65奇襲ーナイトクラブ
毎日投稿って難しいですね。
のんびり書いていきます。
剣之上市繁華街……とあるクラブにて。
騒がしい音と光とは対照的に、人間達は床や椅子の上でぐったりとしている。
血を流した彼ら10~20人ほどは、みな息絶えている。
死臭を漂わせながら、クラブ内を飾るオブジェクトと化した。
そこでただ一人、皆殺しを果たしたため全身を真っ赤に染めた男が、辺りに転がる死体たちを満足そうに眺めている。
「へへへ……うへ……」
「こちら二階フロア、対象を捕捉。襲撃の合図まで待機します」
「了解……」
クラブ内は一階の広いダンスフロアを二階から見下ろすことができる。
二階はソファーやテーブルが並んでいて、姿を隠すのにはうってつけであった。
「……よう、化け物」
一階の出入り口の一つから、日野研司が姿を現すと声をかけた。
暴欲の魔刃はそれに気づき、仮面で覆った顔を傾ける。
「へへへ、お前らも魔刃の力を使う人間なんだってな……」
「ああ、そうだ」
一歩、二歩、三歩。
少しづつ二人の距離が近づき、緊張もそれに比例して大きくなる。
「最高だよなぁ?魔刃の力ってのはッよォオオオ!!」
暴欲の魔刃の高まりが限界を超え、暴発した。
まっすぐ突っ込んできた彼を前に、日野は冷静さを保つ。
「ふん、お前たちのように力に溺れはしない……」
掴んだ仮面を自身の顔の前へとやる。
「魔刃共を滅ぼすために、俺はこの力を使う……!!」
先導者の力を身にまとった日野は、細身の剣を形成し、接近する男の胴へ突き刺す。
「ぐぅう!!ははははっ!!そんなものでよぉおおお!!」
ダンスフロアの中央で、先導者のレイピアを突き刺された男が吠える。
日野は相手から細身の剣を折られたり、抜けたりしないように気を配りながら合図を二階に送る。
「今だ、なりふり構わずぶちかませ!!」
「うおおおおおおお!!」
二階に潜んでいた武装部隊が姿を現し、一斉に発砲する。
放たれたのは対魔刃用の弾丸。
一発程度では致命傷にはならないが、無数に放たれたそれを喰らえばただでは済まないだろう。
「くっ……!?お前、自分ごと!?」
「ふん、勘違いするな、お前と心中するつもりはない!!」
突き刺した剣を握る日野も、当然弾丸の雨の範囲内に入っていた。
日野の背後に、対魔刃弾が迫る。
しかし、その弾丸は日野の近くで奇妙な軌道で動き、彼に当たるはずだったすべての弾丸が彼をかわして、暴欲の魔刃を襲った。
刺さった剣によって身動きが取れなかった暴欲の魔刃は、その攻撃をかわすこともできずに、身体でうけた。
「が……ぐがああ……!!」
「これが、先導者の力だ……ふん!!」
全身穴だらけになった暴欲の魔刃の腹の剣を横に振り、腹を掻っ捌いて抜き取る。
剣には血の一滴も付着しておらず、日野はこの男が完全に魔刃化してしまっていることに気が付く。
「ここまで魔刃に侵食されれば、もう元の人間とも言えないか、死が救いとなればよいのだが……」
「……すくぃ?フハハハッァ!!!」
暴欲の魔刃は、まだ生きていた。
「何ッ!?この傷でまだ動けるのか!?」
「日野くん、仮面を破壊します!!根吹さん!!」
「おう!!」
二階から隊員に紛れていた黄鐘が飛び出す。
根吹は他の隊員より少し大きめな銃を取り出し、死にぞこないの暴欲の魔刃を狙う。
「脚力に一斉集中!」
「食らえ!魔刃転倒弾!!」
根吹が撃ったそれは、天野博士の開発した魔刃転倒弾という、魔刃の仮面を収納するケースの技術を応用したものだ。
効力は一瞬だが、魔刃の力の源を絶つことができるそれを打ちこまれれば、敵に隙を作ることができる。
制約の魔刃の力によって脚力を強化した黄鐘が、足の力が抜け、跪いた暴欲の魔刃の顔面に向かって蹴りを放つ。
彼女の足が、暴欲の魔刃の顔を覆う仮面を、彼の頭ごと吹き飛ばした。
首から上を失った暴欲の魔刃は、冷たい床へ倒れる。
「これで今度こそ……」
「ふへへへへッ!!まだまだだぜぇえええええ!!」
頭部を失ったというのに、彼からその声が聞こえてくる。
頭の無いその体を起こすと、彼の横に開いた腹部傷の少し下から、触手のようなものが生えていた。
「……!?危ない!!」
根吹が何かを悟り、他の隊員に注意するように声をかけるが、それは少し遅かった。
暴欲の魔刃の腹部から伸びた二本のそれが、二階の隊員たちを次々と打ち払っていく。
一階ダンスフロアには、二階から落下してきた隊員が、うずくまっている。
