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マスカブレード  作者: 黒野健一
第五章 文化祭/学校/喪失
87/120

87割れた卵

「お、おい!どこへ行く!?」


校内放送の少し後、校門を閉めに来た教師の隣を一人の男子高生が通り抜ける。

校内随一の変人、日野研司だ。

教師の呼び声など耳に入れず、校門を飛び越え校外へと出ていき、そのまま街の方へ駆けていく。

仮面を被ると脚力が増し、坂の上から一気に飛び降りるように下っていく。


坂を下った彼は、人気の少ないマンション裏の駐車場へと行く。

そこには仮面を被り、剣を背負った少女が待っていた。


「さっき学校の方で感じた魔刃の反応は先輩のですか……」

「ふん……?」


彼女の黒髪が夕日の光の下で照らされると、どこかで死者が風を吹せた。


「黒藤……今のはッ!!」


鼓膜に響いたのは破裂するような火薬の音と叫ぶ人の声。

それらを頼りに二人は住宅街を進む。


先ほどの爆破音とは対照的に街は不自然なほど静かだ。

校内放送があったように、すでのこの周囲の人間はどこか遠くへ避難でもしたのだろうか。


「あの放送は部隊が……?」


今まで魔刃の事など表には出さなかった組織が避難を呼びかけるほどの事態。

二人は慎重に、そして急いで街にいる魔刃を見つけなければならない。


「数は一体、先輩……また音が」


通信で得た情報を元に着実に近づいている。

破裂音、叫び声、破裂音、叫び声……繰り返し起こるそれが街を非日常に陥れたヤツの存在証明。

悪趣味で不快な足音。


「だぁ……だれぇかぁ……てぁすけてぇくれぇ……!!」

「!?」


街のある曲がり角から、ぽとぽとと垂れる雨滴のように歩いてやってきたのは一人の老人。

コンクリート塀にもたれ、二人の方へ近づいてくる。

老人は腰を曲げていたが、それは老いゆえのものではない。

肩に何かを背負っている。その重みが老人を苦しめていた。


「なんだ?爺さんどうし……」

「解……駄目だ間に合わない!下がって先輩!!」


日野を追い越して老人の方へ向かったと思えば、黒藤は突然日野へ飛び掛かるようにして引き返す。

唐突な行動に驚く日野だが、地面に背中が付くと同時に彼女の意図が理解できた。


まず先ほどから聞こえていた破裂音が今までで一番大きな音で、聴覚を襲った。

その次に、凄まじく鉄臭い匂いが嗅覚を襲う。


「クソ……舐めやがって……」


うつ伏せに倒れ込んだ老人の背は、肉が削げ周囲に真っ赤な体液をまき散らしていた。

先ほど老人が背負っていた何か、それはまるで卵のような白くて巨大な何かだった。

それが爆発したのだ。


「俺の目の前で……舐めるなァ!!魔刃がァ!!」


荒ぶる日野は細身の剣を握りしめ、仮面で隠れた両眼を左右に走らせる。


「どこだ……どこにいる!!」

「落ち着きたまえ、選ばれし者よ!」


この近くにいるはずである残虐な怪物の居場所を必死に探り始める。

先導者の声など届いていない、完全に頭に血が上って怒りに支配されている。


「……!?」


彼とは違い、周囲を冷静に観察していた黒藤に、謎の大きな影が生まれた。

彼女の黒髪を照らしていた夕日が何かに遮られた。

黒藤はすぐさま自分の真上を見ると、空に浮かび上がる人の形をしたものと、そこから降る白い球体のようなものが確認できた。


「あの白いのは……!?」


先ほど老人が背負っていたものよりもはるかに小さいが、おそらく同じ性質をもつものだろうと、黒藤は直撃を避けるために道路に端に避ける。


「先輩!!」

「!?」


黒藤に呼びかけられ、振り返った日野もその上空を動く人型を視野に捉える。

それと同時に、黒藤の居た場所に落下してきた白い物体が地面に叩きつけられる。

するとそれはまるで爆弾のように破裂して、コンクリートの地面を破壊した。


道路を動く人影は、日野の方へ向かう。

自分にもその白い球体が降り注がれると彼もすぐに悟ったがすでに遅かった。

日野はその場で身を固め、わずかでも威力を抑えようとする。


「ぐっ……うっあああ!!」


爆破の威力で塀に叩きつけられた。

日野の体を動かすことはできるが、彼が纏う制服は焼けこげた匂いを漂わせ、破れた部分には彼の爛れた皮膚が見え、出血している。


「くっ、そ!!」


黒藤が駆け寄ってくるが、彼女の手を振り払い、痛みをこらえながら、なんとか自力で立ち上がった日野。

二人は空を舞うその人型の姿を目で追う。


「krrrrrアニバァアアアル!!」


甲高い奇声を上げながら、二人の頭上を動いていたそれが電柱の先に止まった。

大きな翼のような、刃が生えた腕を大きく広げ、道路上の二人を見下ろしている。


「クゥアアアアニバァアアル!!」

「ふざけ……た野郎だァ!!」


細身の剣を逆手に瞬時に持ち替え、その鳥の形を模した怪人にめがけて投げた。

しかし、怪人はくるりとその身を回転させ、電柱を蹴って日野の元へ滑空してくる。


「カァニバァ!!」

「フンッ!!」


日野の近くで姿勢を変え、滑空の勢いのまま飛び蹴りを放つ鳥の怪人。

その放った足に向けて拳を叩きつける日野。


両者の攻撃により互いにのけぞる、しかし鳥獣のような足を持つ怪人は、拳を利用して跳ね返るように跳びあがる。


「クェェエエエ!!」


鳥類の顔を模したその仮面の、くちばしの部分から吐き出すように白い球体を発射する。

連続で襲いかかる爆撃、日野が必死にこらえつつも、衝撃で後ろに飛ばされる。


「うぐ……はっ……」


民家の壁に衝突した日野は朦朧とした意識の中、相手を睨む。

そんな彼は、ある違和感を覚える。


ピキッ……!!


