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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
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ダルシア帝国の継承者 3

 タリアと貨物船フォトン号の船長が要塞司令室に案内されると、大きなスクリーンが目を引いた。



「タリア、タリア……」

と、隣で船長がタリアの肩を突いた。


「あ、ごめんなさい。聞いてなくて」

と、タリアは弁解した。



 司令室に入った時、目の前に広がるスクリーンに目を奪われたのだ。



「ここに来ると、あのスクリーンの大きさに誰でも、驚きますよ」

と、穏やかに言う声がした。


「あの……、あなたは?」

と、タリアは聞いた。



 目の前に、およそタリアが軍人と考えるタイプとは違った感じの男性が立っていた。背は中くらいで、何となく太めに見えるが、あまり強そうには見えないタイプだった。



「私は、このヘイダール要塞の司令官、ヤム・ディポックと言います」



 タリアは、瞬きをした。何だか、一瞬ひどく眩しく感じたのだ。よく見ると、声のように穏やかな表情の人物が、ロル星団の元新世紀共和国の軍服らしきものを着ていた。



「ど、どうも。私は、タリア・トンブンです。タレス連邦から難民を連れてきました。私たちの船の入港を許可してくださって、感謝します」

と、タリアは言った。


「失礼ですが、初めて会ったと言うのに我々の言葉に随分堪能なのですね」



 普通なら他種族は別の言語を話しているはずなので、不思議そうにディポック司令官は言った。



「いえ、その、これは私たちの持って居る言語フィールド発生装置のお陰です」



 そこで、タリアは言語フィールド発生装置について簡単に説明した。そして、身に着けている個人用の装置を見せた。



「それは便利なものがあるのですね」

「あなた方には多言語の翻訳をするものはないのですか?」

「いや、我々は銀河帝国と言語はあまり違いがありませんので、必要なかったのです」

「そうですか。でもあなた方が言語フィールド発生装置を求める必要はないでしょう。ジル星団の人たちは大抵個人用でも多人数用でも常に持って居るものですから」

「そうですか。でも、我々も持って居ると便利でしょうね」

「ただ、普通の会話程度なら大丈夫ですが、言葉の解釈が重要な案件ではTPが必要になると思います」

「TPと言うのは?」

「テレパシー能力、つまり読心能力者のことです」

「読心能力者と言うと、超能力のことですか」

「そうです」

「残念ながら、そうしたことについて我々はあまりよく知りません」

「実は、今回私たちが母国から逃げてきたのは、そうした能力と関係があるのです」

「タレス連邦で何かあったのですか?我々はあまりジル星団と交渉はありませんので、何があったのかわからないのですが、先ほどの通信では難民と言われたそうですね。それで戦争でもあったのかと思ったのですが……」

と、ディポックは聞いた。


「いえ、戦争ではありません。政府が我々の自由を束縛するので、出てきたのです」

と、タリアは言った。


「あなた方の自由を束縛したのですか?」

「そうです。私たちは、いわゆる特殊能力者なんです」

「特殊能力者?すみませんが、我々の国ではそうした事は聞いたことがないので……」

「ええと、つまり、TP、読心能力や念力や透視等の特殊能力を持っているということです。ジル星団の方は、そうした者たちが結構いるんです」

「あなたは、その特殊能力者なんですか?」

と、驚いてディポックは聞いた。


「そうです。私はTPです。読心能力者と言われています。でも、人の心を読むというよりも、あなたが私に悪心を抱いていないということが分かる程度です」

「それで、特殊能力者の自由を束縛するというのは、どういうことなのでしょうか?」

「政府が特別な仕事をさせるために特殊能力者を捕らえているということです。主に、国防とか、間諜とかに関わる仕事です。ですが、我々の大多数は、平和な生活をしたいと望んでいるのです。それで、出てきたのです」

「タレス連邦には、そうした能力を持った人々が多いのですか」

「ジル星団の他の国と比べて多いかどうかはわかりませんが、最近は数が多くなったと聞いています」



 タリアのヘイダール要塞に関する知識は、主に、場所のデータと簡単な履歴だけである。例のリドス連邦王国の艦隊の軍人から聞いたものだった。ただ、その司令官であるヤム・ディポックという人物については、ほとんど聞いていなかった。