黄鐘や日野は何とか反応し、この二本の触手から逃れることができた。
「へへへっ!!俺の顔、本体は首の上じゃねぇ!!」
彼の下腹部から伸びる触手の根本が、中から浮かび上がってくる。
触手の正体は下腹部に埋め込まれた、のっぺらぼうの悪魔のような顔した仮面の角であった。
魔刃の心臓ともいえる仮面は彼の下半身にあった。
それはこれまで魔刃と戦ってきたこの場にいる人間達にとって初めてのケースだ。
本来頭を吹き飛ばせば魔刃は肉体を失い、再び眠りにつくか、仮面のまま次の肉体を探しに逃走するかのどちらかであり、これまでにその例外はなかった。
頭部に本体がいないというのは初めての出来事である。
イレギュラーな存在に不意を突かれ、部隊は半壊した。
まだ動ける隊員を根吹が集め、黄鐘と日野の援護に集中することにした。
主戦力となった二人は、のっぺらぼうに悪魔の角を生やしたようなその仮面の男の前へと立つ。
「日野くん、相手の動きをできるだけ支配できる?」
「先導者は導く力、黄鐘隊長の攻撃に向けて動かすことなら」
上出来……そう呟き、黄鐘は暴欲の魔刃へ向けてもう一度蹴りを放つ。
今度は能力を使わない、様子見の軽い一発だ。
日野と二階フロアの根吹部隊の援護に期待し、制約の魔刃による一撃より、手数を稼いで倒そうという作戦だ。
「ひゃあああああ!!オマエはこの前の女ァ!!」
「……どうもッ!!」
相手の股に向けて、黄鐘の足が勢いよく蹴り上げる。
それを、暴欲の魔刃の角が伸びて彼女の足を貫こうとする。
「先導者!!」
日野が細身の剣の先端を暴欲の魔刃の角へ向けると、黄鐘の足へ向かっていた角がぐにゃりと曲がる。
角を防御と反撃に使おうとしていたのだろうが、そうはさせなかった。
「くっ、男の股間を狙うとは……レディとしてなってねぇなァアア!?」
「あら、あなたがレディなんて言葉知っているとは驚きだわ」
「俺が女ってのはどういうものか教えてやる!」
股間の痛みに耐えながら怒る彼が動いた。
黄鐘も接近する彼にもう一度蹴りを放つ。
「うぜぇ!!」
今度の蹴りは彼の上半身を狙ったものだが、彼は胴体を前に折りたたんでかわす。
前傾姿勢をとった暴欲の魔刃に、黄鐘は首のない上半身を体で覆いこむように捕らえる。
「今よ!!」
「一斉射撃!!」
二階から放たれた弾丸が二人を襲う。
しかし日野が剣先を身動き取れない暴欲の魔刃の下半身へ示す。
弾丸たちの軌道はすべてその剣先に差された場所へと行く。
「へッ!!へへへ!女ってのはなぁああ!!」
「何ッ!?」
仮面の角による反撃は予想していた。
角で腹をぶち抜かれる覚悟はすでにしていて、それでも絶対に離さないと決めていた。
しかし、彼の反撃は予想を外してきた。
伸びた角は黄鐘の両足に巻き付き、彼女の踏ん張る力を失わせた。
そして暴欲の魔刃は後方へ倒れる。
「俺さまの都合の良い道具なんだよぉおおお!!」
暴欲の魔刃が下、黄鐘が上。
二階から放たれた弾丸のほとんどが彼女の体で受け止められる形になる。
「くっ!!先導しゃ……」
「させねぇええ!!」
彼女の足に巻き付いたのは角の片方だけ。
残ったもう片方は、弾丸の軌道を黄鐘から逸らそうと剣を構えていた日野へ向かう。
「ぐッ!ぐあああ!!」
日野の腹部を貫き、彼は血を流しその場にしゃがみこむ。
「くっ……ああああッ!!」
「へへへへっ!!」
「黄鐘ぇえええ!!」
根吹が叫んだが弾丸は止まらない。
対魔刃用の弾丸を何発か体で受けた黄鐘は、全身から血を流す。
一方暴欲の魔刃は、一発腕に当たった程度だった。
「それぇえええ!!邪魔だア!!」
足に巻き付いていた角で彼女を振り回し、壁に向かって放り投げる。
「黄鐘……たい……くっ!!」
日野が痛みに耐えながら、何とか壁に向かって投げ飛ばされた彼女の勢いを先導者の能力で食い止め、叩きつけさせなかった。
しかし、彼女の受けた傷は深く、また日野自身も浅くはない。
今まともな戦力は二階にいる根吹部隊。
彼らの中に、魔刃を扱える刃覚者はいなかった。
「さぁ後はお前らを片付け……!?」
「うおぉおおおおお!!」
二階に目をやっていた暴欲の魔刃だったが、彼のその視線の反対側の窓から誰かが突っ込んできた。
ガラス窓を破って入ってきたのは、『Saverシステム』により鎧を纏ったまさに救世主。
「食らえぇええ!!」
月村詩朗が機械的な剣で暴欲の魔刃の上半身を切り裂いた。




