玲奈さん、告白を聴く
「・・・・・・好きなんだ」
玲奈はぼんやりした表情で、鷹矢悟史から告白をされていた。
その光景に出くわした沙都は蒼白、佳奈多は大はしゃぎという対極の反応をしめしつつ部室の入り口で中の様子を伺っていた。
「・・・良いのではないでしょうか・・思い・伝わります。」
沙都は玲奈の発言を聞き、泣き崩れた。
沙都は鷹矢悟史の良い噂を聴いたことはなかった。鷹矢は、少なくとも沙都の眼鏡に適うことはなかった。
鷹矢はまさしく、今をときめくキモオタという人種である。ハッキリとキモいのである。鷹矢のキモ伝説は学内では有名らしく、枚挙に暇がない。
一、鷹矢のスマートフォンのカバーはマイムというアイドルグループに所属する“かがやきちゃん”という名の非実在美少女である。
一、鷹矢の彼女は三次元ポリゴンで出来た非実在美少女で名前は鷹矢リーコたん(鷹矢とは既婚済みである。)
一、鷹矢は基本百合設定が好みで、百合同人誌が大量に自分の部屋に堂々とコレクションしてる。教室でも百合同人の貴さを熱を込めて演説したとか。
一、今鷹矢はカッターシャツであるが、萌えるTシャツが透けている。
一、鷹矢は美術の授業で萌え絵を描き、萌えレリーフを作り上げた。更には自分のパソコンに自作のシールを貼り付けパソ美たんとよびかけている。
一、アニメ美少女のパンツをガン見してた。
数え上げれば切りがないが、ともかくキモいのである。
若しも此のまま玲奈様と鷹矢悟史が付き合うことになれば、エロ同人で描かれるアンナコトやコンナコトを彼氏特権を使い玲奈様に要求するかも知れない。
そして玲奈様は鷹矢悟史という名の変態キモオタに丸め込まれてその歪みきった性欲の餌食になる。
沙都はさめざめ泣いた。物凄く涙が溢れた。
沙都達の気配を感じたのか、鷹矢と向かい合う玲奈の目が出入り口にいる沙都と佳奈多と合う。
「何をしているんです。早く入ってきたらどうですか?」
佳奈多は玲奈の呼び掛けに、嬉々として教室の中に入りニヤニヤしながら3人を順繰りにみている。鷹矢は玲奈以外に人が居たことに驚いていて、沙都は床にくず折れたまま玲奈を見ていて、玲奈はじっと沙都を見ていた。
鷹矢が沙都に近付き二の腕を掴む。沙都が鷹矢の手を振りほどこうとする。
「取り敢えず、椅子に座れ。」
沙都は鷹矢の手を再度振りほどこうとする。
「良いから、取り敢えず椅子に座れ!!女だろうが!地べたに直座りしてんじゃねぇ!!!」
鷹矢の声がきつくなっていく。玲奈も立ち上がり無言で沙都に椅子に座るように促す。
玲奈に手を引かれ席につく。沙都は泣いている。
「どうし・た(ましたか)?」玲奈と鷹矢が同時に聞いてくる。佳奈多はニヤニヤが止まらない。
「・・・・先程の・・告白は・・・・本気ですか?」
「聞こえてたんだね」
「別に恥じ入る事じゃない。普通の愛情だ」
「玲奈様はいいんですか?」
「私?私が良いとか悪いとかじゃないですよ。他人の愛情はそれぞれ尊いものだから。当人の思いの丈が高い以上、阻む者は排除されるべきだとは思います。
例えそれがどの様に気色の悪いものだとしても。」
玲奈様は鷹矢を凝視し、鷹矢は眉をひそめた。
「梅川さん、気色悪いとは随分ではないですか。」
「ふふっ冗談ですよ。気味が悪い程度にしか、感じてませんよ」
「一緒だからね、それ。」
玲奈様と鷹矢は笑い合う。
「玲奈様本気ですか?」
「私は何時でも本気ですよ?」
沙都は涙が止まらなくなった。
佳奈多はニヤニヤが止まらなくなった。
暗い廊下、暗い教室、暗い女が1人、蝋燭の灯りを受けながら、机にかぶり付く様に覆い被さっていた。
蝋燭の灯りは揺れ、女の顔を照らし出す。
髪を振り乱し一心不乱に女は紙に何かを描いていた。時折その虚ろな目が、傍らにある本へと注がれる。
じっと見つめまた紙に何かを描く。
一見するとそれは魔方陣で、慎重かつ力強く図を描く。
「鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢の声がする。苦しいか苦しいだろ鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢を照らし出す火焔よ鷹矢を焼き尽くせ鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ね鷹矢死ねさっさと死ねよ!!!!!!鷹矢ーーーーーーーー!!!!」
