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マスカブレード  作者: 黒野健一
第一章 詩朗/魔刃との遭遇
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8病室

目が覚めた時、初めて目に入ったのは白い天井とあの仮面。

笑っているのか苦しんでいるのか妙な表情の仮面。

「目が覚めたか?」

「おま……え」

仮面は天井に張り付いていた、そして仰向けになっている詩朗に話しかける。

「お前が生きているのは俺のおかげだ……っても怪我の手当はここの人間がやったんだが……」

「け……が?……あッッッ!!」

真夜中の病院で意識を取り戻した詩朗は自分の怪我の痛みを思い出す。

刃でふさがっていた怪我はあの仮面が外れると傷口が開くようになっているようだ。

しかし内臓までやられたと思っていた腹部の傷が意外と大したことなかった。


「あいつを……あの女の仮面をひと齧りしたおかげでな、お前が搬送されるまでは何とか

 俺が命を繋いでおいたぜ」

「よくわからないが……お前が……助けてくれたんだな」

仮面が他の仮面を『喰う』ことで力が強くなる。

天井の仮面は倒した女の仮面を喰らうつもりでいた。


「勘違いすんなッ!俺は人間の命なんざどうでもいい、あの仮面を追うために必要だったからだッ!」

「あの……仮面……?まさかあの女!?」

「……ああ、まだ生きてるぜ」

詩朗が首を切り落とした女、しかしあの再生能力で首をくっつけて逃げたという。

天井の仮面があの女の仮面を食い損ねたのはそういうことだ。

まだアイツは生きていて、まだアイツは誰かを襲う。


「そ、そうだ!霧香ちゃん!!」

あそこに一緒にいた少女はどうなったか仮面に問う。

「ほんとはあのガキの方が俺を使いこなせるんだが……まぁアイツは無事だ、どうやら裏口から逃げて

 警察やら呼んだらしいぜ、あのガキもお前の命の恩人だな」

「そうか……無事か……」

とりあえず一安心した詩朗は次に目の前の仮面の存在について問う。


「あの時は非常事態で気にしてなかったが……お前らなんなんだ?」


喋る仮面、あの女の腕の巨大な刃や詩朗が仮面を被っていたときの刃が生える能力。

どう考えても非現実的な力である。


「俺たちは『魔刃』昔々に人間どもを支配しようとした……お前らにとっちゃ、まぁ神だとか妖怪だとか化け物だ」

「支配……?」


自分を、人間を支配する存在など実在しているなど思わなかった。

この地球の支配者は人間で、人間の支配者は人間だと思っていた。

しかし仮面が話すには、それは人間が魔刃の支配から逃れたあとの世界の話だという。


「まぁ消えた歴史のお勉強なんざどうでもいい、大事なのは俺が何者で、あいつが何者か、だ」

「……ああ、お前はなんだ?名前は……?」

「名前、ねぇ……そんなものはないが、そうだな……」


魔刃には名前がついている者などほんとどいない、しかし個を分ける概念がないわけではない。

それぞれ違った願望や個性があるからそれを呼び名に使っている。


「まぁ、俺を表すなら復讐の魔刃だな」

「復讐……?」


誰に対して?という詩朗の問いに、魔刃達の王という答えが返ってくる。


「その王様は悪い奴なのか?」

「悪いか悪くないかでいうと、まぁお前ら人間にとっちゃ敵だな」


魔刃の王、かつて人間を支配した魔刃達の支配者。

今は残っていない人類の歴史に彼らとの戦いがあった。

勝者は意外にも人類であったのは、今の現代の世が表している。


「人間側についた魔刃がいてな、負けたんだよ王は……そして俺の体は魔刃王の復活のために奪われたのさ」

「体……?」

「おいおい、まさか俺たちが顔だけで生きてると思うのかよ?不自由だろ顔だけだと」

肉体を失った魔刃達と傷ついた王は深い眠りについた、そして今になりだんだんと目を覚ます者が現れた。

復讐の魔刃、天井の仮面もその一人である。


「奴らの共通の目的は再び人類を支配すること、個の目的は自分の願望通りに生きることだな」

