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マスカブレード  作者: 黒野健一
第四章 終夏/救われた者/救われぬ者
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71消火

ついに決着!!

「うっ……」


一瞬、意識が飛んでいて気がする。

破壊された展望デッキの上、灰城句代の顔を覆う髑髏の仮面が、夜風に揺らされながら笑っていた。


「こいつはァ、いい!!まだ生きてるなぁ?」

「あたり、まえだ……お前を絶対に倒すって決めてるからなァ!!」


立ち上がり、拳を握って一気に駆け寄る。

詩朗の突き刺すような拳を、叩いて相殺する焼失者。


「うぉおおお!」


この夏休みの半分程度だが、費やし鍛えたその拳を何度防がれ、かわされようとも彼の攻撃は止まらない。

焼失者にはどれも温い一手で、退屈そうに対処している。


だが拳が空振ったその隙を、見逃すことはなかった。


「オラ……つまんねーけど、ガキの遊びには突きやってやんねーとッなァアア!!」

「……ぐっぅふ!?」


腹部に強烈な一撃が入る。

それは人間の拳では再現できない、魔刃の性質による痛み。

打撃ではなくナイフで刺されたかのような刺突のようだ。


「がぁあああああ!!」


彼は服の赤い滲みを抑えて、その場で膝をつく。

仮面の下では歯を食いしばりながら、痛みで意識が消えないようにこらえている。

そして、彼の目にはまだ戦う意志が宿っている。


「復讐!!」

「あァ……!!」


力強く、自分の血で濡れた服を絞るように片手でつかむ。

腹部から流れるそれは、彼の手を汚しながら垂れていく。


彼からこぼれていく生の証明は、仮面の力により凝固し、小さな刃物へと形を作られた。

それを握りしめた手が、彼に生暖かい自分の命の温もりを感じさせ、同時にそれが失われていることを再確認させた。


「あぁ……あああああ!あああああッ!!いい加減飽きてきたんだよなァ……」


小さな刃を構えた詩朗を見て、灰城句代を覆い隠す髑髏の仮面が言う。

せっかく身体が自由になったというのに、張り合いのない相手だと。


「これじゃあ王サマも満足できねェだろうな……」

「なんのことだ……?」


焼失者の一言が気になったが、それに気を奪われるわけにはいかない。

先ほどの、『出来損ない』達の攻撃により、彼の身体は傷だらけになっていた。

以前復讐の魔刃が喰らった、癒しの魔刃の効力により、彼の傷口がふさがり、そこから生える刃も復讐の意思が萎えていく。


「長期の戦いは不利だ……」


ここに来る前に、Saverシステムで暴欲の魔刃と戦った疲労もまた、彼を苦しめていた。


「もしここで敗れても、地上の青井さんが本隊を呼んでいるはず……」


黄鐘や日野ら、部隊の戦力の要の刃覚者達はみな消耗していたが、根吹やそのほかの一般戦力はまだ動ける人間はいる。

彼らで対処できるぐらいには、最低でも消耗させなければならない。


たとえ相打ちになってでも、この魔刃に対して致命的なダメージを与えてやる……!!


