94銃(O)眼
久しぶりの投稿です。
……今自分がしていることをはっきりと正しいと言いきることができる人間がいったいどれだけいるだろうか。
この地上に、これまでの歴史の中に、これからの自分の人生に。
迷いなく後悔もなく、そして客観的に、誰の目から見ても正しい選択をできるだろうか。
きっと誰にもできない。
誰だって間違い続け、あちらよりはマシなハズだと自分を騙し、ああすればよかったと過去の自分を憎む。
だから彼は強く握った。
冷たくて重いそれを、非日常の世界から持ち出したそれを持って学校内を駆け抜ける。
目的地であるグラウンドからは、砕けた笑い面をした人々が校門の方へ流れていく。
その流れに逆らい、彼は走る。
「……月村君!?どうして戻ってきたのよ!」
「すいません黄鐘さん、でも俺はこれを……」
回転式拳銃型デバイス。
人工的に生み出した疑似魔刃と疑似刃覚者システム。
コードネーム『GUN面』
ようはSaverシステムの後継にあたる存在。
彼の握っていたそれの正体だが、それは黄鐘すら初めて見たものだった。
だが黄鐘はそれを気にしている場合ではなかった。
その場に着いたばかりの詩朗も、今の状況がとてもまずいことがすぐに理解できた。
砕けた仮面、その場で崩れて動けない日野、リボン状の刃を暴れさせている魔刃。
「黒藤さん日野を助けるよ!」
「了解」
青井と黒藤は脱け殻のような日野を抱え、周囲の物体を切り裂いて暴れるリボンをくくり抜け、黄鐘の元へ三人ともほぼ無傷で下がることができた。
以前、偶像の魔刃の暴走は止まらない。
周囲のものを手あたり次第に叩き斬り、切りくずしか残らなくなれば新に斬るものを探す。
「そんな……先導者、先導者が……」
日野は手元の二つに分かれた仮面にぶつぶつと声をかける。
彼にとっては残酷であるが、もうそれはただの破壊された物体。
魔刃としては死んでいた。
「……黄鐘さん、俺戦います」
「え!?」
「詩朗くん!!あなたはもう魔刃の力とは無縁の……」
魔刃でありながら人として生きる少女、青井は当然彼を止めようとした。
しかし、詩朗の目を見て言葉が詰まってしまう。
灰色に濁った瞳、それは彼がこれから生きていく世界を見失いつつも探し出そうとしている。
罪だとか義務ではなく、本当に誰かを守りたいと思っているのではないか。
そう青井に思わせ、彼女に止めさせる資格を奪う。
「……」
「俺は……俺の大事な世界のために、お前たちと戦う……」
詩朗は握られたそれの、撃鉄を起こす。
装填されるのは弾丸ではなく、新たなる人類が魔刃達に対抗するために作られた力。
人工疑似魔刃、『死』の魔刃を展開しようと、詩朗は自身のこめかみに銃口を押し当てる。
「……せ」
「大事な日常を守るために……笑顔を守るために!!」
引き金に指ががかる、その瞬間のことだった。
「そいつよこせぇええええええッ!!」
「なっ……ぐっ!!」
後から突き刺されたように背を貫く声。
怯んだ詩朗のその手に持つ拳銃に別の人間の手が覆いかぶさり、奪っていこうとする。
奪われまいと抵抗はしたが詩朗の顔面に拳が入ると、それは彼のモノとなった。
「何をするんですか……先輩ッ!!」
「黙れぇ!!俺は……俺はッ!!」
詩朗が行っていたことを日野は見たままにマネをする。
その拳銃が、実弾が入ったものではないという確証は彼にはない。
だが力を求める詩朗がそうしたのだから、と言う理由で彼はためらいなく銃口を自身に向ける。
今、この場に力を求める者が二人いる。
だが彼は、日野は自分こそがその力を再び得るのにふさわしいと譲る気はない。
「選ばれし者だッ!俺だけが、選ばれたのだ!!」
引き金は引かれ、弾けた音がした。
使命感に依存した彼の脳内を通り、弾丸が頭蓋を貫通し駆け抜ける。
「なっ……まさかそんな!?」
日野の体が発砲と同時に力が抜け、横に倒れようとしている。
人工的な魔刃を展開するシステム、Saverシステムのようなものだと想像していた詩朗は、天野の説明通りに実行した日野がそのような様になったのが信じられなかった。
日野研司は死んだ。
その場にいた皆がこの状況に気が動転しながらも、その事実を認めようとした。
ただ一人を除いては。
「Scanning」
機械的な声が流れたと同時に、崩れようとしていた日野の足が地に踏ん張り重力に抵抗し、吹き飛んだ傷口から飛び出した真っ赤な血が傷口に逆流していく。
彼を貫いた弾丸はどこを放浪していたのか奇妙な軌道を飛び回り、再び彼が銃口を当てていた部分めがけて襲い掛かる。
あきらかに脳を貫いたと思われるといのに、なんの表情も変えない日野は二度目の自分が放った銃撃を受ける。
「うぐっ……ぐがぁあああ」
何度も、何度も……放った弾丸は止まることなく不自然な軌道で日野の脳をぶちまけ続け、また日野の命の鼓動も停止することはない。
何度も繰り返される死、繰り返される機械音声。
「Scanning……Complete」
その機械音声に一言追加されると、日野の眼球が弾丸の軌道を追いかけるように動き、完璧に捉える。
意識が加速し、短期間で繰り返した死により彼は適応した。
……死という概念に。
「……そこだ」
日野が拳銃を握った腕を振るう。
それは彼を狙う弾丸の軌道を遮り、拳銃のグリップの底が弾丸を打ち砕く。
破砕されたその断片は空中でばらまかれ、空間に魔法陣のような模様を生み出す。
魔法陣が迫り、半身がくくると、通った個所が刃の鎧に包まれていく。
全身を通り抜けると魔法陣は消え、日野の顔を覆っている真黒な仮面の半面だけに模様が浮き上がる。
「これが……GUN面システム……?」
詩朗がつぶやいた。
日野が変身した姿は闇のような漆黒の刃鎧と、真っ赤な血管のような張り巡らされた模様。
その仮面は、まるで血で描いた太陽のようだ。
「これで……これで、俺はまだ戦える!!」
仮面の下で笑ってみせながら、死んだ先導者に自分の力を証明してやると意気込む。
かつては彼がいなければ戦うことを考えすらしなかった彼は、今はもう戦うことでしか自分を見出すことができないのだ。
「いくぞ……アイドルだかなんだか知らんが、化け物は俺が狩る!!」