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マスカブレード  作者: 黒野健一
第四章 終夏/救われた者/救われぬ者
52/120

52目が覚める

前回までのあらすじ!!

旧人類の支配者魔刃との戦いに巻き込まれた詩朗は、対魔刃部隊の一員となった。

彼は両親の遺した対魔刃用の戦闘システム、『Saverシステム』によって魔刃と戦うことが認められた。


そんな彼は街で家族連れや恋人を襲う魔刃、『結合』との戦闘で追い込むが、乱入してきた魔刃の王の配下『焼失者』により、システムが破損する。


そのシステムの修理中に刑事村上星が、同能力の魔刃に襲われる。

詩朗は刑事と共に、魔刃が暴れる保育園に行くが、そこでは惨劇がすでに起きていた。

怒りに狂う詩朗はシステムを介さず、『復讐』の魔刃を直接被り、戦闘を行う。


そして二人の死闘は、完全修理と強化を施されたSaverシステムにより詩朗の勝利で決着がつくが

彼はその場で倒れてしまい……?

「ねぇ……あなた魔刃でしょ?」

「なんだァ?ガキィ……面白いかよ?」

薄暗い洞窟、その奥で飛び散った破片に紛れたその人型は目の前の少女を睨む。

それでも少女はおびえた様子など全く無く、笑っている。


自分たちを苦しめる存在が今、深い眠りに付こうとしている。

しかしそれは目の前の少女たちの言う死の概念とは異なる。

比喩ではなく、本当にただの深い眠りなのだ。


「ヘ……どうせ、ただの時間稼ぎだ。お前たち人間はいずれ……」

「ねぇ……!」


少女は暗闇の中の人影の言葉を遮り、そして近寄っていく。

「生きたい……?」

「アァ!?」

少女はいぜんと笑う。


「私ね、もういいの……だから」


ポツン……と天井から垂れた雫がどこかで跳ねた。


「あげようか……?」

「何を……?」

少女は人型の、その頭部に両手で覆うように触れる。

その手は、魔刃の性質によって傷らだけになってしまい、指先はぱっくり開いて血が流れる。


「……命を」



…………


「うっ……ここは」

目を開けると、いつも目覚めた時に見るものとは違う天井がそこにあった。

しかし、彼にとってそれを見るのは二度目だった。


「変な夢……見たな」

頭を掻いて、重い肩を伸ばしてみる。


病室の外ではセミたちがわめいている。

このうるさい虫たちもあと数週間もすれば見かけなくなってしまうだろう。

そう考えると寂しい感じがする。


「おー目が覚めたか?後輩!」

「あ、日野先輩」


病室の戸を開けたのは日野だ。

片手は見慣れたギターケースを掴んでいる。

もちろん中身は楽器ではない。


「リンゴでも剥いてやろうか?」

「リンゴ持って無いじゃないですか、というか『それ』で剥くのはちょっと……というかそもそも、その物騒なモノ病院に持ってきていいんですか?」


ふっ……といつもの調子で笑う日野。

彼は立てかけたケースを軽く叩き、ここに持ってきた理由を話し出す。


「お前はこれからコイツを肌身離さず持ち歩け、とのことだ」

「どういうことですか?」


日野のその言葉は、どうも彼以外の意思が関与しているようだ。

納得できない詩朗に、日野が彼が眠っていた数時間の出来事を簡単に述べる。


「あの事件……保育園の襲撃は大きなニュースになった。

 あんなに人が集まったのだ。隠すこともできないのは当然だ。」


日暮れ時に起きた保育所での惨劇。

子供一人と母親三人が、仮面を被った不審者により命を奪われた。

と、この街の外では報道されている。


しかしあの事件現場に集まった野次馬や、事件の被害者たちは見ているはずだ。

あれは人間の起こした事件ではないということを知っているはずだ。


だから市民にヤツらを隠していた人間達が動かざるを得なくなった。


「魔刃、という存在はまだ伏せられている。しかし仮面を被った非人道的で凶暴な集団がいる

 ということをこの街の住人に知らせた。」


あくまで、人の行いだということにした。

あながち間違ってはいない。

むしろこれは真実に近いのだが……例えばこの事件、魔刃の力に飲み込まれたとはいえ、

あの女は嫉妬で幸せな人間に刃を向けることを選んだのだから。


もっともそんなことを知る人間はいない。

詩朗達はいつもの人を物扱いしている魔刃という種の犯行だと思っているからである。

