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梅川玲奈さんの日常  作者: 黒牛魚のごった煮
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玲奈さん、海を見る

 梅川玲奈は帰宅部という存在にかねてから不平というものを抱いていた。

主に何をするわけでもなく只自堕落に人生を生きている様なその有り様に微妙にジワジワ苛立ちが沸き上がってくるので、憤りを何処へぶつければいいのか解らない。

 しかし、都合の良い捌け口等そうそう見つかるわけではないので、どこぞのオリの様に憎悪が降り積もってゆき、少し精神に異常をきたすようになってきた。

そんな帰宅部の梅川玲奈は自身の力で部活を作ろうと一念発起し、同学園に通う侍女も戦力に加え同好会の頭数を揃えた。

 とりあえず部室の掃除をしようとあてがわれた教室へやって来た。

 机や椅子が、教室の七割以上にひしめいている。明らかに詰め込みすぎている。海というものが目前にある学校でありながら、ゆとりとか余白に縁遠い此の有り様はなんたることだろうか!

頭の中で憤りというものが暴れまわり、殺意という化け物が頭蓋骨を砕き外の世界へ出ようと試みているのが分かるくらい玲奈は怒りに呑まれていた。

 部室として使える空間を増やさなくてはいけない。

 近場の教室を見てまわる。教室の鍵は五六教室分拝借してきているので、片っ端から扉を開けて中をみる。使いたい教室の容量と納め先の教室の容量を見てとると五六分割すれば使える教室になるだろう。

 収納は組み立て方によって事が決まる。前の人の収納のあり方が苛立ちをもたらした様に、取り組み方に因って後人の腹立たしさを生んでしまうおそれがあるのだ。

 この世界に安寧をモタラスノハ今出来る心遣い!!だ。

ブロックを組み立てるように、只一心に空間に対して適切である組み合わせとは何であるか脳内シミュレーションを繰り返し状態を形作っていく。

 段々と片が付いていく教室。

玲奈にとっての適正値に近付いて憎悪の増加が逓減してゆく。


 頭の中に何かが甦る、兎も角感情のままに絶叫する。

 机に額をぶつけてみる。何度となく繰り返す。自分の傍にいる理性が止めろと諭してくる。

「違うんだ、殺さないと、殺さないと、殺さないと ウァァ 殺さないと。早く!早く!早く!」

玲奈はごみ捨てから戻ってきた侍女に行為を止められた。

じっとしているとイライラしてくるので、取り敢えず茶っ葉を床へ満遍なく撒いた。先程侍女が午後のティータイムに用意した緑茶の葉っぱだ。辺りに緑茶の匂いが蔓延する。

箒で葉っぱを掃いていく。因みにハタキはもう掛けてある。バケツに緑茶の残りを注ぎ込み中から雑巾を取り出して搾る。

 其のまま二人で床ぶきをしていく。あとは、机と椅子を縦と横に等間隔で並べていく。

「いゃ~落ち着きますねぇ」新たに煎れた緑茶を飲みつつ侍女は海を見つめた。旧校舎の中は静寂に呑まれる様に音が遠い。

 玲奈はようやく部屋の手入れが終わったことにつかの間の安らぎを感じていた。

 侍女がいれてくれたお茶もお茶請けも群青の海を肴にするとより、味わいがある。5階だけあって見張らしもいい。

 ボンヤリ空を眺めながらボーッとしていた。

 ケイカクブ。そう、ケイカクブである。部活の看板の字を書かなければならない。

「あの、沙都さん習字をお願いします。」

「なんですか?いったい?服が汚れるから嫌です。」

「沙都さんが嫌かどうかがもんだいでは無いのです。」

「では、何が問題なんですか?」

「貴女の主人は字が汚いので、看板には向かない文字なのですよ」

「・・・・書きましょう」

 沙都が墨をすっている。墨の匂いが教室に漂う。沙都が墨をすっている間、黒板に 慧 覚 部 という文字を書いた。

 沙都は黒板をじっと見る。

「ところでこの慧覚部ってなんですか?こんな文字有りましたか?」

少なくとも沙都の頭の中にこのような文字はない。

「この世に慧覚のいう単語ないし熟語が有るかどうか知らないですが、この名前は私が勝手に作りました。意味はさとる。まぁ、知能を働かせて物事の仕組みを解析して運用と言うものに生かして行ければいいなぁと言ったところですね。私の目には浅瀬が見えます。」玲奈は海を見つめる。

「私には全く見えないですけど・・・。そんなものを一から創るのですか?」

「私は思うのですよ。愚者がこの世から消え去るのは物凄く心地よい風景だと。」

「何だか、かなり物騒ですけど。」

「潜在能力が端からない人は別にいいのです。

 だけれど、潜在能力が有りながら思考回路の標準を満たすことの出来ない人に、どれ程の価値があるのか。私には利口ぶって思考回路の貧弱な屑共は社会に害悪をもたらすのをみてきました。そしてその人々が政治的な寄生虫と共に社会に不幸をもたらしてきたのです。そのような害悪と虫は駆除されるべきだと私は思っているのです。」

「かなり過激派ですね。・・・・取り敢えずお茶でもどうぞ」

 沙都の書いた部の看板は玲奈と沙都がお茶を飲んでいる間に乾いた。玲奈は教室の後ろにある棚の中から缶と新聞紙を取り出す。

「ちゃっちゃと塗っちゃいますか」

 缶の蓋を開ける。ニスの甘く柔らかで少し柑橘の匂いが辺りに広がる。ハケにニスをどっぷりつけて、垂れること無いよう余分を缶の中におとす。五重に敷いた新聞紙の上の木で出来た看板の両端から中心へ向かい塗り進めていく。

「そう言えば、お嬢様は昔は工作がお好きでしたね。」

看板のへりも塗っていく。

「・・・・そうでしたか?」

「緑色の亀をもらいました。」

「・・・・・ああ、そういえば昔はピラミッドとか江戸川乱歩に嵌まってましたね。」

「亀、拾ってきた事も有りましたよね」

「・・・・海で拾いました。直ぐさま海に返してきなさいと言われました。」

「残念でしたか?」

「覚えてませんね。多分残念だったのでしょう。子供の考える事など “欲しい!!” “いらない!!” ですからね。今となっては適切な行動をとれてたと思えるので、返してきて良かったです。・・・できましたね。」

「・・・・裏はどうしますか?」

「・・・・塗りますよ!?」

「・・・別に良いのでは?」

「駄目です。塗ります!」

ニスが乾いたら裏を塗るということになった。

「部員の勧誘は何時しますか」

「当面今の人数で十分だと思うので勧誘はしません」

 2人は思い思いに同好会の構想を言い合いながら、帰路についた。  

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