70王の心臓
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夜空から小さな太陽が消えた同時刻。
「ふふふ……どうやらあなたが行かせた彼、焼失者と無事出会ったみたいね?」
「無事……?」
何らかの目的があって、それを邪魔されないためにこうして足止めしているのではないのか?
解放の魔刃の力を持った黒髪の少女は疑問を口にし、それに機嫌の良い傍観者が答えた。
「私たちの目的は、今果たされているのよ……あなたが彼を焼失者の元へ行かせたのも
私がこうしてあなたと戦っているのも、すべて順調……むしろ最善の状況よ」
まだその答えの意味が理解できていない彼女に向けて、優越感に浸りながら全てを明らかにし始める。
「私たちの目的は、魔刃の復活」
「お前たちが魔刃を集め、王を迎える準備をしているのは知っている」
解放の魔刃は、部分的に人間である彼女に記憶を与えていた。
人間を愛した彼は、人格を支配する代わりに記憶を植え付けるという
普通の魔刃にはできないことをやっている。
「では、どうやって魔刃は蘇るのか?」
「…………」
「あら、教えてもらってないの?いや、第二世代の彼は知らないか」
傍観者は、足元に細長い指を指す。
その地面の下、とても深い底には巨大な剣が眠っていた。
「かつて魔刃達は世界中に存在していた」
この広大な星を彼らは支配していた。
だが、彼らが支配していた人間に情を抱き、反逆した者がいた。
それは魔刃達を二つに引き裂き、争いの中、王と反逆者は同じ場所で共倒れになった。
「あなたと、王は今はこの剣之上市という街の深くそこに眠った」
「お前たちやその他の魔刃と共にか……」
「かつてこの星の支配者だった頃は我々の力の源で全ての大地が満たされていた……だが」
各地の王が反逆の意思に敗れ、それは失われていった。
この街に眠るのは、その王の中で唯一死に損なった存在。
「剣……王の身体」
そして魔刃の力の源を発している、彼らの心臓である。
「我々が目覚め始めたのは、王の心臓が幾年の時を経て、再び動き始めたから」
それは解放の魔刃ですら例外ではない、むしろ……
「あなたは王に対抗できるほどの力を持っている、ならば」
王の目覚めは近い。
だがその前に、王に従えた『彼ら』の復活が先だろう。
「私の、仲間たちの復活。それが今回の目的ね」
「お前は……まるで、意図的に仲間を復活させることができるかのように言っているな」
「……うーん、意図的とはいかないけど、復活を早めることはできる……わッ!!」
「ッ!?」
突如飛び掛かってきた傍観者に、彼女はギリギリ反応することができた。
手刀、ただし魔刃である傍観者にとっては、解放の魔刃が持つ実際の刀と実質的に同じモノである。
お互い、力が均衡し刃が震える。
「こうやって、私たちが戦うこと。それこそが深き眠りにつく王への呼びかけとなるのよ!!」
「……なっ!?……くっ!!」
刀に自身の能力を掛け、秘めたる力を解放する。
それは、瞬間的に強度を高める代わりに反動で自壊するという、矛盾じみた力だった。
強化された刀を振るい、傍観者は跳ねのけられる。
「魔刃が力を使い、王の肉体である剣から力を供給する」
それは心臓の鼓動を速めるような行為。
いくつもの時代をかけて、徐々に蘇ってきた魔刃達が、最近活発に活動し始めたのは、先に復活した傍観者が
王の復活を促進するような活動を行ってきたからだ。
「今、こうしている間も王が目覚めようとしてるのかッ!?」
折れた刃を再生させようとしていた解放の魔刃が、その行為を中断させる。
今の話を聞いて、完全に闘志を失った彼女を見た傍観者が、少し物足りなさそうな顔をしつつ、姿を消す。
「私の目的はもう果たした」
声だけがその場に残り、一人になった黒髪の少女が煙を上げた展望台の方を見つめた。