58はじめましてと再会
リアルが忙しくなるので次の話は12月に投稿します。
申し訳ありません。
「はぁ……お前、休めって言ったのに、魔刃に命を狙われている人間を連れてきた……?」
「いやぁ……その、仕方ないじゃないですか……!!」
「……どうもすみません」
翌朝、病室に彼を連れてきた霧香からある程度の事情を聞いた詩朗は彼をこの、某所ビル地下へと連れてきた。
本来は一般人には隠されているこの場所を連れてきたのは、ただ事件について彼の口から語らせるためではない。
命を狙われている彼にとって、ここはもっとも安全だと判断したからだ。
「ふっ……まぁ、たしかにここほど安全な場所は無いか。それで、少年よ……詳しく事情を話したまへ」
「…………前から思ってたけどアンタ、年下には偉そうよね?」
「ふぅん!俺は誰にでも偉そうだ!!」
よくわからないことで自慢げになる日野に呆れていた青井凛子。
彼女に、声をかける男性がいた。
「青井くん……それと詩朗くん」
「え……あ!」
声の主は天野正次。
この組織の装備開発に携わる、研究者。
病室で詩朗に新たな装備の開発をしていると話していた。
「まさか翌朝にくるとは思わずに、まだ見せられない段階ですか……
代わりに会わせたい人がいます。それと青井くんにも」
「へぇ……だれかしら、ねぇ?しろーくん!」
にこにこ楽しそうにしている青井だったが、詩朗には心当たりがない。
「……あっ、でも今は」
「ええ、この子から事件の概要を聞いておきますわ。あなたたちは天野博士の用事を……」
黄鐘にそう言われた二人は、天野の後をついていき、さらに地下深い場所へと降りるエレベータに乗った。
この部屋で残されたのは、黄鐘、天野、昨日のことで詩朗に声をかけれなかった夕河、そして……
「あなたの名前、お聞かせいただけますか?」
「あっ……僕は灰城句代といいます……」
……天野に連れられた二人は、地上から遠く深い場所へと来ていた。
天野の研究室には、なにやら難しそうな機械を操作している者達のなかに
まるであわない、厳つい一人の男がまっていた。
「根吹さん……!!」
その男の名を呼んだのは青井だった。
男は彼女の方へ向いてにっこりと笑みを作り、手を挙げて。
「よぅ!!」
と気さくに挨拶した。
次にその男は詩朗の方へじろじろ見る。
「あ、えーと……」
初対面の厳つい男に見つめられ、少し不快感を覚える。
一体彼は何者だろうか、それを聞き出そうとしたところ男から話始めた。
「俺は根吹周作、お前のとーちゃんかーちゃんをくっつけてやったのは俺だ、感謝しろ」
「は……はぁ……」
根吹は周囲の研究員にちょっかいかけたり、珍しいものにはしゃいでいる。
「おーすげぇ!これ、天野お前が?すげぇぇえ!!」
「根吹さん、そのへんで……」
天野に止められた、この見た目に似合わない妙な男は一体何者なのか。
「彼は刃覚者だった者です」
「刃覚者……だった……?」
刃覚者は、魔刃の精神汚染を無効化できる希少な存在。
その特殊体質は、ある条件で消えてしまう。
「君の使っているSaverシステムは、疑似的に刃覚者の能力と同じ働きをしているのですが、
詩朗くん、いつも君は仮面を装着する際にシステムに認証させていますね……?」
認証……システムのこの働きは、刃覚者にもあるものだ。
本来刃覚者が精神汚染から免れるのは、一つの種類の魔刃からである。
「彼の、相棒ともいえる魔刃は戦闘により破壊されてしまったのです」
「魔刃が……死んだ?」
根吹と共に戦っていた魔刃を失った後、それでも彼は人類のために戦おうとした。
そのために、新たな魔刃を使用し戦いを継続した。
しかし、そこからある異変が起きる。
彼の性格はもともと、見た目通りに厳格な性格をしていた。
他人にも自分にも厳しい彼だったが、今はああして、チャラチャラしている。
「刃覚者は二体目を使うことはできない、Saverシステムのような機械とは違い、融通が利かないことを
彼の犠牲で初めて我々は知ったのです」
「おーいおい、犠牲ってさぁー!俺はべつに死んではないぜ……?」
天野の前へ入ってきた根吹は、眉を上げながら話す。
「たかが性格が変わっただけだろ、今思えばもとの性格のせいでしくじったこともあるしなぁ~
まぁ、今の性格のほうがそういうの多いが、がははははっ!!」
本人は気にしていないというが、問題はそれだけでない。
「……まぁ、でも……二回も相棒を失うのは……なぁ」
彼の性格をそう変えてしまった魔刃は、自分が彼を乗っ取らない保証はないと言い、自ら処分されることを望んだ。
そうして彼は魔刃の存在かしばらくの間離れて生きていたのだが……
この最近、奴らの活発化により、急遽呼び出された。
「それで、例のモノはどうなのよ……天野?」
「まだ、試作品の試作、程度ですが……」
天野と二人、どうやら開発中の装備の話し合いをしている最中。
青井凛子は月村詩朗に彼、根吹の様々な戦績を語っていた。
それはこの組織が創設されてからの、彼の生きてきた道だった。
青井凛子、彼女をスカウトしたのも彼だったという。
多くの人間が彼に救われ、またこの組織の人間達も彼をきっかけとして集まった者が多く存在する。
先ほど彼に絡まれていた研究員も、その時は迷惑そうな顔をしているが、彼が元気そうにしている様子を見て、笑みを浮かべていた。
「あ、そうだ月村くんに私の話は話したことないよね?」
「……なんですか、改まって話すことなんてあるんですか?」
青井はその細い首で支えている頭でうなずく。
「君、この前の戦いでもシステムを使わずに魔刃を被っていたからね……ちょうどいい」
青井凛子。
彼女と彼女のために死んだ魔刃の話を語ろう。