「何してるの?」
沙都は体がビクッと跳ね上がった。後ろを振り向くと佳奈多が血の気の失せた表情で沙都を見つめていた。
暗い部屋であるにも関わらず表情が分かる。
「なんでいるの?」
沙都は不思議だった。もう夜である。もう学校にいて良い時間ではない。
「まさか忍び込んで来たの?」
佳奈多は沙都に聞き返す。不思議だった。沙都がなぜ此処にいるのか。
沙都は目を逸らせる。
「・・・藪から棒になんですか。後ろから声をかけるなんて人が悪いですよ。それにしても佳奈多さんはなんで此処にいるんですか?」
「私は忍び込んだんだよ。どっかの誰かが忍び込んでるのを見かけたから何してるんだろうって思ってね。」
沙都はおもむろに立ち上がる。
机の上に有った工作用ナイフを小刻みに振り回し、佳奈多へと距離を詰め続けた。
佳奈多は何度となく振り回される腕を、何度となく叩いて止める。
「・・・・なんで刃物振り回します?」
沙都は何でか分からない表情をうかべた。
「・・・呪い・・見られたら殺さないと・・・いけないから?」
沙都は正解を探り探り答えた。って感じだった。
「それはそう聞いてるからって事ですか?」
沙都はこっくり頷く。で、続きに取り掛かろうと刃物を小さく構える。
「取り敢えず刃物置きましょう。・・一旦置きましょう。・・良いから置きましょう。ね。・・・・・置きましょう。」
沙都は置くことは間違っているのでは?という表情を浮かべつつ刃物を机に置いた。
・・・・なんか色々考えることになった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ
「取り敢えず今まで言ったこと書いてみませんか」
「なんで?私覚えていますよ」
「取り敢えず書きましょう」
沙都は不承不承黒板に佳奈多に披露出した案を黒板に書いていく。
「見てどう思います?」
沙都は黒板を、書かれた文字をじっくり読んだ。
佳奈多はその間沙都の様子を伺っている。
「どう思う?」
「素晴らしい計画の数々だと思う。」
「別の見方出来る?」
「素晴らしい計画の数々という以外の感想がわきません。」
「強いて考えよう。強いて言えばの別の見方してみて!」
「・・・・・強いて言えば・・・突拍子もないし物騒かな?」
「うん!そうだね!!物騒だよね!良い答えですよ!」
沙都はじっと佳奈多を見つめる。無表情で部屋が暗いため目の色も見えないが不穏な空気が強まっている様な気が佳奈多はしていた。
佳奈多は黒板を見る。
そこには沙都が鷹矢にしたいことが書かれていた。
眼を抉る。
撲る頭を
腹を裂いてみる
ノミと金槌を用意して頭を少しづつ削っていく
木の棒で何度も何度も何度も何度も撲る。(動かなくなるまで)
液体洗剤を飲ませる
火で炙ってみる
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・色々書かれていた。
目を沙都へ向けるとじっと佳奈多を見ている。
佳奈多は取り敢えず甘い物を沙都と食べた。その後雑談をして家族構成を聞いて玲奈に対する思いも聞いた。
「じゃあさ、2人の愛を壊す!って事でどうかな?」
「精神的にですか?」
「嫌、そう言う事ではなく!」
「物理的にですか?」沙都は決意の表情をした。
「・・・・えっと心情的にかな!!!!」
ともかくそう言う事になった。
次の日から玲奈と沙都と佳奈多で色々出掛けた。
カラオケ屋で歌をうたう。
別れの曲。
酷い男を恨む曲。
男なんて録でもないという曲。
女同士の友情をうたう。・・・・・等。
次の日には男は酷いと感じられるテレビドラマや映画を見た。
別の日には、“白マフラー赤文字事件(通称)”なアニメを見て、ミサさんが此のくず男を棄てないのが理解出来ないと沙都と佳奈多で盛り上がった。
そして最後の賭けとして鷹矢と沙都が昔付き合ってた事を告白させ、そして今の玲奈に対する想いを告げさせた。
「昨日はどうでしたか?」
沙都はもじもじしつつ昨日の玲奈の態度を話した。誰にも話さないという条件付きで。
(思い出作り・・・・ナンですかソレハ?)
