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マスカブレード  作者: 黒野健一
第五章 文化祭/学校/喪失
85/120

85孵化

「ん~成功したのはあの蛙と、蛙にやらせた三体のうち一体だけか……まだまだだね」


月と黒い空の近くから、三人の姿を見下ろしている制服姿の男がそう呟いた。

彼の下で直接刃をぶつけあっている二人と、そこから少し離れた一人の少女が男の方へと向く。


だが彼女の視界に、その者が映ることはなかった。

夜風がただ吹き去る。そこには誰もいなかったように。


「…………」


響くのは斬撃と、叫び。


突如顔を変えた仮面の怪人。

顔の模様だけではなく、能力もまったく別物となっている。


蛇の頭のような仮面、そして両腕が蛇の双尾とでもいうのだろうか。

刃のついた腕が鞭のように伸び、しなる。


「くっ、退け!!お前はひっこんでいろ!!」

「日野先輩……でも」


相手との間に入ろうとした黒藤を、日野は相変わらず怒り狂ったように大声で静止させる。

誰にも邪魔をさせないというその強引な意志に負けた黒藤は、呆れたように建物の陰でしゃがみ込んで日野の戦いっぷりを観察することにした。


「ふんッ!!」


伸びる刃を日野が持つ剣がはじき、その隙に少しずつ近づいていく。

相手の攻撃は激しく、少し近づいてはまた再び日野に蛇の尾が襲い掛かる。

だがそれは、無限に続く攻撃ではない。

刃をはじいている間に、気が付いたことがある。


「そこだァ!!」

「ぐ……ぬッ!?」


日野の剣が怪人の伸びる腕をはじいたその瞬間。

思いっきり前へ、怪人の方へ飛び込む。

刃のついた蛇の双尾のような腕、だがそれは尾の先端……腕の手首から指の先までしか刃がついていなかった。

魔刃の身体は全身刃。ゆえに常人なら相手の懐に飛び込もうと、触れただけで肌が裂けるだろうが、魔刃同士の接触ならその心配はない。

日野は安全地帯に飛び込んだのだ。


そして日野は蛇の怪人が、伸ばしたその尾を短くし再び尾の先にある刃で切り付けようとすることを予測し、その蛇の尻尾代わりの腕を掴む。

長さを調節しようにも、日野の、魔刃による腕力によってそれを阻止されている。

ただ縮小の邪魔をされているのではなく、日野は続けてその尾を持って振り回し始めた。


「ぐっ……!!がぁ!!」


小さな子供のように振り回された双尾の蛇の魔刃は投げ飛ばされ、先ほど日野に蹴り飛ばされた魔刃と同じく、コンクリートの支柱に叩きつけられる。

その衝撃によって肺から漏れる蛇の魔刃の小さな声を、日野の追撃の刺突が喉を貫き、発さられることを阻まれ、蛇の肉体は動かなくなった。


「ふん……ふっ……!」


刺さったレイピアを抜いて、本体である蛇の仮面を貫く。

穴が開いた喉、彼の身体はバラバラの刃の破片となり、顔を覆っていた仮面は世間一般のものと同じく『モノ』となり果てた。


「ふん……手ごたえの無い……」

「やったな選ばれし者よ……しかし、救世主どのの力を借りた方が手っ取り早いのでは?」


「なに?」


戦いを終え満足げにしていた日野に、先導者の魔刃が言い放ったその言葉は、彼の怒りを買うことになる。


「お前はッ! 俺に使命を果たすことができると認めたのではないのか!?」

「え、選ばれし者!!」


かつて、一人の少年が弱かったころを思い出している。

先導者の放った言葉は日野に勇気を与え、そして責任感と使命を与えた。


魔刃を倒し人類から脅威を取り払う。


「その役目の中心は俺が担う。俺が選ばれた」


日野は仮面を外し、通ってきた道に足を向ける。

魔刃の残骸などは後に来る別部隊に任せて、夜の闇に向かって進んでいた。

そしてその途中、背後を振り返ると、少し離れた後をついて歩いていた黒藤の方へ向けてこう言い放つ。


「この時代の救世主はお前じゃない」

「…………」


そして日野は再び前を向いて、その後は何も言わずに歩き去った。

言葉を受けた黒藤は、その場で足を止める。


手に持っていた解放の魔刃が震え、そして黒藤はその仮面で顔を覆い隠すと、彼女の頭が割れるほどの痛みが襲い始める。

いつもの、解放の魔刃の記憶が少女と共有されるときの痛みだ。


「はっ……!!うっ、がああああ!!」


地べたを転がり、痛み、苦しみ、喘ぐ。

日野はもうすでに遠くに離れ、今周囲には何者もおらず、彼女が漏らす声が響く。


しばらくすると、痛みが引いてきて、彼女は仮面を外し立ち上がる。

額には汗、そして真っ青になった顔を彼女は手で隠すようにして……笑い始めた。


「ふ……はっ、はっ!!」


外した仮面を大事に抱きかかえ、彼女は笑い続ける。


「そう、そうなのね。なんで私なんかが救世主様と適合したのか、なるほど……ふふっ!日野先輩の言うう通り、私は救世主なんかじゃない……ふふっ!!」


笑うことに満足したのか、彼女の顔色は少し良くなり、日野が歩いた道を彼女も進んでいく。

夜が落とした闇は、より一層暗くなっていた。





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