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マスカブレード  作者: 黒野健一
第四章 終夏/救われた者/救われぬ者
66/120

66深い傷

ゲーム楽しくて小説書けてないです。

砕けたガラスの破片が、色鮮やかな光に乱暴に照らされる。

ドッドッドッ……鼓膜を振るわせ心を揺らせる音、だがその音で舞い踊る者はいない。


「ぐっ……ぐちゃぁあああ!!」


暴欲の魔刃は切り取られた胴体を、股間より少し上あたりの仮面が食らいつく。

自身の上半身にあったモノは、彼がすみやかに平らげてしまった。


「うぐっ……!ぐぅううう!!」


もはや人間の姿も保っていない彼。

へそより上を失ったが、代わりに彼の本体とも言える仮面の角がさらに二本増える。


ぐねぐねと、植物の発芽の様子を早送りで見ているようにその角は生えてきた。

その角の肥料となったのはまちがいなく、彼自身の上半身だろう。


腕も失った彼は、その四本となった伸縮自由な角を腕代わりに使うつもりにしている。


「……なんだ、コイツは……?」

「コイツ、自分自身を喰らって自分自身の能力を上げてるようだな」


魔刃という種は、同族を喰らうことでその魔刃の特性や能力を身につけることができる。

彼は『自分』を喰らうことで自分自身の能力を重ねて修得しているような状態である。


「それは、俺にもできるのか?」

「無理だな、アイツの特殊な能力か突然変異か……こいつはイレギュラーだ」


復讐の魔刃の経験上、通常の魔刃が自分自身を喰らうということはなかった。

それは、自分も一度試したことがあった。

ほんの興味本意で、他魔刃ではなく、自分を喰えばどうなるか。


「答えは何もならなかった」


10から1を引いて1を足す。

そんな無駄な作業だったと語る。


だが、現に相手している彼は違うようだった。


「ああ……こりゃ、人の形が恋しいな」


どうやら自分の肉体を喰うことに抵抗は無いが、人として生きてきた彼は人の形に

慣れているからか下腹部に顔、腕の代わりに角という状態が気に入らないようだ。


「お前、いきなり斬るなんて、なかなか暴力的だなぁ……次の俺はお前で決まりだ」

「ハァン!悪ィがこいつは渡さねぇ、殺るぞ詩朗」


復讐の魔刃が自分を狙う相手にそう答えたので、詩朗も同意し相手に剣を向ける。


「ああ、俺はお前にはならねぇ!!」

「へへへ、お前を俺にしてやる」


荒ぶる四本の角が、順番に一本ずつ詩朗に向かって彼を貫こうとする。

角の根本からは下衆の笑い声が聞こえてき、詩朗はそれを聞き流すのと同じように攻撃を躱し続ける。


「Load!断片!!」


剣に仮面の破片から作り出した『斬骸』を刺す。

『断片』の能力が剣の上で再現され、剣自体の形状が巨大なノコギリのように波のような刃が並ぶ。

そしてそれを暴欲の魔刃の本体を真っ二つにするように、振り下ろす。


「ひっへへへ!!オラァ!!」


二本の角でそれを受け止められた。

ほんの少し角に傷ができたが、大した損傷でもない。

暴欲の魔刃は気にした様子もなく、残りの二本で詩朗の体を打つ。


「ぐっ……!」

咄嗟の反応でその攻撃を防ぎきれなかった。

踊り狂う者達もいないこのダンスフロアでいまだになり続ける音楽が、投げ飛ばされた詩朗に押しつぶされ途切れる。

破壊された機材を暴欲の魔刃に投げつつ、詩朗はすぐに起き上がった。


「フン!とっととととと俺にしてやる!!」


四本のうち一本で、投げ飛ばされた音楽機材の残骸を払いながら、今度は詩朗の方へとそれが伸びていく。



「……ッ!」

「月村ァ!」


詩朗に迫る鋭い角の先端が、根吹を含む数人の射撃によって破壊される。


「ぬっ……!!」

「こいつを使え!!」


二階フロアから投げ込まれたそれを詩朗が受け取る。


「これは……?」


それは詩朗のベルトのケースホルダーや、剣に刺さっているモノと同様のものだ。


「そいつは俺の元々の相棒だ、天野に頼んで特急で作らせた!使え!!」

「……!!」


かつて刃覚者だった根吹が共に戦った魔刃。

それが今、こうして形を変え、月村詩朗の元にある。


「邪魔ァ!お前らから先に片付けるべきだったかぁああ!?」

「させない……!!」


詩朗の持つ剣の、赤いコアが輝く。


「Set!復讐!閃光!」


詩朗を守る装甲に変化が起きる。

閃光の魔刃の力を受けたため、復讐の魔刃から力を供給され形成されていた鎧の一部が崩壊する。

そして、抑制不可能な力が崩れた部分から漏れ出す。


「なんだぁ?ピカピカしやがって」

「復讐!以上はないか?」

「チッ、異物が混じってるこの感じ不快だ!早く仕留めろォ!!」


剣を強く握りしめ、復讐の魔刃に自らの闘志を示す。


「派手になった程度で、何ができ……」

「……ハッァアアア!!」


暴欲の魔刃の煽りが吐き終わる前に、彼の角の半分が切断され、彼の足首辺りに深い傷が開いた。

それを行った当の本人は、暴欲の魔刃の背後で振りかざした剣をもう一度握りしめなおしていた。


一瞬、ほんの少し鎧から漏れ出す眩い光に目をくらましたその隙に、暴欲の魔刃は三か所も切り付けられていた。


