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マスカブレード  作者: 黒野健一
第三章 変身/恋心/失われた笑顔
50/120

50新剣

「アァアアア!」

冒涜的な姿をしている女に向かって、爪撃を繰り出す詩朗。

目をつぶりたくなるようなおぞましさに、先ほどまでの獣のような勢いが失せている。

それを悟られないように、必死に叫びながら女に駆けていく。


女の姿は、詩朗によって抉られた下半身の傷口と、女が首をはねて絶命した三人の母親の

首があった場所とがつながっている。

三人の遺体は仰向けに背を逆に折り曲げたような体勢でつながっており、この時点で

彼女達の亡骸が破損されていることがわかる。


「……ッ!今すぐ、体を切り離してあげますから……ッ」

これ以上女の好き勝手に死者の体が弄ばれるのを見ていられない詩朗は

まずは三人の肉体を切り離すことを目的とした攻撃を放つ。


「シークン?シロウ?」

女は先まで戦いで、遺体の首を真っ先に切り取った詩朗の行動パターンから

今度も足となった遺体を奪いにくるだろうと予測していた。

結合部分を突こうとした詩朗の腕は、足の一本……一人の母親の手によって捕らえられる。

彼女たちは足としてだけでなく、その腕を使うこともできたのだ。


「ぐっ……ぐぅうう!!」

復讐の魔刃と適合率が上昇したことにより、詩朗の肉体の表面は

研ぎ澄まされた刃物と同等の切れ味をもっている。

それを握りしめた手の平からは、もう冷たくなってしまった血が押しだされていく。


「や……やめろ……!!」

恐怖心に煽られた詩朗はその手を振り払い、一度女から距離をとる。

しかし、詩朗の振り払いの勢いで、遺体の手首から上が飛び、教室の壁に叩きつけられた。

「……ッッッ!!」


それを見た詩朗は、仮面の下に冷たい汗があふれ出てくる。

「お……れが、傷つけた……?俺がァアアアア!!」

「オイィ!!落ち着けェ!!詩朗!!オイ」


魔刃との適合率が急激に落ちていく。

月村詩朗の身体から生える刃が、枯れる植物のように縮む。


完全に取り乱してしまった詩朗に対して、女は手の一本くらいの被害などは気にせず、

詩朗から奪った、ゾウの牙として使っていたあの刃を向ける。

女本体には、魔刃には珍しく武器になるような巨大な刃は見られない。

奪われた詩朗の刃は女の片手と同化している。

このように、あるいは彼女の足となった人間のように、他者のモノと交わりながら

戦うのが、この魔刃の戦い方なのだろう。


あまりにも悪趣味な戦いである。


のしのし、と蜘蛛には足がたりないが、動きはそれに近い。

自分が母親の遺体を損壊したことに気が取られた詩朗に寄り、彼の頭上に刃を振るう。

「シーロ?シロ?シロウチャン?シロクン?シー」

「……後輩ッ!!」


女が振り下ろそうとした、そのとき。

教室の窓を貫いて、一振りの剣が彼女の目の前を通る。

「コ……ハイッ!?」

驚いた女は後ろに跳躍し、状況を再確認する。


一方詩朗は、彼の声でようやく目覚めたようだ。


「日野……先輩ッ!!」


通り過ぎて、壁に突き刺さった剣に一直線に駆けつけ、それを抜き去る。

抜いた剣は詩朗の仮面の前に掲げられる。


「認証!復讐ッ!!」

「……お、音声が勢いよく……?」


「後輩ッ!これも使え!!」


日野が投げたベルトには小さな箱がついている。

それを受け取った詩朗が中身を確認すると、中には数枚の刃片がある。

その中で詩朗が見つけたのは初めて見る刃片。


これが天野博士が創った新しい力。

『復讐』の刃片。


「そいつを、剣の真ん中あたりに差し込め!」

「あたりって……え……あっ」

剣の中央にある赤い宝石のような部分に切り込みができていた。

