話をしていた。

「恐喝の男はニコライ。ロシアンマフィアです。情婦の働いているナイトクラブで、夜な夜な遊んでいると調べがついています」

「よし、わかった。組の若いの三人ほど連れて捕まえてきます」

 こう言ったのは、長年鉄砲玉として務めてきた、サミュエル・ジュデス。

 そこへ、トニーの妻アンナが昼食を用意してくれた。

「特別なものはないけど、どうぞ召し上がってね」

 ダイニングはニンニクと唐辛子の香ばしい匂いが広がっていて、思わず腹が鳴り出す。

 メインディッシュはペペロンチーノ。ラザニア等々。

「お! 姐さん、この唐辛子、ミーニの店のヤツですね。俺あそこの唐辛子が大好物なんです」

 ヴィクターはペペロンチーノにご機嫌だ。

「あれ? 兄貴だけミートソースですか?」

 確かに、トニーだけミートソースパスタが置かれている。

「違うのよ。ミートじゃなくて大豆よ。この人、脂っこいものばかり食べてるから、医者に止められてるんです」

 困った顔で話すアンナに、トニーは苦笑いだ。

 

 このころ、ヴィトはある願望を抱いていた。

 ヴェルセティ組を、スカレッタファミリー内トップの組にすること。

 そして、この願望に賛同した若衆、アントニオ・ヴァリー、マイケル・レオーネと共に日々仕事に励んでいた。

 アントニオは[微笑みの悪魔]と呼ばれ、普段は温厚だがやるときは容赦ない男。

 マイケルはヴェルセティ組若頭、大学卒、知的で冷静沈着だが時に冷酷な頭脳派の男。

 尊敬するトニー・ヴェルセティをもっと盛り立てたいと……

 

 ジョニーはスカレッタファミリーのシマのダイナーを訪れていた。

 エイシア恐喝の件を片付けるため、兵隊を探していた。

 やる気があって、顔の知られていないヤツ。

 厨房をのぞくと、目当ての見習いがいた。もう一人の若いヤツと、ゴキブリ退治に四苦八苦だ。

「おい! 何やってんだ!」

 見習いがすぐ顔を上げた。

 ジョニーに気づくと、慌てて走り寄り頭を下げる。

「兄貴、仕事ですか? おい! お前もこい!」もう一人を呼びつけた。

 呼ばれた若いヤツは、あまり覇気がなく陰気な感じだ。

「兄貴、こいつショーンっていいます。結構喧嘩強いんですよ。おい! 挨拶しろ!」

 そんな二人を観察しながら、ジョニーが言う

「まぁ、口数は少ない方がいい。おい、お前らに大事な仕事がある」

 今回のターゲットのことを説明しだした。

 

 その夜、あるナイトクラブでは例の恐喝男ニコライが、情婦と舎弟と飲んでいた。

「……ねぇ、ダイヤ付きの時計、欲しいんやけど」

 女はニコライにしなだれかかり、甘えた声でねだる。

「大丈夫ですよ、姐さん。そんなもん、いくらでも兄貴が買ってくれますよ」

「そうそう、もうすぐ50万ドル入りますから」

 エイシアへの恐喝は成功したものと、前祝いと皆浮かれている。

「兄貴、それじゃ、後は姐さんとゆっくりおくつろぎください」

 しばらくして、気をきかせて舎弟達は席を外した。

 

 一方、店の外では、ジョニーが見つけた若い見習いの二人が待機している。

 兄貴分は電話ボックスの中で、ショーンは外で、ターゲットが店から出てくるのを、今か今かと待っている。

 二人に与えられた仕事は

  [ニコライを刺し殺す]

 そして、少し離れた所から、ジョニーが二人を見張っていた。

「! 来たよ」

 店からニコライの舎弟達が出てきた。続いて、ニコライ、情婦。

「よし、いくぞ」

 兄貴分がショーンに声をかけるが、ショーンは動こうとしない。

 ここにきて怖じけづいたのか。仕方ない……

 ナイフを握りしめると、そっと一人で近づいていった。

 ニコライにあと3mまで近寄る、

「ぅああああ!」

 背後からぶつかっていく。が、かわされてしまった。

「こんのクソガキャ!」

 逆に舎弟に銃で撃たれてしまった。

 舎弟達が逃げ去った後、血まみれの兄貴分にショーンが恐る恐るかがみこむ。

 と、兄貴分が指先を握りしめてきた。

 だが、その目に力はなく、息も絶え絶えだ。

「兄貴……兄貴…放してくれ…なぁ」

 ふいにショーンは怖くなって逃げ出してしまった。

 ジョニーは失敗したと分かると、すぐさま電話でプランBへ変更と、ヴィト達に連絡した。

 

