83なりそこない
黒藤忍、解放の魔刃に選ばれまだ一部ではあるが彼の記憶を引き継いでいる者。
これまで何体かの魔刃を破壊してきた彼女は、対魔刃部隊に連れられてきたとき、自分が戦えることを証明するため魔刃達の斬骸をいくつか持ってきた。
魔刃から人々を守るという使命。それらを全うするのに必要な力は問題ない。
破損した魔刃といえ、解放の魔刃はかつて王と渡り合った実力がある。
その能力、性質も失われた力を補うことができる。
「……重い」
とはいえ、その力をまだ信用されているわけではない。
力は強ければ強いほど良い。
ゆえに力を補うための道具、『Saverシステム』を持っていかされた。
ギターケースを模したそれに、女子高生には運ぶのに少し負担が大きい剣型のデバイス。
夜の街をそれを背負って走る。
蛙頭の男は日野が撃破したと先ほど通信で情報が入った。
黒藤は周囲にいると思われる彼らが増やした魔刃を探す。
焼失者の魔刃と傍観者の魔刃。
二体の魔刃は王の復活の方法を知っていた。
王が魔刃を生み出しているのは、王から生まれた第二世代達は皆知っている。
だがこの、噂が本当なら王が力を取り戻し、魔刃を生み出しているのか、あるいは別の誰かが?
「…………!」
窓が割れ、破片が乱雑に散らばっている。
建物の入り口には赤い液体がぽつり……ぽつり、とその真っ暗な室内に案内するように続いている。
「こちら黒藤……目標」
そしてその部屋の中に入った黒藤を囲むのは。
「……発見、三体!!」
「ギリィイイイ!!」
「ギギィイイイ!!」
「ギ……ギ?」
空気を切り裂くような鳴き声。
その声色からはまるで人間らしさを残していない。
「過剰適合……暴走、だったかしら?」
「おい!黒藤!!」
無線から返答。
日野は今も走りながら話しかけているからか、息を切らしながら黒藤に自分が来るまでどこかに逃げて隠れろと命じる。
壊れた魔刃で三体は相手にはできない。
新入りを心配する先輩隊員。一見そのようにも見える……が。
(俺の使命だ……!俺の!!引っ込んでろ、古臭い英雄)
言葉にはしないが、日野の暴走した使命感はたしかに芽生えていた。
「とはいえ……ねぇ!!」
「グギィイイイァ!!」
黒藤を囲む一体が動く。
崩れた仮面を被ったその、男か女かもわからない人の形をした刃。
その、腕であろう部位を黒藤の首元めがけて振るう。
「先輩はああ言ったけど、逃げるのも無理かなぁ!」
グギィン!!と鈍い音。
黒藤が背負っていたギターケースが切り裂かれ、中に収められていた剣の刃が姿を現す。
「使い方は……っえーとォ!!」
ケースから剣を引っこ抜き、襲い掛かった魔刃の腹部を刃で叩く。
相手はのけぞり、他の二体は警戒を強める。
黒藤はその隙を逃がさず、下部分が砕けた仮面を剣の中心部分の宝石の上に被せる。
「Save!解放!!」
剣に力が充填され、その力のままに黒藤は剣を振るう。
強力な波動を感じ取った三体の魔刃は、一斉に襲い掛かる。
理性が無い彼らにも、目の前の力が脅威であると本能的に理解したのだろう。
「解放……いきますか……」
剣の上に被せた剣を今度は自分の顔へと持っていく。
崩れた仮面の一人が、黒藤の背後から拳を振り下ろす。
全身刃の魔刃のそれは、常人なら鉈を持った男の一撃と同等だ。
「フッ!!ハァア!!」
「ギィイイァアア!!」
後を振り返る様子もなく、油断していた魔刃はまさかその一撃を視界にもいれずに受け止められるとも思わず
驚愕しながら、反撃の剣の一撃を腹部に喰らう。
剣が突き刺さって、血や臓物の代わりに削れた刃片が飛び散る。
「Load!解放!!」
そして剣に内包されていたエネルギーが一斉に、魔刃の内部から注がれ、その刃の体が弾けた。
ボロボロに崩壊した残骸の上に乗っかった醜い仮面を剣先で潰し、残る二人へと注意を向ける。
「次……どっち?」
「グギィイイガァ!!」
「ギリ……リ???」
一体は好戦的な、もう一体は何やら頭を押さえて苦しんでいる。
何に苦しんでいるのか見当がつかないが、黒藤はとりあえずその個体は放っておいて、好戦的なそれに剣を向ける。
「グギガァ!!」
「こいつら……三体とも同じ?」
敵の攻撃を受けとめた黒藤はある不自然さを感じていた。
それは、この三体が被った仮面のその姿形。
本来魔刃は同じモノは無い。
仮に同じ能力だとしても、同じ形にはならないはずだ。
王から創造され、王と共に沈むまで、解放の魔刃の記憶にもその例外は無い。
だとすれば、これは……
「王の力ではない……この時代の人間が生み出した、新たな種類の魔刃?」