75再開
前回までのあらすじ……
高校生の月村詩朗は夏休みに魔刃と呼ばれる怪人たちと出会う。
両親を人質に取られた友人の夕河暁を助けるため、彼は魔刃のふりをしてしまう。
魔刃を狩る組織、対魔刃部隊に救われた彼らは、自らが犯した罪を清算するため、彼らの手伝いをする。
魔刃に対抗する武器、Saverシステムに自身の両親が関わっていたことをしった詩朗は戦闘に出て、魔人と戦うことになった。
しかし、彼と同じような境遇の少年、灰城句代を救うことのできなかった彼は、戦う意味を見失う。
罪を償ったと判断された彼らは、いつもの日常にもどるが……?
キーンコーンカーンコーン!
予冷だ。
夏休みも開けてこのチャイムに縛られる生活に戻った。
小、中、そして高校。
学生に刻まれた本能はたかがか一か月ほどで消えるものではない。
「殺し合いの一か月でも……か」
月村詩朗にとって、この一か月は死に触れすぎた一か月だった。
両親を事故で亡くしている彼だが、それは幼いころの話であり、悲しみを思い出すことはあれど
死に対する恐怖というものをはっきりと理解できた年齢ではなかった。
お母さんとお父さんはお星さまになったのよ。
葬式にやってきた親戚の誰かがそんなことを言ったが、それを真に受けるほど無垢でもないが、
それでも死人に対して、なんだか温かいものを感じていた。
きっと元気に生きていれば、笑顔を絶やさなければ、死んだ父も母も喜んでくれると。
「くっ……!」
美術館、保育園、クラブ、展望台。
そこで彼が行ったすべて、人の形をした者の殺害。
最初の美術館で女の首の骨を絶った感触が今になって思い出してしまう。
あの時、覚悟は決めたはずだ。
少女を、自分の命を守るために殺害してもいいと。
「どうしてかな……」
仮面を、あの復讐の仮面と離れたせいか?
みんなの笑顔を守る。
それは英雄的な思考ではなく、自分勝手なエゴによるものだ。
誰もが笑えなくなった世界で、彼だけが笑うことはできない。
「俺は……戦いたいのか?」
あの日、手放した力。
それで彼は何がしたかった?
「月村くん……」
「夕河?」
早朝、普通の学生なら居て当たり前の時間だが、引きこもりがちの彼女が1限目からいるのはわりと珍しいことだ。
いつもなら、ぼさぼさの髪もきれいに整えている。
「夕河、おまえは良いのか?あのサイト……」
先日、月村詩朗と夕河暁はこの街に潜む人類の天敵、魔刃を狩る組織から抜けることにした。
もともと、二人が犯した罪の償いのために入隊したものだ。
両親の意外な一面を知った彼はともかく、彼女が居続ける意味はない。
「私はもういい、あんなことに首つっこまなければ、父も母も、そして君も危険な目に会わせなくてすんだのに」
「でも、お前……」
少女が学業を放り投げても熱中していたそれ。
数えきれないほどのユーザーがいて、みなが新しい記事を楽しみにしていたそれ。
「夏休みの間で、あのサイトはこの街の脅威に対する情報交換の場になってたし、何より
魔刃以外でのオカルトネタは大体やってネタ切れ、つまりオワコンってやつ」
対魔刃部隊にサイトの管理人を預けた。
これからは魔刃に対する警告を行うサイトとして運営されるだろう。
今この街に必要なのは、そういうものだ。
彼女はそう言って、自分の席に座る。
新品同様の教科書を開いて、何も映っていないような眼で見つめている。
「…………」
死んでいった者、父、母、そして詩朗が殺した元人間達、助けることができなかった住人。
生きている者、おばの詠、喫茶店の店長と孫の霧香、そして友人の夕河暁。
彼女は『生きている者のため』を選んだ。
「俺は、どっちだ?」
誰のための戦いだったか、そんな詩朗を気にした様子もない教室に教師が入ってくる。
「ほーいホームルームを始める……今日は、君たちの新しい学友を紹介するぞ」
「えー!!」
「だれだれ?男の子?それとも女の子ー?」
詩朗の悩みなんてお構いなしに、周囲は賑やかになる。
その自分だけ置いて行かれたような気分に、数年前の自分とデジャブを感じさせる。
「いけないな、わかっているはずだ、俺はもう選んだ」
自分だって生きている者のためを選んだ。
それは自分自身も含まれるはずだ。
死に囚われて、笑顔を失った自分。それを何度も繰り返しても意味がない。
「それじゃあ、入ってきて自己紹介をよろしく」
「……はい」
黒板の前で自らの名を書き、挨拶をするその少女。
「黒藤しのぶです」
しのぶ……心に覆いかぶさる刃。
そして、彼女の後で結ばれた奇麗な黒い髪が、詩朗が忘れようとした記憶を刺激した。
「解放……の魔刃……?」
先の展開に迷っています。