 話をしていると、ますます軍人らしからぬタイプだとタリアは感じていた。



「あの、こちらの星団での戦争はもう終ったと聞きましたが……」

と、タリアは恐る恐る聞いてみた。

 気になっていたのだ。戦争が終ったにしては、ここには軍人が数多くいるように思える。



「そうですね。銀河帝国と新世紀共和国との戦争は終りました。従って、新世紀共和国は今では銀河帝国の新領土になっています。」

と、ディポック司令官はさらりと言った。


「とすると、ここは銀河帝国の要塞ということになるのでしょうか?」

「いえ、ここは新世紀共和国のものではありませんし、銀河帝国のものでもありません。」

「というと、……」

「つまり、第三勢力というほどではありませんが、ひとつの政治勢力です。共和政体を志向する勢力です」

「要するに、銀河帝国の支配を逃れた新世紀共和国の人々がいる、ということですか?」

「まあ、そういうことです。大した力はありませんが、この宇宙の中でひとつの独立した勢力として考えていただけるといいのですが……」

と、ディポックは遠慮がちに言った。


「では、ここはいずれ、銀河帝国軍が制圧するためにやってくる可能性があるということですか?」

「それは充分考えられます。」



 それを聞いてタリアは、一瞬まずいところへ来てしまったのではないかと思った。

 だが、今の船の状態を考えると、すぐにこの要塞を出て行くことはできなかった。タレス連邦から逃れてきた船を追って艦隊が派遣されることを考えて、リドスへ直行する航路は避けて、大きく迂回してこのヘイダール要塞に来た。もしかしたら、追跡をかわせるかもしれないと考えたのだ。



「あの、司令官、実は……」

と、タリアが言おうとすると、通信員が急に遮った。



「大変です。要塞のすぐ近くで艦隊が出現しました。」

「何?帝国艦隊か?ワープ・アウトしたのか?」

「いえ、ワープ・アウトしたのではありません。ただ、突然艦隊が出現したのです」



 スクリーンを見ると、あまり見たことのない流線型の艦影があった。



「どこの艦隊か?」

と、すぐ傍に控えていた高級将官らしき人物が言った。


「タレス連邦と言っています」



 司令室にいた者達が一斉にタリアと船長を見た。



「あの、あれは、タレス連邦の艦隊だと思います」

と、タリアは言った。

 まさか、こんなに速く艦隊に追いつかれるとは思っていなかった。



 何かを言おうとする者達を手で制して、

「あの艦隊は何をしにきたと思いますか?」

と、ディポック司令官がタリアに聞いた。


「多分、私たちを追ってきたんです。私たちの出た後、政府が艦隊を派遣したという通信を入手しましたから」

「あの艦隊から通信です。スクリーンに出ます」

と、通信員が言った。



「こちらは、タレス連邦艦隊司令官カウベリア提督である。そちらにタレス連邦から逃亡中の指名手配犯、タリア・トンブンが乗った船がいるとの連絡があった。応答されたし」



 スクリーンに映ったカウベリア提督は確かに人類と同じ種族の顔だった。着ている灰色の軍服が暗い印象を与えている。



「指名手配犯?タリア・トンブンというのは、あなたのことですか?」

と、ディポック司令官が傍らにいるタリアに聞いた。


「そうです。でも私は、罪を犯したわけではありません。今タレス連邦では、政府の意に逆らって自由を得ようとするものは犯罪者なんです。私はただ、仲間の特殊能力者が自由を持てるように、他の惑星へ逃れることを援助してきただけです。私を信じてください」

と、タリアは必死になって言った。


「それは、本当です。長年の間、タリアはタレス連邦から多くの能力者の逃亡の手助けをしてきただけです。そうした能力者は、普通の生活をすることを望んでいた人々です。罪を犯した人たちではありません」

と、一緒に来たフォトン号の船長も主張した。



 ヤム・ディポック司令官は、どちらを信用するべきか迷った。目の前のタリア・トンブンは犯罪者には見えない。だが、タレス連邦の提督の言っていることも事実らしかった。



「タレス連邦の艦隊はどのくらいの規模だろうか?」

と、ディポック司令官が聞いた。


「艦艇の数は、五千隻ほどです」

と、通信員が言った。



 ヘイダール要塞の駐留艦隊は二万隻だった。数の上ではこちらが圧倒的に有利に思えるが、問題は、その武力だった。ディポック司令官はジル星団の政府の艦隊とは戦った経験がない。

 だから、彼らの艦隊の実力については未知数だった。



「どうしますか、司令官」

と、グリン参謀が言った。


「ともかく、応答してみるか。こちらの話にどんな反応をするか……」

と、ディポック司令官は言った。




「こちらは、ヘイダール要塞。私は、要塞司令官ヤム・ディポックです。タリア・トンブンは確かにいます。ですが、本人の言うところによると、犯罪者ではないと言っています」



