9灯す
カタカタカタカタッ!
ノートパソコンのキーボードが激しく叩かれる。
暗い部屋、イスの上で足を組む少女が液晶の光で照らされている。
黒い服と眼鏡の彼女、ベッドの上に制服が脱ぎ捨てられている。
指が弾むたびに画面に胡散臭い文章が書かれていく。
「『仮面シリーズ』連続女性殺人『謎の花』……っと」
少女が一息つき、ストローに口をやる。
パックには24時間野菜という文字と人参に手足だけ生やした謎のキャラクターが描かれている。
一応言っておく、彼女は夏休み前日に家に帰ってきた女子高生である。
自室のドアを開けてからずっとパソコンの前で作業をしていたが。
「ふぅ……さぁて一段落ついたし、次のネタを探しに……」
少女がみつけたのはニュースサイトの一つの新着の記事。
その内容はこの街の美術館で起きた襲撃事件。
警備員数名が死亡。
怪我を負って意識を失った男子高校生一人を病院に搬送。
「男子高校生……へぇ……」
彼女の勘が彼女にとって都合の良いことを思いつかせる。
この男子高校生というのは……もしかして。
「まぁ、この街の事件ならどっちみち調べるつもりだしね、念のため念のため」
彼女がパソコンの横に置かれたスマートフォンの電源をつける。
暗い部屋にもうひとつ明りが生まれる。
その光源に書かれているのは電話番号と『月村詩朗』という名前。
約一分ほど待ったが彼が電話に出ることはなかった。
同時刻。
「どうなってんすかねー?」
若い男が喫煙所で不満そうに言う。
彼は煙草を吸う人間ではなかったが喫煙所にはもう一人男がいた。
すこし怖そうな顔の中年の男は煙をふかして彼に一言いう。
「例の仮面だな……お前が前見せた」
若い男はスマートフォンで胡散臭いフォントで『ますかれーどちゃんねる』と書かれたサイトを開く。
「おっ、ちょうど更新されてますよ、例の連続殺人の記事です」
「どの連続殺人だよ」
中年の男が灰色のため息を吐く。
最近、この街では妙な仮面を被った人間がよく目撃される。
そしてその中には人を殺める凶悪なやつもいる。
新手のカルト宗教とかネットの悪戯集団が過激化したとか、予想はいろいろだが真実は不明。
こんなオカルトサイトまでできている。
今彼らが捜査しているのは、ほんの数日前から起きている仮面の女の襲撃事件。
公園、バー、プラネタリウム、そして美術館。
今日もまた被害者がでた。
しかし彼らの捜査を阻む者がいた。
どうにも昔にも仮面を被った凶悪犯罪者がいて、それらの事件を解決する特殊部隊のような者達がいるらしい。
自分たちが追っている事件をそんな都市伝説みたいな怪しい集団に任せたくはないのだが。
「まぁ、俺たちは俺たちのできる範囲でやれってことだな、おい村上」
「はいッ!」
返事をした若い男に明日の予定を話す。
「明日、被害者の男子高校生と通報した少女とこに行くぞ、とりあえずな」
「わかりましたよ正堂さん……俺は犯人を絶対に許せないっす」
「……許せないねぇ」
部下の正義感に関心しつつも心配する。
この事件、いや最近の仮面関連の事件はどうにも嫌な臭いがする。
もしもの時は部下を守ってやらないとな、と心の中で思いながら二本目に火をつけた。