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マスカブレード  作者: 黒野健一
第一章 詩朗/魔刃との遭遇
7/120

7被ル刃

「シィイイイ!!」

腕から生えた巨大な刃を振り回す。

「うぉおおおッ!!」

だがそれをかわし、もう一度振るわれた刃も完全に見切っていた。

仮面を被った詩朗はまるで調子の良い日の朝みたいに頭と感覚が冴えていた。

次に相手がどういう風に刃を振るうのか完全に理解している。


そして、その攻撃の隙も。


「っがぁあ!!」

今まで握ったことのないような強さで拳を振るう。

彼は今で全力で人を殴ったことがないが、それでもこの感覚は常人の出せる威力ではないと思った。

しかしその一撃が相手の顔面に入るも、相手はすこしふらついただけであった。

むしろ殴った方の拳が、包丁で指の間を裂かれたように大きな傷が生まれる。


「ッ……ウアアアアアアアアッ!!」

拳を握りながら叫ぶ詩朗。


「クソッ!やっぱりコイツじゃ力不足かッ!」

頭の中で響く声が怒鳴っている。

「だが……これで武器は手に入った!」

「……ぶ、き?」

裂かれた傷口に妙な感覚を覚え、視線を落とすとその裂かれた跡から何かが生えてきた。

「……なっ、刃……!?」

指と指の間の傷口から、中指より少し長くらいの刃が生えてきた。

「これ……は?」

「それが俺の能力だ!だが油断するな!俺は相手の仮面を知っている!」

「あ……あなた、あたしの邪魔するなら!許さないわぁ!!」

仮面の女……ではなくこれは相手の被る仮面の声だ。

同族と言っていたが、どうやら敵対しているらしい。

こいつらの目的はわからないが、詩朗にとって今大事なのはこの状況をどうにかすることだ。

それならばと、この味方してる仮面の力を借り、戦うことを選んだのだ。


仮面の女の腕の刃は、一般女性が扱うにはどうやら大きく、重すぎるようで軽々しく振り回すことができない。

それをかわすのは容易であるが問題はこちらの攻撃である。

「刺せ!」

「……ッ!ああ!!」

これまで喧嘩もしたことないような少年ゆえ、人を刺すことにためらいつつも自身と少女の命を守るため

覚悟を決め、先ほどの指の間から伸びた刃を仮面の女の肌を傷つける。

赤い血が流れるが、傷は浅い。

「ためらうなッ!そいつはもう人間じゃねぇ!!」

「いたぁいじゃなぁいい!!」

仮面の女が腕を振るう動作をする。

それを察知した詩朗が床を転がるように回避し、相手の注意が自分にいっていることに気がつく。

まずはこのまま少女から仮面の女を遠ざけることにした詩朗は攻撃を避けながら建物の出口の方へと行く。


「ぐっ……!!」

だがすべてかわせたわけではなく、かすり傷を負う。

そして、その傷はかさぶたの代わりのように刃がふさいで出血を止める。

「遠距離攻撃だァ!」

「え?」

詩朗の顔を覆う仮面が叫ぶが詩朗は銃や弓を持っているわけではない。

「『何』でだよッ!」

「お前の傷だッ!!」

詩朗が先ほどから受けている浅い傷からは刃が生えているが……それがどうしたと聞き返す。

「そいつを取って投げろォ!!」

「えぇ……」

「やれッ!!」

傷から生えている刃を抜くということはふさがっている傷口を開くことである。

当然もう一度痛みが発生するだろう。

「それともあのでかい刃のところに飛び込んで斬りつけるか?」

「……くっ!!あああああッ!!うおおおおおォ!!」

その刃はばんそうこうを剥がすように簡単に取ることができた。

だが剥がしたときの痛みはばんそうこうとは比べ物にならない。

刃が取れ、傷口が現れるが再び刃が生えてくる。

「フンッ!その程度の能力はあるか、良かったな無限に弾数がある」

「……結構痛いんだけどな……」


刃を投げるイメージはダーツの要領であった。

詩朗はもちろん刃物を投げたことなどないしダーツの経験もなかったが自然と刃をどうすれば

相手に奇麗に突き刺さるように投げれるか、感覚で理解できていた。

