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マスカブレード  作者: 黒野健一
第一章 詩朗/魔刃との遭遇
5/120

5喫茶店の少女

帰宅途中の詩朗はこの前手伝いをした喫茶店の前を通る。

「そういえばこの前は食べ損ねたな、プリン」

どうせなら家に帰る前に涼んでいこうかと、たいして家から離れているわけではないが休憩することにした。

和と洋が合わさった、どこか懐かしい雰囲気の風貌の店『喫茶バタフライ』。

店の扉を開けると店長が気さくに挨拶した。

「やぁいらっしゃい、ああ!詩朗くん!この前はどうも」

「いえいえ、また何かあったら言ってくださいよ」

カウンター席に腰かける詩朗、昼前で周りの客は軽食を食べている。

自分もプリン以外に何か腹の膨れるものを食べたいなと考え、メニューを眺める。

とりあえずスパゲッティを頼み、飲み物にコーヒーをそして。

「手作りプリンを……」

「フフッ」

店長が微笑む、何故だろうかと疑問に思っているときに店の奥から誰かが出てきた。

「おじぃちゃん……ああ!あの時のお兄さん!!」

それはあのバイトの後、公園で涙を流していた少女である。

長い髪で目を隠した、おとなしそうな女の子。

「ふむ、やはり詩朗くんだったか」

「えっと……もしかしてお孫さんでしたか?」

「ああ、最近うちで暮らすようになったんだ、あまり人前に出たがらない子なんだ」

人見知りかな……と詩朗が少女を見ていたら、彼女が彼の隣の席に座る。

「腹をすかせた孫にプリンをあげたんだろう?今日のプリンは私のサービスだ」

「……あはは、お礼で貰ったプリンをまさかお孫さんにあげちゃうとは……なんかすみません」

店長が相変わらずお人よしだなぁ、と笑いながら店の奥へと行く。

頼んだコーヒーとスパゲッティ、それからプリンを待つ間彼女と二人っきりになった。


「あの、おじいちゃんには私が泣いていたのは内緒にしててください」

「うん、いいけど僕がプリンをあげたのどういう風に話したの?」

彼が問うと少女はお腹に手を当て机に伏せる。

「いきだおれになっていたところを助けてもらったと」


数分後、店長が微笑んだまま頼んだスパゲッティとコーヒーを運んできた。

「プリンは食後でいいかい?」

「ええ、お願いします」

「…………」


少女が詩朗の方をみつめている。

腹に手を当てたままで、髪の隙間から見えるまなざしは何かを欲しているようである。

「ええ、とプリン二つおねがいします」

「……これ、霧香……欲しいならちゃんと言いなさい」

「ううっ、ごめんなさい、私もプリン食べたいです」

店長がまた笑いながら店の奥に行くと少女は足をぶらぶらしながら待っていた。

詩朗はできたてのスパゲッティを食べながら待つことにした。


このコーヒーの香りが漂い、笑顔が自然にでてくる空間が彼はすごく気に入っていた。




食後、プリンをスプーンですくいながらまだ残っているコーヒーを飲んでいた。

ぬるくなってしまっていたが旨さは変わらず、カップをゆっくり置くと少女に話しかける。

「そういえば、君の名前は?」

少女は頬張っていたプリンを飲み込み、答える。

「赤木霧香です、お兄さんの名前は」

「月村詩朗」


しろう……さん、とつぶやいて今度は少女、霧香から話しかける。

「あの、お願いがあるんです!」

「うん?なんだい?」

少女はポケットから二つ折りの紙を取り出し見せる。

それは近所の美術館のチケットで、どうやら夏休みで特別な展示があるそうだ。

少女はきらきらとした目で一緒に行かないかと誘う。


「すまないねぇ詩朗くん、お客さんに貰ったんだが都合が合う日が無くてね

 友人を誘うって行きなさいと言ったんだが……」

「……友達とは行かないの?」

「……え、と……私は詩朗さんと行きたいんです!!」

こんなに大きな声を出すのは珍しいのか、おおっ……と店長が驚き、他の客たちも霧香に注目する。

そんな彼女は恥ずかしくなったのかチケットを僕に押し付けて店の奥に入っていた。


「すまない……孫はこっちに引っ越してきて友達がまだできてないんみたいだ

 もともといた学校でも友人が少なかったそうだが……」


「そう……だったんですか……」

詩朗は自分の小学生の頃の記憶を思い出す。

自分も、そのころからあまり友人の輪に入るのが苦手な人間だった。

店で忙しい店長にもあまり構ってもらえないだろう。


「自分……行こうと思います、僕と話せるなら同級生の友達とも話せるようになるかもしれないし」

「……うん、すまないが頼めるかな」

詩朗はコーヒーを飲み干すと、代金をテーブルに置いて店の奥に行った霧香に話しかける。


「霧香ちゃーん、一緒に行こう!!」


ドタバタと、元気そうな足音を立てこちらに来た。

髪で目元は見えなかったが、ニッコリと喜んでいるようで詩朗もうれしくなった。




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