74墓参り
夏の熱さは薄れ、程よい気温となった。
九月、夏休みが明けてから数日が経った。
胸に穴が開いたように過ごした数日は、あの命を賭けた戦いの日々を送った夏休みより長く感じられた。
霊園。
灰城家の名が記されたその墓石の前で、彼は手を合わせていた。
だがそこに彼の知人は眠っていない。
灰城句代。
家族を奪われ復讐を誓っていた少年。
彼が恨んでいたのは魔刃と呼ばれるこの街に潜む怪物たち。
そしてその正体は自分自身だった。
彼の体……というより完全に魔刃のものとなったそれは対魔刃部隊に回収された。
魔刃に対抗する武器の素材として。
「…………詩朗さん」
一緒に来ていた少女は赤木霧香。
彼女が灰城句代を月村詩朗とめぐり合わせた。
「君のプリンを彼にも食べさせてあげたかった……」
暗い顔のまま、霊園を後にする詩朗。
彼の背中を霧香は追いかけようとしたが、どんな言葉をかければ良いか思い浮かばず、足を止める。
「詩朗さん……」
「………………」
詩朗を見つめる少女。
その後ろに、黒い影が二人の様子を伺っていた。
「……彼の……」
その影の主も、墓に眠ることも許されなかった少年と関係していた。
本来なら魔刃と化した彼を仕留めるのは自分の役目だったと、供えられた花を見る。
解放の魔刃。
かつて人類を魔刃の手から解き放った彼は、今は彼女に力と記憶だけを託している。
王の配下といっても、その体は元は善良な人間のものだ。
何の罪もない、仮面の怪物に体を奪われた被害者の一人のはずだ。
「……彼を、彼のような者を救う手はない、そうなんだろう?」
返事はない。
かつての英雄はこの状況に胸を苦しめているのだろうか?
黒髪の少女は見つめていた花の隣に、彼女も安らかの眠りをこめた花を置いて、その場を去る。