正面にいたはずの眩い光を放つ剣士が、今は彼の後ろにいることを、ゆっくりと振り返り確認する。


「ぐぅ……!!おいお前!!なんだそれはッ!?」

「次で決めろォ!!」


光速の剣士の顔を覆う仮面がそう叫んだ。

その声に反応したのは詩朗だけではなかった。


「死にやがれぇぇえええ!!」


もう体もボロボロになっていた暴欲の魔刃が最後の力を使い放つのは、二本を束ねて螺旋状になった強大な角の一撃。

堅い床を削りながら、詩朗の元へ迫る。


「……!」


彼のいた場所に突き刺さるが、そこに彼はいない。

光を纏い一瞬消えると、今度は暴欲の魔刃の上にその姿が出現する。


「Save!閃光!」


空中にその身を自ら放り投げた詩朗は、すばやく剣の柄に斬骸を刺しこむ。

彼を纏っていた光は消え、代わりに崩壊した鎧が再生する。


「Load!閃光!」


詩朗の持つ剣が機械音声でそう叫ぶと、剣の先からまっすぐな線のような光が発射される。

それは先ほど、詩朗が切り付けた暴欲の魔刃の足首辺りに放射され、その部位がまるで溶けるように破壊された。


「ぐがぁああ俺の足がぁあ!!」

「今だ、トドメいけェ!」


足を壊され身動きが制限された姿を見て、復讐の魔刃が詩朗に命じる。

詩朗は黙ってうなずき、彼の持つ全ての斬骸を剣に装填する。


「Save!復讐!静寂!断片!拡散!癒し!閃光!」


何やら危険な攻撃が来る!と察知した暴欲の魔刃は、回避ではなく、防ぎきることを覚悟し二本の角を自身の目の前でうねらせる。


「いけぇえええ!!」

「Load!静寂!断片!拡散!癒し!閃光!」


詩朗が剣をその場で空を切るように振ると、剣が砕け散り光を纏って飛び出す。

その牙のような剣の破片は暴欲の魔刃に向かって飛び、彼はそれを二本の角を伸ばして叩き、壊した。


確かに破壊した。


「何ッ!?」


その粉砕された破片は光を発し続け、そして破片同士が集まって元の大きさに再生し、再び暴欲の魔刃に襲い掛かる。

『癒し』の力で再生した『閃光』の速さで飛来する『拡散』されし『断片』が、暴欲の魔刃の足や仮面に突き刺さる。

それ自体が致命傷にはならないが、その刃は『静寂』の力を宿していた。


「体が……動け……な!?」

「うぉおおおおおお!!」


『静寂』を与え、用を澄ました『断片』が剣の元へと帰ってくる。

そしてそれを再び『閃光』を纏わせ、『拡散』し、自身の左腕の装甲を突き破らせる。


「Load!復讐!」

傷を負った装甲が、突き刺さった輝く刃ごと飲み込んで魚のヒレのような形状で再生する。


「終わりだ!光断斬!!」

「うあああああああああああッ!!」


角で防ぐこともできない暴欲の魔刃は、そのまま仮面を眩い光を纏った斬撃で仮面を真っ二つにされる。

人間の下半身だけで動き回り、股の間に仮面を被せたような、奇妙で滑稽なその姿もその一撃で破壊され原型を留めない。

ただ刃の破片が真っ二つにされた仮面の周りに飛び散っただけだ。


当然、その割れた仮面はもう喋ったりしない。


「ぐっ……ふぅ……」


暴欲の魔刃の破壊を確認した詩朗がほどけた緊張と共に息を吐くと、彼を纏っていた装甲が一気に剥がれ落ちる。

どうやらSaverシステムの活動時間を使いきったようだ。


「……!黄鐘さん!」

「月村!お嬢は無事だ!傷は深いが生きてる!」


対魔刃部隊の銃弾の盾にされた黄鐘は、悔しそうに、痛みをこらえるように、歯を食いしばっていた。


「くっ……敵にいいように利用されて身内に撃たれるなんて……ぐぅうう!!」

「……すまん!!でも今はおとなしくしとけ……」


怒る黄鐘を慰める根吹は、やはり気にしているのかどこか暗い表情をしている。


「…………」

「日野先輩……大丈夫ですか!?」


腹を貫かれた日野は、そこに手を当てながら黙りながら詩朗を睨んだ。


「……このくらい、この程度は深手ではない……ないのに……!」

「先輩……?」


力が入らない、その場でうずくまっている彼を詩朗は手を貸そうと近寄る。

「先輩!もうすぐで治療班が来てくれますから……」

「うるさい!」


近づいた詩朗を払いのける。

その動きで彼の腹部から赤い水滴が垂れ、床にこぼれ落ちた。


「選ばれし者よ!何に怒りしている?」

「黙れ!俺は……俺は……!ぐぅう!!」


立ち上がろうとしたが苦痛で再び血を吐き、その場で跪く。

詩朗は彼を安静にさせようと再び寄ろうとするが、それを復讐の魔刃が止めた。


「よせよ、そいつなんかおかしいぜェ?キレる体力があるなら、救護が来るまでに死んだりしねぇよ」

「でも……でも」


「……俺はほっとけ、それより黄鐘の方に行け、お前の持つ癒しの斬骸を制約に喰わせれば少しはアイツは楽になるだろ」

「……はい」


いつものように調子よく、傲慢な態度ではなく、ただ煩わしい存在を遠ざけるように言い放つ日野。

詩朗はそれを感じながらも、彼の言う通りにした。

クラブの外へ運ばれた黄鐘を追いけ、日野は一人その場に残る。




「ぐっ……!この俺が倒せなかった相手をあの後輩が……くそっ!!」

「選ばれし者……」


音も光も失った静かなダンスフロアを彼が垂らす血が汚し続けた。





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