56もう一人の傍観者
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この先の展開に合わせて28話の表現を少し変更したことを報告します。
月村詩朗が倒れ、搬送された直後。
事件現場となった保育園から少し離れた横断歩道の上。
行きかう車たちが彼女の足元を走り抜けていく。
それを彼女はどこか愉しそうに見ている。
「ふふっ……まだ、改良の余地あり……かしらね」
夜風に晒した肌が彼女の感情をさらに昂らせる。
手元では刃物が弄ばれている。
その刃渡り20センチほどのそれが、彼女の手により宙に浮かび上がらされたそのとき。
「…………」
「……ッ!?」
背後で気配を感じ、振り返る。
「……?」
一瞬目を合わせたが、向こうは彼女のその恰好を見て、耳を少し赤らめつつ少し歩くスピードを速めた。
何事もなく通り過ぎた女子高生を、その露失過多な女は早々と歩道橋から降りていく様を見つめている。
「……気のせい、かしらね?」
今宵、もうこの外の世に用はないと彼女も歩き出そうとした。
だが、歩道橋に上ってくる一つの人影が彼女にそうさせなかった。
下る女子高生の正面に向かってその人影は動く。
どちらも気がつかずにに、そのまま衝突……はしなかった。
「なっ……!」
そのまま正面を通り抜けた。
女子高生の方は身をもって体験したその異常な出来事にまったく気が付いていない。
そのまま歩道橋から降り、一方人影の方はすり抜けたと同時に突如足を速め、駆け上ってくる。
「……ッ!!」
「…………!!」
その勢いで、歩道橋の手すりと道路の上に駆けられた橋の柵を、またすり抜けた。
そして歩道橋の上でその人影を観察していた女へ、どこからか取り出した刃で切り付けた。
首元を弧を描くように振るわれたが、振るった本人に手ごたえは感じられなかった。
その刃は女の首を通り抜けて、空だけを切り付けた。
女が手に握っていた20センチほどの刃が、彼女の首の代わりに地に落ちた。
その様子は、手から滑り落ちたというより、透過したという表現が正確だ。
女は落したそれをあきらめ、人影から距離を取ることを優先する。
「何者……?」
「…………」
返事はない。自分と同じ現象を引き起こしたその正体不明の存在に警戒する。
女は相手の様子を伺っていると、月明かりがその人影を照らしその正体を暴く。
「……あなたッ……!なぜ!?」
月光が長い黒髪を美しく輝かせ、風がそれをなびかせる。
そしてその奇麗な黒髪と同時に目に入るのは、対照的に傷らだけの古びた仮面。
「…………初めましてね……?私は……だけど」
その黒髪の彼女は、女の落した刃物を手に取り、両手を使いながらも簡単に真っ二つにした。
へし折られたそれを歩道橋の上にばらまくと、女の方へ仮面の目を合わせる。
「ッ……!!」
それの視線に恐怖した彼女は、徐々にその肉体から色が失われていく。
無色透明、全身が目視できなくなり、彼女の着ていた衣類はその場で脱ぎ捨てられたように重ねられる。
「……全力で逃げる彼女には誰も追いつけない……か」
古びた仮面の者は、彼女が身に着けていたそれを踏みその場を去る。
踏みにじられた女の薄い衣類は、まるで獣の爪で切り裂かれたようにズタズタになっていた。