96絶望
守る側の人間と守られる側の人間。
力を持つか、持たざるか……。
学校は封鎖され、対魔刃部隊が魔刃の斬骸の回収や、被害者の確認などを行っている。
もう完全に、部外者となった夕河と詩朗の二人は、帰りの坂道を下る。
「……」
「……月村くんあのね、私」
二人の間を阻んでいた沈黙の壁を破ったのは夕河の方だった。
「夏休みの、あの頃の私は罪滅ぼしで戦ってた」
「……」
「でも、君はそうじゃなかったんだよね」
一般人を巻き込み、静寂の魔刃を対魔刃部隊に倒させた一件。
それ以前に、自分の興味本位で始めたことをきっかけに家族を命の危険に晒したこと。
そしてそこに詩朗を巻き込んだこと。
彼女の戦う理由は『罪滅ぼし』でしかなかった。
黄鐘やその他の対魔刃部隊の他員たちは、魔刃に関わってしまった彼らに全てを明らかにし、もう関わらないように。
もとの日常に戻るように促してきた。
それはとても健やかな道なのだろう。
両親のいない日野、部隊隊長の黄鐘、自分自身魔刃である青井、解放の魔刃という強力な力と出会った黒藤。
彼らが生きる世界はそこにしかない。
一方二人にはまだ居場所がある。
ならばただのオカルトマニアの少女と精神を侵されながら戦う少年を、わざわざ『そちら側』に置いておく必要もない。
「……俺は、守れる力があると思ってた」
自分の両親の過去、復讐の魔刃との出会い。
すべてが運命で、戦うのが宿命なのだと。
だが、両親が残した力は刃覚者というだけで戦う運命にある子供を救う者であり。
詩朗自身の意思とは真逆のモノである。
それに、復讐の魔刃だって彼を利用しているだけにすぎない。
あくまで彼は王に対する個人的な『復讐』を目的にしているに過ぎない。
結局、月村詩朗という少年は、偶然力を手にする機会があっただけのどこにでもいる少年。
守られる側の存在だと、部隊の彼らはそう思っていた。
「月村君……じゃあ、私はここで」
「……」
詩朗は黙ったまま、分かれ道を歩く夕河の背中をしばらく見つめた後、自分の帰るべき場所に歩き始める。
夕日が背中を照らし、前方に影を作る。
その影の仲を進みながら自宅の前につく……が。
「……!?」
様子が変だ。
どことなく、何がと具体的には言えないが、感じ取ったその嫌な雰囲気。
夏休みに何度も体験した、自分のいるべき場所ではない匂い。
それが自分の家から。
「ま……さか」
自宅のドアを開ける。
いつもより重く感じた。
靴を脱ぎ散らかして、廊下を歩く。
いつもよりつめたく、暗く感じた。
「月村……詩朗くん……」
いつも詠と食卓を囲み、夏場そうめんなどを食べていたそこにいたのは、一人の男。
刑事の村上。
「刑事さん……なんで……」
「来るな、月村君」
「なんで……」
刑事の顔には真っ赤な液体が付着し、彼の白いシャツを赤く染めている。
その染色材料は、彼の前に横たわる一人の女性の血液。
「なんで詠さんが死んでるんだよッ……」