詩朗が意気込んでいると、焼失者の魔刃は寄声じみた叫びをあげながら、しかけてきた。


「てめぇはもう、灰になって終いだァアアアアアア!!」


体から漏れる炎が蛇のようにうねり、彼の片腕に巻き付いた。

蛇の頭であろうその拳は、大きく口を開けた蛇の牙のように、指を曲げている。


「……くっ!大きい!」


想像以上の攻撃に、必死に対処する行動を、焼失者が燃える蛇の頭を連れてくるまでに考えた結果、

彼は自身の左腕を差し出し、蛇がそれに噛みついた。


蛇は毒の代わりに熱を吐き、詩朗を襲う。


「オラァ……!!死ぬぞォ!?死ねェエエ!!」

「ッぐ……ガアアァアア!!」


このままだと、蛇に腕をかみ砕かれる。

そう思った詩朗は、右手に握る血のナイフを再生しつつある自分の腹部の傷口という、ナイフシースに収める。

そして空いた右腕で左腕を支えながら、蛇を力で押しぬけようとする。


詩朗の左腕は、熱により、皮膚がただれる。

復讐の魔刃は、火傷への能力使用を始める。


「赤く……輝く鉄」

復讐の魔刃も初めて見るそれは、鍛冶職人が打つような熱せられた鉄の塊。

それが詩朗の左腕の火傷を突き破って現れる。


「口を……開けろォ!!」

「なっ……!?」


蛇の口を内側から鉄の塊が押しのけていく。

焼失者の魔刃は、一度詩朗から離れて、その鉄塊が形を変えていく様を観察する。


「ぐっ……ぐ……うぁあああああ!!」

腕の肉が熱しられた鉄を当てられ痛い。

鉄塊はギロチンの刃のように形成され、その刃の表面はケロイド状のように盛り上がっている。


ギロチンはいまだ冷める様子が無く、赤白く光る刃が、周りの空気を歪める熱が、燃え上がる彼の苦痛と闘志を表している。


「熱い……熱い熱い熱いッ!!」

癒しの魔刃の力が彼の熱を冷やし始める前に、このギロチンで髑髏を断罪すべく、離した距離を縮めるため走る。

熱のこもった刃が引きずられ、床を裂きながら焼失者の前に行くと、それを力いっぱいに振り上げる。


「ヒっ!!ヒヒヒヒヒヒッ!!いいぜ!!そういう派手でデカイやつを待ってたんだ!!」

「うぉおおおおおお!!」


詩朗のギロチンを焼失者の蛇の顎が食らいつく。


「うぉおおおおおお!!うァああああああッ!!」


彼の左腕の感覚は全て熱が支配し、うまく彼に伝達しない。

しかし、見たところ力では彼が押しているようだ。

蛇の口が裂けていく。


「ヒ……ヒヒッ…火火火ッ!!!」

髑髏の闇のような深い目の溝から涙のように、どろどろとした熱いなにかが漏れ出る。

それはこの焼失者にとって感動を表すものだった。


「いいぞォ!何年モノ時から目覚めて本当に良かったァ!!」

「お前が、お前が目覚めなければ!彼は何も失うことがなかったァ!!」


このまま刃が蛇を真っ二つに裂くことができるかと思われた。

だが、髑髏の仮面からあふれる炎が、腕の蛇に吸い込まれ、もほや蛇は無く、なにかの凶暴な獣のような異形な頭の形へと変わる。

当然、火力が底上げされ、押していたはずのギロチンが押し返され始める。


「なんだ……こいつゥ……強くなったぞォ!?」

「構うもんかァ……!!」

詩朗がそれに対抗して力を入れる。

そうしていると、彼から生えたギロチンの刃に亀裂が生まれていく。

獣の牙によってかみ砕かれてしまったのだ。

それと同時に、炎の獣頭も消滅したがこの拮抗した力比べは焼失者の勝利となった。


「ヒィイイイイッハァアア!!俺の勝ちだァアア!!」

「まだ……俺にはまだ刃がァ!!」


先ほど腹部に突き刺して温存していた小さな刃を右手抜き取り、相手の髑髏の仮面めがけて振るった。

だが、それは魔刃の腕に阻まれ、刃先は仮面に向いているが届いていない。


一方詩朗の左腕はひどい状況で、力が入らない。

先ほどまで、火でできた異形の頭が覆っていた焼失者のもうひとつの腕は、詩朗の顔に掌を押し当てている。


魔刃の力をかき集め、炎を点火し、詩朗の頭ごと復讐の魔刃を吹き飛ばすつもりである。


「うっ……うおおおおおぉ!!」

「……!?何を……!!」


最期の一撃の準備を待っていた彼を驚かせたのは、詩朗の握る刃が少しずつこちらへ伸びていることだ。

詩朗が腹部から抜き取ったときに、魔刃の力が、付着した血を赤いピアノ線のようなものに形成していた。

それは彼の腹部とナイフを繋ぎ、ほつれたセーターがほどけるように、ナイフが腹部から糸を巻き上げてている。

徐々に、毛糸が集まるようにナイフの刃は大きくなり、詩朗から血を奪っていく。


「くっ……このままでは!うおぉおおおモエロ!モヤセ!!」

「ぁあああああッ!!突き刺されェエエエ!!」


互いが最後の一撃を放つことに全力をかけている。


「ぐっ……うお、うぉおおおおおお!!」

「うっ……ああああああぁああああ!!」


詩朗から伸びる赤い糸が、短い刃に高速で巻き付いていき、刃を拡大させ続け、そしてついに焼失者の仮面の表面に突き刺さった。

詩朗はもはや、自分から刃へ送られていく魔刃の力と自身の血液により、意識が途絶えかけている。

目の前がぼやけて、モザイクが掛かったようになる。


「ぐがあああぁあああ!!早く!モヤセェエエ!!」

焦る焼失者、その手の甲は真っ赤に輝き始める。


「よし……!!」

「うおぉおおおお!!」


詩朗の右腕の刃が髑髏の仮面に深く、深く刺さっていく。

そして、焼失者の炎が発射される。


「…………ッ!!」




ひょろり……詩朗の顔を、復讐の魔刃に乗せられていた手の力が抜け、蓄えられていた炎は、詩朗のはるか後に飛び、夜空に打ち出されていく。

髑髏の仮面は、刃が突き刺さった部分から、マグマのようなものが流れ、それもすぐに固まった。


月村詩朗は、右手を突き刺さった刃物から離すと、その場で後ろ向きに倒れる。

プツン……とナイフとつながっていた糸が切れると、そのまま詩朗の意識も途切れていく。


「……あ」


彼の元へ、なにかが近づいてくる音が聞こえる。

それが敵の仲間なのか、味方なのか、それすら確かめられず、彼の意識が完全に失われていった。













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