「お前は……どうなんだよ、人類の敵なのか?」


フッ、とベッドの上の傷だらけの人間を見て笑う。


「言っただろ、人間の命なんざどうでもいい、俺はアイツから自分の肉体をとりもどせればそれでいい

 まぁ?あの女を見ればわかると思うが、俺たちを被った人間の肉体を奪うこともできる」

「だったら俺の体を奪うのか?」

「バァーカ、俺が代替品なんかで満足できるか、奪われたままなのが気に入らねぇんだよ」


種の繁栄などより、自分のプライドだとかを優先するということだろうか。

詩朗にはあまり理解できないが、その方が人類に敵対するというわけではないのでそれは良いのだろうか。


「俺の知っている魔刃はいくつかいる、そしてもうすでに目覚めている」


この街で起きている仮面を被った不可思議な事件の正体、それが彼ら魔刃の野望。

魔刃が奪った肉体を完全に馴染ませて眠りについた王に捧げ、そして次の肉体を探し……の繰り返し。


「俺たちのようなただの魔刃で人間一人分、王様の復活に魔刃の肉体が何人分かわからんが、まぁ復活すれば

 間違いなくこの時代の人間が支配されるだろうな」

かつての時代の再来、人間がこの地球の支配者から家畜の一つに成り下がること。

詩朗は恐怖とほんの少しの怒りを覚える。


「あの仮面のこともっと教えてくれ」

「あの女のか、あいつは『癒しの魔刃』落ち着く場所が大好きなヤツだ」

落ち着く場所、あの展示会をやっていた美術館もそうだ。

「なぜ人を殺す……?」

落ち着く場所が好き、癒されたいという気持ちが強いのはわかるがそれがなぜ他者を殺すことに繋がるのだろうか?

「単純だ、自分以外の存在が邪魔で癒されないからだ」

憩いの場を独占したいという欲望だ。

それゆえ同じ場所の他の存在、人間たちを殺して占拠する。

「大きな音が苦手でな、パトカーってのか?警察の車の音で逃げていったぜ」

「サイレンの音……霧香ちゃんに感謝しなきゃな」


「いや、まてよ……?」

詩朗の頭の隅で考えたくもない最悪の事態がよぎった。

憩いの場、静かな場所、落ち着ける空間。


「なぁ……もしかして喫茶店なんか……対象になるかな?」

「……奴が襲ったなかにはそういう店もあるかもな、それがどうした?」


詩朗が布団を蹴飛ばし、病院で着せられた服を脱ぎ、ボロボロになった制服のシャツに着替え始める。

仮面の力でなんとか動けるようにはなっているが、それでも肉体にあざや傷がまだ残っている。

腹部に包帯がまかれ、腕にはガーゼが当てられている。

服を着替えるだけでも少し痛みを感じる。

だがこんなところで寝ている場合ではない。


「いや、まだ寝てろバァーカッ!!」

「うぎぇ!?」

仮面が天井から後頭部むけて突っ込んでくる。

「アイツは店を開いていない限り襲ってこない、こんな夜中にやってんのか?」

「……いや、そうか……そうか」

詩朗はベットに腰かける。

復讐の魔刃は彼に命令する。

朝になるまで仮面を被って寝てろと。


傷を癒す能力を身に着けた復讐の魔刃であったが、それはあくまで傷をふさいだりする程度で

完全に体力が回復するような治癒能力はまだ無い。

しかし今、外に飛び出しどこにいるかもわからない敵を探すより

この街にいる限りいずれ襲うであろう喫茶店の一つで待ち伏せする方が良いと判断した。


この人間を利用する。

復讐の魔刃の目的はただ一つ、王を倒し自分の肉体を奪い返すこと。

そのための仮の体代わりにこの人間、月村詩朗を利用することを決めた。

王を倒すにはまだ自分の力では足りないと自覚している彼は、まずはこの街で復活した他の魔刃を喰らうことで

自分を強化しようと企んでいるのだ。


それに、あの一緒にいた少女。

自分にかなり適合すると、復讐の魔刃は狙っていた。

「……こいつは戦わせたくなさそうだが、まぁ隙をみてあのガキに乗り換えるか……」


仮面を被った者はそんな思惑も知らず、ベッドの上で朝を待つ。


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