これも仮面の能力の一部なのだろうか。


「いやぁあああああっ!」

突き刺さった刃を見て悲鳴を上げる女の仮面、そしてもうひとつの仮面……詩朗の仮面があることに気がつく。

「やはりな、突き刺さる攻撃は有効だッ」

「どういうこと?」

「いいか!あいつの能力は超再生能力だッ!!傷を負わせてもすぐに治す」

詩朗が女の体を確認すると先ほど刺した攻撃の傷は跡もなく消えていた。

しかし今投げた刃が突き刺ささった箇所からは今も血が滴っている。

「異物が体に入ったままだと再生できないのか……?」


仮面の女は自分に刺さった刃を、鋭利に尖った爪でえぐり取る。

その動きは大雑把で、攻撃よりもひどいありさまであるが、傷口は少しずつふさがっていく。

「ゆ……さないわぁ……こ、の……」

怒りをあらわにし、向こうから接近してくる。

「やはり火力不足だッ!」

「どうすればいい!?」

迫る仮面女に恐怖する詩朗。

そして彼に協力する仮面の出した提案は。


「次の攻撃を受けろォ」

「……え?」

より深い傷を負えば負うほど、生える刃の大きさや鋭さ、切れ味なんかが良くなると仮面が説明する。

死なない程度に、戦闘に支障が出ない程度で、それでいて最大限に傷を負え。

仮面の要求に詩朗の表情は硬くなる。

「……笑えねぇ……クソッ!」

覚悟を決める余裕もない、仮面の女は大きな刃で突きを繰り出すように構える。

こんどはこちらが突き返してやるということだろう。

突き刺す攻撃はこちらにも友好的である。

刺さったままであれば、刃で傷がふさがることもない。


「ぶっささっちゃえぇぇぇぇえええ!!」

女がおもいっきり踏み込み、そして鋭く巨大な刃の先が詩朗を狙う。

「どう、する?」

頭の中の思考が加速する、女の攻撃の間という短い時間が彼にはゆっくり過ぎていく感覚を覚える。

これも仮面の力か?それともただの火事場の力か?

詩朗にはそれがわからないが、これからどういう動作をとるかはその時間で考えがまとまった。


まず女の突きの攻撃を体をそらして避ける。

巨大な刃は壁に突き刺さる、あのまま避けなければ詩朗に逃げ場はない。

串刺しになったままその刃を振り、体は真っ二つになっただろう。

次の詩朗の取った行動は、女が刃を壁から引き抜く前にまっすぐ刺さった刃に腕を叩きつける。

手の甲からひじまでに深い傷を負う。

「なぁーにしてぇ……?」

「あ……ああああああッ!!」

腕を刃に食い込ませながら仮面の女に向かって突き進む。

血が腕から刃に、そして刃を伝って地面へ流れていく。

「があああああッ!!!」

十分に距離を詰めると詩朗が腕を振るう。

血しぶきが女の仮面を汚し、深い傷から現れた刃が女の首元を襲う。

「がッアアアアアアアッ!!!!」

「……ッ!?アァ!?」

叫びをあげながら首元を斬りつけた刃に圧力をかける。

喉に食い込み、女は声で表せないが痛みにもがき苦しんでいる。

「どうやら……肉体が完全に馴染んでいるわけではないようだなァ……」

「つぎは……どうすれば……ッ!?」

反対側の壁に追い込み、刃と壁で女の首を圧迫した。

ゆえに先ほど刺さった巨大な刃は壁から抜けていた。


「ッぐぅう!!ああああッ!!」

ドスッ!と詩朗の腹部に衝撃。

女の必死の抵抗で巨大な刃が何度も打ち付けられる。

傷が刃でふさがり、二度目以降は肉を裂くことはなかったがそれでも衝撃が体に走る。

それでも意識が飛ばないように、歯を食いしばり、逆流してきた吐しゃ物で仮面の中を満たしながら耐える。


「デェエアッ!!!」

そして、詩朗が初めて骨を断つという感触を覚える。

仮面を被った女の首から上がごろりと落ち、吹き出した血が壁だけでなく天井へも吹きかかる。

床を転がる仮面を被ったままの頭部を見つめると詩朗の意識がだんだん薄れていく。


「……お……れ、ひと……を……」

そして完全に意識が途絶えて血だまりの中に身を沈めた。



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