 すると、タレス連邦の艦隊から返事が来た。



「我々はタレス連邦の政府から正式に派遣されたものである。タリア・トンブンはタレス連邦において指名手配犯である。だからその者の身柄を引き渡されたし。」



 命令口調のその言い方はかなり高圧的だった。聞いているヘイダール要塞の者たちですら、ムッとするほどだった。



「待ってください、ディポック司令官。タレス連邦では指名手配犯であったとしても、私は宇宙都市ハガロンでダルシア帝国の大使の下でダルシア国籍を取って、大使の秘書をしていました。だから、宇宙都市ハガロンでも、タレス連邦は私を逮捕できなかった。それなのに、ここではできると言うことでしょうか?」

と、タリアは慌てて言った。


「確かに、それは変だ。ここはヘイダール要塞であって、タレス連邦ではない」

と、ディポック司令官は言った。



「こちらはヘイダール要塞司令官ディポックです。タリア・トンブンは現在ダルシア帝国籍であって、タレス連邦の人間ではありません。したがって、ここヘイダール要塞では指名手配犯として、渡すことはできません」




 すると、いきなりタレス連邦の艦隊が発砲した。

 ヘイダール要塞は、その攻撃を難なく受け止めた。

 要塞を取り巻く流体状の金属は、その外側で少し波立たせた程度だった。

 その様子を見ていて、タリアはタレス連邦の艦隊の司令官が試しに撃っただけなのが分かった。ヘイダール要塞の実力の程は、彼らにとっても未知数なのだ。



「本気で撃ってきてはいないようだ。」

と、ディポック司令官は静かに言った。


「おそらく、試しに撃っているだけでしょう。ジル星団の艦がこのヘイダール要塞まで来たことはまだありません。したがって、この要塞の武器や実力についても、詳しく知らないでしょうから」

と、グリン参謀が言った。



 タレス連邦の艦隊はしばらく主砲を撃ち続けた。それがほとんどヘイダール要塞に影響を与えないことを知ると、急に撃つのを止めて、静まり返った。



 しばらくしてから、

「タレス連邦の艦隊から通信です」

と、通信員が言った。



「こちらはタレス連邦艦隊司令官カウベリアだ。できれば、そちらと直に会って話をしたいのだが、……」

と、臆面もなくカウベリアは言った。


 ディポックは先ほどのタレス艦隊の攻撃を無視して、

「それはこちらも同意する。このヘイダール要塞で会うことを希望するが、どうだろうか?」

と、ディポックは言った。


「まず、こちらの身の安全の保証を要請する」

と、カウベリア提督は言った。


「それは了解した」

「それなら、代表のシャトルを出すので、そちらに入れて欲しい」

「了解した」




 ディポック司令官は、振り向いて、

「タリア・トンブンでしたか?あたなも同席しますか?」

と、聞いた。


「よろしければ、同席させてください」

「あなたの身の安全は、我々が保証します」

「しかし、司令官。よほど注意しませんと危険ではありませんか?」

と、グリン参謀が言った。



 それには、タリアも同感だった。相手は何をするかわかったものではない。



「もちろん、だからこそ、要塞でやると同意したんだ」

「あの、ディポック司令官。向こうには、私のような能力者が協力していると思います。ですから、充分注意してください」

「多分そうだろう。部屋の周りや、タレスのシャトルについても、厳重に警備をするとしよう」



 それでも、タリアの心には不安が残った。何と言っても、このヘイダール要塞の人々はまだジル星団の艦隊や軍人と会うのは初めてなのだ。

 その上、タレス連邦の追っ手がタリアを指名手配犯としたことで、タリアは窮地に立ってしまった。もし、ヘイダール要塞の司令官がタリアとその仲間をタレス連邦の艦隊に引き渡したら、どうなるかと思うとタリアは不安だった。



 まだヘイダール要塞の司令官については良く知らないし、彼がタリアとその仲間をタレス連邦の艦隊に引き渡さないと決まったわけではないのだ。話の内容によっては、そうした事になるかもしれなかった。


 ここに彼がいたら、と、タリアは思った。

 あのリドス連邦王国艦隊のバルザス提督が居れば、何とかなるかもしれなかった。宇宙都市ハガロンでも、ダルシア帝国やナンヴァル連邦の他に味方と言ったら、リドス連邦王国しかいなかったのだ。

 ただ、バルザス提督はロル星団の銀河帝国とは何かトラブルを抱えていると噂に聞いていた。だから、何かあってもヘイダール要塞にくることはないと誰かが言っていたことをタリアは思い出したのだった。



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