玲奈さん、小説を朗読してみる
「こういうのはどうだろうか?」
沙都の見守る中、用紙を片手に玲奈は語り始めた。
沙都は今日も玲奈の為に作られた料理を運んでいた。
おフランスな料理で、“気まぐれ漁師の爽やかな朝日に魅せられて~山の恵みそうとジビエに乗せて~”のフルコースだ。
「玲奈様は結構無表情で食事をなされますけれど、
沙都は玲奈様が喜んでいるのを知っているであります。
“〆(^∇゜*)♪ 」
沙都が挙手する。
「少しお待ちください、玲奈様。私はその様な話し方しているのでしょうか?」
玲奈はにっこり微笑む。
「気にしてはいけません。あくまでもお話なので。続き、いきますよ!」
沙都は気合いを入れつつ慎重且つ丁寧、迅速に“気まぐれ漁師の爽やかな朝日に魅せられて~山の恵みそうとジビエに乗せて~”のフルコースを入れたワゴンを押していく。
突如轟音が耳と体を震わせる。見ると、玲奈のいる教室へと続く廊下の床に瓦礫が散らばっていた。
「こ、これでは床にある瓦礫に
ワゴンのタイヤが\ガッΣ(ノд<)となって⌒☆ポーンとなって、ガシャン!!となってしまう未来しか見えない。」
沙都の顔は見る見るうちに青くなった。その時何処からか快活な笑い声が!!
眩い閃光を背景に、人影が姿を現す!!
「その悩みこのエカテリーナが解決をして進ぜましょうぞ!!」
筋肉をポーズをとりながら、ピクピク動かす気色の悪い健康的な姿があった。
筋肉質な老女が、ムキムキさせながら近付いてくる。
「エカテリーナ先生何ですか一体!」
沙都は先程一部が破壊された壁から光を纏わせながら、ぬっ!と出てきた老女に呼び掛ける。
老女は朗らかな笑みを浮かべた。
「何、クラッシュのあげくにデブリとなってしまうルデジゥネを、ディスティニーから救ってあげようかと思いましてね。IT'S Mettre dans mon estomac! 」
「させませんそんな事!」
沙都は先端がゴムで出来た箒・・・・・
「少しお待ちください!私が玲奈様のお食事を横転させることが前提となっているのですか?」
「・・・あぁ、“Mettre dans mon estomac!”と言うのは、フランス語で、 胃袋に収めてやるぜ! 的な意味だそうですよ。つまり、デブリになる位なら食べてやるぜ!っという事ですね。」
「・・・えっと、どこからでしたでしょうか?あっ、ありました。」
玲奈はいそいそと用紙をめくる。
・・・・・・「させませんそんな事!」
沙都は先端がゴムで出来た箒と金属で出来た塵取りを取り出した。ワゴンを廊下の端に寄せエカテリーナに構えた。
エカテリーナの姿が消える。沙都は箒を振るう。ガシッと手応えがある。エカテリーナは沙都に高速でのラッシュを掛ける。沙都はエカテリーナの姿を捉える事が出来ない。
沙都は箒を縦横無尽に振るいまくりエカテリーナの攻撃を迎撃する。
激しく打ち合う。沙都の渾身の突きが、エカテリーナの腹を抉り押し飛ばす。
「何です。見えているのですか?」エカテリーナは不思議だった。
沙都はエカテリーナとの距離を詰める。突きからの細かく速く連続性の切り払いを連続して打ち込む。
エカテリーナが箒を何度か弾いた。
沙都は一瞬で防御の為箒を横にして柄を前に突き出した。今度は沙都の体が押し飛ばされる。
エカテリーナの体からは闘気がほとばしる。
老女が更に距離を詰め、沙都の目の前で開いた手を突き出す。老女の五体の表面がやけにハッキリと沙都の意識を縫い止める。
フッと気勢を殺がれる。刹那、視界が風景を捉えられなくなった。
一瞬の内に沙都は地面を転がりまくっていた。
沙都はなにがしかの攻撃を受けたのだ。ワゴンから数メートル離れてしまっている。
沙都は自身の非力を実感した。
「この脳筋め!!」
忌々しそうに吐き捨てた。
「脳筋とは、随分じゃないか。」
背後から声が聞こえる。後ろを振り返る。
玲奈が両手を大きく広げていた。
「何しているのですか?」
「えっ・・バックハグ?」
沙都が言い様の無い表情を浮かべる。
玲奈は話を変える事にした。
「沙都、君は脳筋な人というのをキチンと考えた事があるだろうか?
君は脳筋な人というのをキッチリ見て、考えた事があるのだろうか?