そこに刃片を差し込むことができそうだ。


「Set!復讐!!」

「行くぞ……Saverシステム起動!!」


「アーマー展開!!」


以前詩朗が使用した時とはくらべものにならない力が放出される。

持ち運びの重量で部分的にしか守れなかった装甲は、魔刃の力を利用して

その場で全身を覆う鎧を生み出す。


それが新たなSaverシステムの機能だ。


「……クッ!」

以前自分を追い込んだ姿になった詩朗に警戒する。


「タタカイゴッコ!?オカァサンガワルモノデ?」

「ああ……だけどごっこじゃない……」


「Save……断片!拡散!復讐!」

柄の部分に、箱から取り出した刃片を差し込む。

中央宝石部分に差し込んだ復讐の刃片も、柄部分に持ってきた。


「真剣だ……ッ!!」


「アソビマァアアショォオウウウ!!」

女がここに来て、一番大きな声で叫ぶ。

片手となった大きな刃を振り上げながら、目の前の敵を排除せんとする。


「うおおおおおッ!!」

詩朗はその一撃を、剣で受け止める。

そして、その機械的な剣がうなりをあげる。

「Load!断片!拡散!復讐!」


鍔迫り合いになったその状況で、詩朗の持つ剣は相手の刃によって押されていた。

剣に打たれた力をそのまま、反撃の力へ変える。


「ハァアアアッ!」

詩朗は敵の刃を反らす。その瞬間先ほどまで受け止めていた剣が形を留めることをやめた。

無数の断片へと姿を変えた剣は、刃を失った柄の動きに対応して宙を舞いながら動く。


詩朗が剣を真上へ掲げると、刃たちは天井ギリギリまで打ちあがる。

そして詩朗がその剣を振り下げると、雨のように刃たちが女の魔刃へと降り注ぐ。

それが向かう先は一つ、女と遺体との接合部分。


「ァ……アアアァ!!」

再び足を失った女は、宙へと投げられる。


「……トドメだッ!!」

空中で身動きが取れていない女の首を詩朗は片手でつかみ、背後の壁へ押し当てる。

女はダイレクトに体を壁に叩きつけられたが怯む様子は無い。

まだ片手に刃がある彼女にとって、相手が密着するこの状況は好機だった。


「オカァサンガダキシメテアゲル……」

「ふざけんな……笑えねぇ冗談だな……!」


詩朗の首元を狙い斬撃が繰り出される。

「…………!!」

……しかしそれは詩朗のもう片方の手で受け止められる。


「Load!復讐!!」


詩朗の手に食い込んだ刃が、彼の血を搾り取っていく。

手首から血が流れ、足元に血の池を作る。

それでも、彼は勝利を確信した笑みを仮面の中で浮かべている。


「グッ……ハッ!?」

女はそのまま押し切ろうとしていたが、徐々に、自分の持つ刃にヒビが入っていくのに気づく。

そしてゆっくりと、逆に女の方へ押し込まれていくのも。


「ウォオオオオオォ!!」

詩朗の深い傷を負った手が、刃を握りしめて、そして潰した。

砕けた破片が飛び散る中、手のひらの傷から生まれた刃で詩朗は最後の一撃をお見舞いする。


「くぅらぁぇええええ!!」

掌の装甲を破って血が流れるほどの深い傷、そこから生まれた刃が女の顔面のモノへ叩きつけられる。


「ウギャアァアアアアッッッーッ!!」


ダンッ!!とまな板の上のリンゴを真っ二つにしたときのような音が響く。

女の両腕は力が抜け、ぶらりと垂れ下がたので首を押さえつけていた手を離す。

床へ落ちた女の体は、ボロボロにひび割れ、そして砕けた。


「……ハァ、ハァ……」

詩朗が女の首を掴むため、投げ捨てていた剣の柄を拾い上げると、失われていた刃の部分が

集まっていき、再び剣らしい格好に戻る。


「はっ……やっ……た……」

詩朗はなんとか外へ脅威排除の報告をしたかったが、そこで眠るように倒れ込んだ……




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