第4話 葵
「会えて、嬉しいよ。」
大輔は息を弾ませて言った。
「もう、会えないと思ってたの。」
「会っちゃいけないと思ってたの。」
桜は下を向いた。
綺麗な人だった。名前は葵。
モデルをしていて、テレビの薬のCMに出ていた。
「えっ、桜知らないの?あのCMだよ。」
「あー。そうなんだ。」
それから、CMソングが気になるようになった。
大輔のモデル好きは有名だったから、諦めていたけれど、自分だけ闇の中にいるようだった。
大輔はDJと、プロデュースのような仕事もしてたから、とにかくモテた。
クラブに群がる女達は、モデル、お水、学生、根っからのクラブ好き、に分かれていた。桜はその頃学生だった。
桜の友達が大輔を誘い、桜のマンションで映画を見ようとなった。こんな地味な誘いに、よく乗ったなと思いながら、私達はゲラゲラと盛り上がった。友達が騒ぎ疲れて寝てしまった。
大輔は桜の隣にいる。大輔がそっと手を握り、ふわりと桜を抱き締めた。恥ずかしくて、ドキドキした。桜の頬を両手で挟み、熱くキスをした。
桜にとって、初めてのキスだった。大輔は、優しく笑った。
そこからの桜の人生は、わかりすぎるくらい、わかると思う。ふざけるなと思う。いつも苦しかった。大輔と肌を合わせる、わずかな時以外は。
学校の米倉君が運命だったんだ。
桜と大輔の浅はかな行動で、葵さんも米倉君も皆が苦しんだ。
けれど、桜は恋をした。皆を傷つけても尚、止めることが出来ない、恋をした。
顔を上げると、大輔がいた。
ああ、そうだった。
今さら、どうしようというのか。
キスなんかして。終わったことなのに、忘れられないなんて、どうかしてる。
空気が伝わったのか、大輔がしょんぼりしていた。
「あれっ、あきら置いてきちゃった。戻ろうよ。」
バーを出ると、むんと真夏の風が吹いた。
大輔が、吹っ切れたように笑った。
桜も、一緒に笑った。