“脳ミソが筋肉”というワードは、脳ミソが筋肉的なもので出来ているかの様だ!と言っている。つまり何事も解決を図ろうとするときは筋肉を。たくましい筋肉でパパッと実行すればいいじゃん!!という単純馬鹿の事を指している。と言われている。
が、私としては筋肉使う格闘馬鹿は、かなり頭を使っている印象なのだ。
仮に、こう考察してみよう。
君は今闘技場にいる。そして目の前に2人の闘士。
彼らは今まで自分の力を信じ、闘いに身を投じてきた。
今、彼らは決着を着けようとしている。
そこに外に魔物の群。その数凡そ一万。
闘技場の中にいた戦える人々をかき集め、彼らは言う。
《兎も角、闘えば良いのだろう!力でぶっ潰す!》
彼らは今までの闘いで培った経験と技術を総動員して魔物達と戦う。そして彼らは魔物の群れを退けた。
だが、あくまでもソレは一握りに過ぎなかった。
第2波第3波第4波と続き、倒し切れない魔物で大地が埋め尽くされる。そして、小高い丘の上に魔物の一団が姿を現す。
更に丘の上の一団に、この大群の大将の魔物がいた。その魔物はこの場にいる一番強い闘士が十人ばかりでも勝てることは無い。それほどの強さだった。
人の側に絶望が広がる。
誰も彼もこの場にいるもの皆、“自分達は終わりだ!”と確信した。
その時突然、人と魔物の間に眩い光が現れる。
「まだ、私の見せ場はあるのかな?」
優しい声が戦場と化した平地にパッと聴こえる。軽やかな鐘の様だった。
声の主は若い女だった。彼女はよくとおる声で短い質問をし、状況を把握したのか、魔物の一団へと向き直る。
止めろ早く逃げろとの声に、大丈夫の一言。
勝てるのか?の声に、
「広範囲に火力のごり押しで勝てるでしょ!多分!」と返す。
そして彼女は最大の火焔魔法“紅き迷宮より出ル灼熱の蜃気楼”を放った。
だが、幾ら広範囲魔法と云えども、大地を埋め尽くさんばかりの魔物の群れの一角を切り崩したに過ぎなかった。
そして、莫大な魔力の消費。彼女がどれだけの最強の魔術師だとしてももう戦う力は無い。
「もう無理だ下がれ!!」
「魔物の軍団がいるぞ!!全員生かして帰すな!!地平の果て迄魔物の死体で埋め尽くしてしまえ!!!」
女は大声で誰ともなく呼び掛けつつ虚空から硝子瓶を出して中身をあおる。
「我が紅蓮の怒りをその身で味わえ!!“紅き迷宮の蜃気楼”」
女は魔法を放ち、硝子瓶をあおり、魔法を放ち、硝子瓶をあおり、魔法を放ち、硝子瓶をあおりをざんざん繰り返し続けた。
そして大地は何時しか魔物の消し炭で埋め尽くされる事になった。
さて、ここで、疑問が浮かぶ。この魔術師の女は脳筋といえるのではないかと。
此処で、脳筋の定義だが、
一、馬鹿であること。
一、ともかく力業。
一、何も考えない。
彼女はこの定義を満たしているのではないか。
そして、闘士の2人は皆と力を合わせ魔物の群れの驚異に立ち向かった。
自身にある知恵をフル活動させることによって。
つまり、闘士といえども馬鹿・力業・常時無心とは言えず、
魔術師といえども馬鹿・力業・常時無心で戦い、頭を使ってない。
脳筋とは、何を指すのか。どう言うことなのだろうね。」
「火力馬鹿ってことで良いんじゃないですか?」
「脳火力って事かな?ところで、種類別でいえば、弓系でも手数押しの馬鹿がいますけど、彼等は脳手数とでも言うのでしょうか?」
「兎も角“殴れば”だの、兎も角“火力で”だの、兎も角“手数で”だの数え上げれば切りがありませんが、脳筋=単細胞=単純(馬鹿)は、とても承服出来る代物なはないのです。今一度単純とはなんなのか、考えて見ようではないですか?」
だが、今一度よく考えて欲しい。今一番重要なのは、沙都が用意してくれた玲奈の御昼御飯が筋肉ムキムキの人に奪われそうになっているということなのだ。
「・・・・玲奈様。この話オチはあるんですか?それと、もう朝のホームルームの時間が近付いているので教室に行きませんか。」
「何故だか、冷たくないですか?」
「いえ、普通です。」
「沙都はこの小説を途中まで聞いてどう思った?」
「・・・・玲奈様は、脳筋と脳筋とは言えない物の中に共通する代物が脳筋とソレでない物の中にあると認識してると。
そして、玲奈様は脳筋を構成する定義、項A・項B・項Cに対し脳筋でない物との間にも、項A・項B・項Cが存在すると、ので、実質脳筋とソレでない物が定義の集合としては同一であると認識出来ると言いたい訳ですよね。」
「・・そう・・・なのかな・・・???」
「つまり、対象Sと対象Nはそれぞれの定義集合Γ(ガンマ)・ε(イプシロン)があり、定義集合Γ・定義集合εの対比では同一、対象S・対象Nの対比では非同一性を感じる以上、それぞれ定義X・Yを対象Sと対象Nは内包しているのでは?という仮説が成り立つとおっしゃりたい訳ですね。そして・・・・」
「沙都がイジメるぅ~!!!」
玲奈は教室へ泣きじゃくりながら逃げていく
「・・・・この単細胞が!!泣けば何でも赦されると思いやがって!」
沙都は毒づいた。
一、筋肉的な解決・用法以外の興味が薄い。
御世話するために沙都は玲奈の後を追うのであった。