まぁ、玲奈と沙都が大人になったのは認識した。
1ヶ月位しても 玲奈と沙都の雰囲気は相変わらずであったが気付く人は話を聞いていた佳奈多のみだった。
『僕は、幼少の頃1人で遊ぶ子供でした。他人から相手にされていないわけでもなく、只、他人と遊ぶ道具やタイミングが違った子供でした。
皆が絵を描いたり外で走り回っている頃、僕は、積み木やブロック遊びに夢中だったのです。
立体的な代物に興味がある子供だったのです。
しかし積み木やブロック遊びにも段々と疎遠になりました。
小学校の低学年、高学年そして中学生年齢だけでなく触れるもの捉えるべきものが、年相応や高学年らしさ中学生らしさを求める空気に他人より敏感になってしまって手を出しづらくなったのです。けれど戸惑いも義務感も有りませんでした。何故なら自分自身もそうあろうとのぞんだからです。
そんな中僕は、恋をしました。名前は言えませんがとっても可愛らしく笑顔が魅力的な少女でした。彼女はその当時僕より背が高かったですがそんなもの気にはなりませんでした。
彼女と話をしても何を話しているのか分からなかったし覚えていません。
何故なら彼女の可愛い声と可愛い仕草と可愛い笑顔を眺めるのに夢中だったからです。
大好きでした。
けれどある日彼女は僕と疎遠になりました。理由は分かりません。どうしたの?何かあったの?と聞いても困った笑顔を向けるだけでした。
絶望でした。世界が一変に灰色へと変わりました。只々大好きでした。でも彼女は違ったみたいで、僕の心は無音の世界で、ぐしゃりと潰れました。
灰色の世界で生きていく人生になった僕は、何を見ても面白くありませんでした。
そんな中一冊の本に出会いました。中身は良くあるライトノベルですが、表紙に心引かれました。萌え絵と呼ばれているものでした。
可能性を感じました。この子は可愛い。
でも、自分の好みじゃないと。ではどうすれば良いのか?答えは簡単でした。自分自身で産み出せば良いのです。
僕は、今まで手を出して来なかった絵を描くということを一生懸命やりました。頑張ったのです。一応絵は上達したのです。しかし満足のいく伸び率とはなりませんでした。
諦めるのか?嫌だ!僕は、奮い起ちます。
自分の力に限界を感じるなら他人の力に頼れば良い。僕は、バイトをして金を稼ぎその金で萌える絵や萌える漫画や萌える雑誌や萌えるアニメや萌える雑貨やらを買い漁りました。嵌まりました。
そんな幸福も長くは続きませんでした。
僕は、2次元愛も2・5次元愛も3次元ポリゴン愛も芽生えなかったのです。
無理でした。無理だったのです。現実を受け入れました。
その僕の目に飛び込んできたその存在。
黒髪長髪の美少女。ダイヤちゃん!!
そのフィギュアを見た時、天恵を得ました。
ダイヤちゃんは僕の―女神―です。
ダイヤちゃんフィギュアを買い漁り、ダイヤちゃんフィギュアの素晴らしい製作者の方に手紙を送ったりダイヤちゃんの魅力を全然解ってない製作者の方にも手紙を送りました。
僕の女神を、ダイヤちゃんの尊いすべてを僕は、この世で触れあう事の出来る喜び!!
この僥倖に僕は感謝します!!!!!!
ーーーーー恋をもう一度有り難う!!ーーーーー
2年A組 鷹矢悟史 』
体育館の中はどん引いていた。校内のスピーチ大会の2年A組を代表して鷹矢が発表したのである。
鷹矢悟史伝説が今日又校内に刻み込まれた日であった。
いつもの部室。
「あれってさ、沙都のことだよね?」
玲奈が沙都に耳打ちする。
「玲奈様、鷹矢とお付き合いするんですよね?」
沙都は怪訝そうな表情。
「・・・付き合う?鷹矢と?なんでですか?」
玲奈さん不思議そうな表情。
色々沙都は誤解があったようだ。好きだと言う告白は、フィギュアの事をいっていたらしい。
「私はもう、恋人がいるからね。沙都は鷹矢の事、どうおもっているの?」
玲奈は沙都の髪をいとおしく撫でる。
「私は何とも思っていません。」
「じゃあ、安心だね。」
玲奈は何時までも沙都を構い続けた。沙都は不満気な中に幸せな表情が浮かぶのだった。