彼の顔を覆う仮面に起きたのは先ほどから受けた爆撃による損傷。

ヒビが左半分を縦に走る。


「なっ……貴様ァアアア!!」

「お、落ち着け!!私に支障はない!!」


自身の怪我などよりも、いつも近くで共に戦う彼を傷つけられたことが頭にきたのだろう。

本来なら動くだけで激痛が走る負傷もいとわず、鳥頭の魔刃に駆け寄る。


「うおぉおおおおお!!」

「クルァアアアアアニバァアール!!」


「先輩!危な……」

「どけぇ!黒藤!!」


止めに入った黒藤を退けて突き進む。

だが黒藤は気づいていた。

鳥の足元に白い球体が転がっていることを。


今近づけば、あの球体を蹴飛ばし爆破するつもりなのだろうと察しが行く。

だが冷静さを欠いている状態の日野は気がつかない。

真っ直ぐ、ただ突っ込んでいくのを見ているしかない。


「鳥野郎がァアアア!!」

「クルェ……」


「ギュルゥウウウウウ!!」


鳥頭の魔刃が足元の爆弾をぶつけようと足を動かしたその瞬間。

二人の間を一台のワゴン車が通り抜ける。


「な、なに?なんなの?」


数メートル先で急ブレーキで止まる。

ドアが開き、そこから身を出したのは組織のまとめ役。

つまりは、黄鐘咲。

彼女の片手には仮面、もう片方の手には小さな刃物。


「黒藤さん!これを!!」


人並みではない速度と精度で黒藤の元へ投げ飛ばす。

それを受け取る方も、普通なら反応できないだろうそれを平然とキャッチする。


「これは……?」

「博士から預かった……Saverシステムの新装備だそうよ!」


黒藤は受け取ったそれに視線を落とすと、ナイフの柄には不自然な空洞があることを見つける。

彼女が背負った剣、Saverシステム。

それと同様、斬骸を用いて何かができると予想した彼女は腰につけたフォルダーから無作為に一つ取り出す。


「Boost!閃光!!」


ナイフからSaverシステムと同様の機械音声が流れる。

黒藤の思惑通り、小さな刃が輝き、変化が生じる。


「クルェ!?ルェエエ!!」


何やら危険な匂いを(獣の勘によるものか)感じ取った鳥頭が日野への攻撃を中断し、白い球体を足でつかんで大きく広げた刃の翼を広げ、飛ぶ。

ここは一度引くべきだと判断したのだ。


「逃がさない」


黒藤はダーツのように、空中へと舞った魔刃へ向かって一直線に投擲する。

だがそれは鳥頭に描かれた予想図通りの行動であった。


そのために魔刃は爆発する白い球体を足で掴んでいたのだ。

真っ直ぐ飛んでくるナイフに向け、足の爆弾を放り捨てる。

爆弾を刃が貫いたその瞬間、自分への攻撃を防ぐと同時に爆発で目くらましができる。


逃げと守りの同時行動。

まさに一石……


「二鳥?鳥はあんたでしょ」

「クルァ!?」


光り輝く刃は爆風に巻き込まれ粉砕……されてなどいなかった。

鳥頭の中央に突き刺さり、なおその仮面の奥へ奥へと進もうとしている。


「グルゥルウウウウウアニバァアアアアルゥウウウ!!」


鳥人の上げた叫び声とそれに少し遅れて、刃の肉体を貫通したナイフの先が後頭部に顔をだす。

血の一滴も付着していない。

完全な魔刃であることを意味している。


「はぁ……はぁ、やった……」

「よくやったわ黒藤さん……日野くん、も……」


壁にもたれ、苦しそうに冷や汗を流している。

黄鐘が様子を伺おうと近づくと、そこで初めて先導者の仮面が破損してしまったことに気が付く。


「……くっ、そ……先導者……をよくも」

「日野君……?」


ここ最近の彼の姿を見ていて不安に思うことがいくつかあった。

黄鐘は彼の肩に手を置いて、冷たい汗をぬぐいながら話しかける。


「ねぇ日野くん、あなた最近疲れているみたいよ、先導者も傷を負っているししばらく休んだ方が……」

「うるさい!!俺はまだ戦える!!あの鳥野郎だッて!!俺がやれたんだ!!」


突然怒り、叫ぶ。

傷が痛むはずなのに、彼は引きずりながらも自らの足で立ち、去っていく。


「選ばれし者……いや、研司!」

「うるさい!お前も俺を認めないつもりか!!」


俺は戦える。

俺は選ばれし者。

俺は戦わなければならない。


戦い、それだけが自分の存在理由と信じて日野研司は震えた足で歩んでいく。



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