 そうとは知らず、ニコライと情婦は突然の襲撃に驚き、慌てて車で逃げようとした。

 しかし、乗る寸前でヴィト達に捕まり、ニコライは拉致。

 情婦は車中で組員に囲まれ、今後二度と恐喝しないと約束させられた。

 手切れ金、5000ドル。

 マフィアとの約束を破った者には死。

 車外に放り出された情婦は、悔しさに泣きくずれた。

 

 ニコライは人気の無い川沿いに連れてこられた。

 そこには、舎弟達が袋叩きにされて横たわっている。

「よう、ニコライ。よくもうちの若いの殺ってくれたな」

 ヴェルセティ組で最も容赦ない武闘派、サミュエル・ジュデスが待っていた。

 まずい…殺される。

 舎弟が虫の息で、ニコライにわびる。

「すんません、兄貴。でも、こいつらから仕掛けてきて……俺仕方なく」

「落とし前、つけてもらうぜ」ドンッドンッドンッ!

 処罰は一瞬で終わり、あたりは静まりかえった。

「ニコライ、エイシアから手を引きな」

 ここでようやく、ニコライはすべてを悟った。

「…サミュエル…てめえ、きたねぇじゃねえか!」

 逆上して襲いかかるニコライ。ドンッ!

 眉間を撃ち抜かれ倒れた。

 サミュエルもヴィトと同じくベトナム帰還兵で、腕利きの殺し屋だった。

 

 ショーンは必死に逃げていた。

 とにかく、遠くへ、どこか遠くへ。

 ふと、ギターの音色と女の歌声が聞こえてくる。

 引き寄せられるように、アパートの一室にたどり着く。

 扉をたたき、呼びかける。

「助けてくれ! 追われてるんや!」

 扉が開いて、若い女が出てきた。

 ショーンを見ても全く動じることなく、黙って招き入れる。

 テーブルには酒とグラス。

 ショーンのような男が来るのに慣れているのか、女は酒を飲みながら

「あんたも飲む?」

 渡されたグラスの酒を、ショーンはあおった。

 

 

(ロシアンマフィア 死体で発見される)

 

「ギデス君! これが君の言う、穏便な解決かね!」

 デカデカと載った新聞をたたきながら、エイシアの社長は声を荒げる。

「警察はイタリアンマフィアを徹底的に調べるだろう。もし、うちが調べられることになったら、どうするのかね!」

 保身第一。今回の恐喝事件を警察沙汰にしたくない、と気が気でない様子。

 対するギデス氏は、余裕の表情で答える。

「ご心配なく、恐喝の件は警察に話さないでしょう」

「話さない? つまり、君は我々と奴等の間に信頼関係をつくったのか……よくもまぁしらじらしいことが出来るね」

 社長は呆れ顔で、表情ひとつ変えないギデス氏を見る。

「そうです。彼等なら利用価値があると、私は思います」

 そして、今回の件はイタリアンマフィアの価値をつり上げる、信頼関係を構築するために、行われたものであると説明するのだった。

 

「今回の件、ありがとうございました」

 後日、ギデス氏は改めてトーマスの事務所を訪れた。

「これは女の手切れ金です。どうぞお納め下さい」

 トーマスはこの来訪が、単なるお礼だけではないと察した。

「どういった用件ですか」

「……実は、私の知り合いにヤーデルという実業家がおりまして、今ある土地をロシアンマフィアから買おうとしています。1万ドルで買うと提示したところ、100万ドルよこせとつり上げてきました。どうでしょう、また力をお貸し願えませんか。報酬は1万ドルで」

 トーマスはおもむろに席を立つと、黙って窓から外を眺める。

「わかりました。お引き受けしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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