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マスカブレード  作者: 黒野健一
第四章 終夏/救われた者/救われぬ者
55/120

55もう二人の傍観者

「…………」

「…………詩朗さん」


最後の甘美な一口が喉奥に流れる。

少し乱れていた心が、だいぶ落ち着いてきた。

心配そうに見ている少女に、今できる精一杯の笑顔で言う。


「おいしかったよ、ありがとう」

「詩朗さん……」


満足いった顔をしている。

しかしどこか不自然なその笑顔が霧香には苦しく感じた。


「大丈夫なんですか……?」

「……大した怪我じゃないんだ、実は……」


詩朗は今現在彼がおかれている状況を簡単に説明する。

霧香は以前、彼が初めて魔刃と戦ったときにそばにいた。

そのため組織のことや魔刃の存在は隠す必要はない。


「……とうことで、俺は世間に存在を隠匿するためちょっとした軟禁状態で……」

「体はそうでも……心が……」


……心。


「大丈夫だよ……組織に入ったときから数日程度だけど訓練もしたし

 何より……みんなの笑顔が奪われているのが我慢できないから」


そう、彼の戦う理由はそれだ。

誰かの笑顔を守る。

それが、それだけが彼の心を満たすものだ。


「…………」

「そうだ、霧香ちゃん。俺が入院してるってどうやって知ったの?」


詩朗が話題の転換に思いついたことをそのまま口にしてみた。

……いや、本当にどうやって?

今さっき自分自身で彼女に説明したように、公表されていないはずだが。

詩朗と霧香の仲を知るのは、彼女の祖父の店長かそれとも詠か。


いや、どちらも可能性は薄い。

店長はそもそも詩朗が魔刃という存在とかかわっていることを、彼女から聞いていない限り知らない。

テレビで報道されている、仮面のカルト集団の一人に店を襲われたと今でも思っているだろう。

詠だって、わざわざ彼女に話すとも思えない。


「それは昨日……仮面を被ったお姉さんに連れられて見ていたから」


昨日、というのはあの保育園の事件のことだろう。

復讐の魔刃と美術館での襲撃時に出会ったのは、詩朗だけではない。

彼女もまた、あの時にその姿を見て、覚えていた。


あの日、詩朗が戦っていた姿と一致したことから彼が倒れるところも見ていた。


だが、気になるのはその仮面のお姉さんとやらだ。

おそらくその女は、魔刃であろう。

何のつもりで霧香と接触しわざわざ事件現場へ連れて行ったのかは詩朗には想像もつかないが。


ただ、敵か味方か考えればどちらでもない可能性が高い。

なにせあの時、どちらにも加勢をしなかったのだから。


「その仮面のお姉さんとどこから見ていたんだい?

「あの人の集まりの中から……」」

もしかすれば魔刃部隊の女性二人、青井凛子か黄鐘咲のどちらかかもしれない。

そう思ったが、今の詩朗のように人の目の前に出るのは控えるはずだ。

あの時日野が駆け付けたのも、あの場所で安全にかつ、確実にSaverシステムを詩朗に届けることができる最小限かつ最大限の人材だからだ。

そういう理由で、彼女たちが少なくとも人ごみの中に紛れるなどはあり得ない。


ましては仮面のお姉ちゃんなどと呼ばれているからには、霧香の前では仮面を外したことが無いはずだ。

つまり、あの人ごみの中で仮面を被った人間がいたということになる。

だがあの日、仮面など被っていたら日野かもしくは刑事の村上が発見し、襲撃した魔刃の仲間かと問われるだろう。

大勢いた野次馬たちだが、そんな奇妙な格好で紛れてもすぐに見つかるはずだ。


ならば考えられるのは、魔刃の能力だろうか。





「そういえば、あの夜仮面のお姉さんは詩朗さんを一目見た後は、ずっと女の人を見ていた」

「それは……あの俺が戦っていた魔刃のこと……?」


霧香は首を横に振る。


「人ごみの中にいた……少しセクシィ?なかっこの女の人。その人がどこかに行くと、お姉さんも私を置いて、追いかけてどこかに」

「…………?」


一体見ていたのは何者だ……?


「う……ん、とにかく情報ありがとう。でも魔刃についていくなんて危険なことしちゃだめだからね……」

行動の意味が不明だが、とにかく霧香は何もされていないようで安心していた。


霧香は素直に「ごめんなさい」と謝りつつも、それでも彼女から悪い雰囲気は感じなかったと詩朗に伝える。


とはいえ、詩朗は後で組織にその謎の魔刃の情報を伝えておくことにした。

たとえ、人間にとって良い魔刃だったとしても、王に仕える魔刃に狙われるかもしれない。

ならば組織に保護してもらい、こちらの戦力にもなるだろう。


ついでに、その追いかけられていたセクシーな女性とやらも探してもらっておく。




「……詩朗さん、私はもう帰りますけど……」


病室の戸の持ちてに手を掛け、振り返りながら彼女は話す。


「詩朗さんも、あまり危険なことはしないでくださいね……!」


三度静返った病室で、詩朗は一人思う。


「……僕って、そんなに危なっかしいかな……?」




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