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マスカブレード  作者: 黒野健一
第六章 裏/霧
98/120

98そうさ

 なにもふざけているわけでもない。

職務をサボっているわけでもないし、職権を悪用しているわけでもない。

これは捜査なのだ。


「そうさ、捜査!!」


村上刑事は、古本屋の前でパンと牛乳を持ちながら電柱の陰に身を潜める。

なにかの張り込みだろうか……?


「あ、詠さんが掃除してる……きれい好きなんだなぁ……」


ストーキングである。


村上は、一連の事件が魔刃、仮面の怪物の仕業だと確信した。

以前、お嬢様口調の少女が連れていた謎の部隊がいたように、自らもあの怪物たちからこの街を守るために行動に移した。

事件の加害者、被害者に共通するのはストーカー行為……つまり。


「俺自身がストーカーになることで犯人の怪物が嗅ぎついてくる……

 我ながら良い作戦ですよね、正堂さ……あれぇ?」


上司は呆れて、一人で捜査することにしていた。


「まぁいい、ストーカーは一人でするもんだ……あ、詠さんお茶淹れてる、飲みたいなぁ……」


時間は真昼間。

姿はスーツ。


そんな男が電柱の陰でコソコソしており、通りすがる人々はみな不審に思っている。


「(誰か警察よんだ方がいいんじゃない?不審者よ……)」


誰も、彼が刑事であるとは思わない。

村上自身は自分が不審者扱いされないように、パンと牛乳という張り込みテンプレセットを手にしているが、そんなものは余計に怪しく感じさせている。

そもそも、ストーカーとしておびき寄せたいのに、不審者扱いはされたくないという矛盾しているのだが。


「……涼しくなってきたな」


 村上は夏の事を思い出す。

二度の魔刃との遭遇。

自分が、正義が、価値観が覆る体験だった。


「俺には俺にできること……だけど、やっぱり俺はこの街の悪を許せない」


たとえそれが人ならざるものだろうと。

たとえ自分の力が及ばなくとも。


「それでは、今日は失礼します」


古本屋から詠が出ていく。

どうやら今日の労働時間は終わりのようだ。

おそらくかえって詩朗の夕食の準備のために買い物に行くのだろう。


「……彼女は知っているのだろうか」


彼の甥、月村詩朗が今街に蔓延る怪物たちと同等の存在で、命をかけて戦っていることを。

本来なら、そういった役目は自分達警察の役目なのに。


「悔しいな、本当に」


村上は詠の後を追う。

少し冷たくなった夏と秋の間の風に吹かれながら……。




「あれ?刑事さん?」

「え……あっ……あれぇ?」


 事が起きたのは刑事がスーパーから出てきたときだった。

買い物中の詠を見失った刑事は探している間に鉢合わせにならないように、出口で待ち伏せようと思っていた。

しかし、村上刑事が外に出るその直前に詠は買い物を済ませてしまっていたのだ。


「奇遇ですね、買い物ですか?」

「えぇ……ええ!! あ、いや、パトロールというか、ほら、スーパーで万引きしてる輩がいないかなぁ~と」

「すごいです! テレビでみたことあります。流石村上さんですね」

「ははは……いつもの日課ですよ、では私は職務に戻りますね」


……万引きGメンと化した刑事、村上は焦った様子で詠の視界から消えるため、再び店に戻った。

入口でしばらく店内の方を覗いている詠を、商品棚の影に村上は彼女が再び歩き始めるまで身をひそめる。


「あの~」

「なんですか!」


不審な動きをする男に店員が声をかけてきた。

村上は警察手帳を相手に突き付けて「調査中です!!」と店員を追い払う。

気の毒そうな顔をした店員は「お静かにお願いします」と言いながら店の奥に逃げるように去って行った。


「はっ……!?」


店員とのやり取りの一瞬で、詠が動いた。

店から出て、周囲を見渡すが彼女の姿は見つからない。


「くそっ……今日はここまでか……!!」


ストーキング万引きGメン刑事、村上の魔刃おびき寄せ作戦はまだまだつづく……。




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