そして魔刃の存在をごまかして伝えている彼らも当然知らない。


それを知っているのは、あの女に力を与えた正真正銘の化け物たちだけである。


「どうして、そこまでして魔刃の存在を隠すんですか?」


混乱が起きる……それも少しじゃすまないだろう。

もっとも、彼らは人類を支配していた存在……などとはすぐには信じられないだろうが。


そんなことは詩朗も承知である。

しかし、今もこうしていつ襲われるかわからない状況で、何も知らずにこの街で人々が生きている。

ようやく一か月という短い期間しか組織に属していない詩朗には、そんな状況が耐えられなかった。


「……それは俺たちに対策する方法がないからだ」

「俺たちがいるじゃないですか!!」

寝転んでいた詩朗が勢いよく体を起こして言った。その様子から焦っているかのようにも思える。

敵が一体どれくらいの数がいるか、それがわからず、今も誰かが被害にあってるかもしれないという不安のせいだろうか。


「この力は……俺たちのモノじゃない。『先導者』や『復讐』……彼らのモノだ」

「だから……!だから何なんですか!」


……病室で話の熱が入ったその二人に元へ、外から何者かがまっすぐやってくる。


「人類に、人類の手によって得た彼らへの対処方法は、まだない」


そう、『まだ』だ。

声が聞こえてきたのは病室の出入り口から。


「天野さん……どうして」

「私もお見舞いですよ、日野くんが先に来てると聞いてね」

「ふっ……ちょうど良い、人類の希望となるモノについてはあなたから語ってもらいましょうか」


「ふむ、そうですね……」

顎に手を当て、深刻そうな顔をしてうつむく。

そして何を言おうか纏まった天野は部屋の隅のギターケース見つめる。

あの中には、復讐の魔刃と天野が開発した剣がある。

人間の用意した魔刃への唯一の対抗手段……の試作品。


「君がご両親から託されたそれは、我々人類にとって唯一の希望だ。 これまで私達は魔刃に生かされてきたに過ぎない」

「それが今まで公に隠してきた理由ですか?僕らは人類を超えた存在に襲われ、またその同族により守られている……」


そう、それはつまり人類という種が、自身ではどうすることもできない存在に弄ばれているということ。

かつて人類は支配から逃れようと、魔刃から得た力『刃覚者』により、王を眠りにつかせた。

だが、それは魔刃からの解放を意味しているのではない。


魔刃から授けられた力で、魔刃と戦う。

たしかに、それを授けた者達に悪意はない。しかしそれでは意味がない。

我々人類はまだ魔刃の下で生かされているのには変わりはなかった。


しかし、今それが変わりつつある。


「君のもつSaverシステムを元に私は新たなシステムを開発中です」

「新たなシステム……?」


新システム、天野が月村夫妻の遺した研究と、その試作品から得たデータから彼は人類の希望を新たに生み出すつもりだ。

それもSaverシステムとは違い、量産のしやすく扱いやすいモノへ……。


「今度、私の研究室へまた来てください。その時に見せましょう」

その概要は詳しくは語られなかった。

勿体ぶっているのか、それともまだ人に見せれるほどのモノでもないのか。

どちらにしろ、詩朗は自分の両親が遺したモノがどういう者へと受け継がれていくのか、興味深い話だと思った。


「じゃ、後輩……俺はそろそろ戻る。この夏休み、お前は非日常に巻き込まれ、殺し合いやら戦闘訓練やらで疲れただろ?

 ちょうどいい機会だから休んどけ、街の平和はこの俺に任せろ」


「日野先輩……」


日野はいつもの癖の笑いを残し、病室の出入り口へ立つ。


「それでは私も……おっとそうでした」

日野と共に病室を出ようとした天野は足を止めたかと思えば、振り返らず詩朗に背を向けたまま忘れていた要件を言う。

「新システムだけでなく、君のための新装備を用意していますので、そちらも楽しみにしていてください……」


戸が静かに閉まり、廊下から少しずつ遠くなる二人分の足音が聞こえる。

病室でベッドの上で体を起こしていた詩朗は、日野が担いできたギターケースを眺めた後、ゆっくり背を布団の上にくっつけた。


「楽しみに……ねぇ……」








第四章製作中……しばらくおまちください。

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