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マスカブレード  作者: 黒野健一
第五章 文化祭/学校/喪失
77/120

77屋上

剣之上市立のとある高校。

その校舎屋上にて、夕日が少女を照らして影をコンクリートに写している。


その屋上への入り口が開く。校舎東階段その最上階。

街の中でも少し高いとこに設立されたこの校舎からは、街の景色が一望できる。

そして視線を下に向ければ、グランドで様々な運動部の熱心な練習風景も見える。

彼らに自分たちの姿を捉えられないように、彼らはグラウンドとは逆側の、屋上入口すぐ近くで座り込む。


「それで、話ってなんだ。」

「うん、最初に言っていくけど私は魔刃……」


「…………」


気配を感じ取った彼女は話を途中で辞め、入り口の扉を開く。

扉に背を向けて、体育座りをしていた夕河が振り返る。


「お前、結局来たのか?」

「あなたも、こっちにおいで」


転校生、黒藤忍に連れられ、屋上へとでた夕河は、何を言うこともなく、詩朗の隣に座る。


「話、聞くだけ」

「じゃあ、もう一度。まぁ君たちはたぶん解ってると思うけど、私は解放の魔刃……でも

 普通の、他の魔刃とは違うのよ彼は」


やはり、彼女こそがあの夜に現れた魔刃。


他の魔刃と違う。

それは人間に味方し、王に立ち向かえるほどの強力な能力を持っているから……ではないようだ。


「まず私は刃目覚者ではないということを知っておいて」

「じゃあその、俺みたいに魔刃の人格汚染を受けているということか?」


黒藤は首を横に振る。


「いいえ、それがこの魔刃の特殊な点」


彼女が鞄から取り出した仮面、青白い表面にヒビがはいっており、何より特徴的な点は

その仮面の下の部分。口元を覆う部分が完全に破損しているところだろう。


「この通り、解放の魔刃は王との戦いで破損され、他の魔刃を喰らうことができない」


もとより、彼の性格上他の魔刃を喰らうことは無かったため、大した問題にはならないが、

それによりこの解放の魔刃は会話をすることができなくなった。


「じゃあ、黒藤。どうやってその魔刃による知識を得たんだ?」


対魔刃部隊も把握していなかった解放の魔刃についての状態。

彼らから魔刃の事を伝えられたわけではないのだろう。

当人に口も無い。


「テレパシーとはちょっと違う……この魔刃の能力の一部だそうだけど、彼の記憶

 その一部が私に流れてくるの。全部いきなり流れてくると人格汚染と同じことになるそうよ」


はるか古の救世主は、人間に対して深い愛を抱いていた。

ゆえに自身を使う者が壊れないように、自分の力を抑え込んでいるのだ。


「そんなことってできるのか?人格汚染をせずに、魔刃の力を使うなんて」

「うん、これはたぶん彼の特殊な能力の影響ではなく、王との戦いによって生じた

 破損による能力の欠如だと思う……らしい」


なんとも曖昧な答えだ。

彼女は解放の魔刃を被った者であるにも関わらず、彼は話すことができない。

記憶の提示ができるだけ。

そもそも彼本人にも、正確なことがわからないのだろう。

偶然による産物。

人間を愛する彼に起きた、魔刃の忌々しい特性の消滅。


「まぁ、だから人格汚染は起きない。でもだからこそ彼が本来の力を取り戻すことはできないの」


精神を奪い、肉体を奪い、そうして彼ら魔刃は本来の力を完全に取り戻すことができる。

かつての救世主が失くしたのは、かつて人類を救った王に匹敵する強大な力。


「だから彼は私に計画を見せた。王に対して忠誠心の無い魔刃を集め、王の配下たちを倒すための組織を作ろうって

 でも、どうやらこの時代の人間は魔刃に対してすでに対抗するためのなんらかの措置を考えているみたいだって気づいてからは

 その組織の力になろうって、私達は決めたのよ」


「つまり……そうか、お前が俺達を呼んだ理由は、対魔刃部隊にお前を紹介しろってことだな」


ああ、なんともタイミングが悪い。

詩朗も夕河も、すでに組織から外れた人間である。

一応、彼らの拠点は知っているが、部外者の二人が連れていくのはふさわしくない。

もっと適任な人物がこの学校にはいる。


「日野先輩に連れて行ってもらえばいいんじゃないかしら」


今まで黙って聞いていた夕河が口を開いた。

そういえば組織を抜けるとなってからまだ挨拶もしていなかったと思い出した詩朗は

明日、彼の元に黒藤を連れていくことを約束する。




「……そうだ、もう一つ君に言いたいことがあるの」

「何だ?」


何を言い出すのか、身構えていた詩朗に黒藤はなんということのない世間話から始めた。

この学校の近くにある甘いものがおいしい喫茶店。

詩朗と夕河、二人とも同じ店を思い浮かべる。


そして。


「あそこのお孫さん、彼女刃覚者よ、それもとびっきり強力な……ね」




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