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マスカブレード  作者: 黒野健一
第三章 変身/恋心/失われた笑顔
47/120

47刃には歯を

「詩朗くんッ!!」

先に教室に入った詩朗の後に、刑事の村上が入っていく。

教室の中では既に地獄のような光景が造られていた。

刑事として様々な事件現場を見てきたが、この光景ははっきり言って、異常である。

血にまみれた仮面を被った女の体には、遺体から切り取られた他者の首がつながっていた。

そして、それらは開いた瞳孔でこちらを見つめながら女の言葉を代弁する。


「だれぇ……?」

「だれぇ?また来ただれぇ?」

「だれぇ……?」


ここに来るまでに、外で人が集まるまでに、この怪物がいるとは知らずに

愛する子供を向かいに来た母親達が犠牲になったのだろう。


「くっ……!!」

村上は拳銃を仮面の女に向ける。

普通の人間には牽制になるだろうが、女は気にも留めない。


冷たい汗を流しながら、震えた手で拳銃を握る村上の前に詩朗が立つ。

「村上刑事……子供たちを……」


村上はその言葉を受けて、部屋の隅にいる怯えた子供たちを見る。


これから起きるのは激しい戦いだ。

村上は以前、詩朗が戦う所を見たことがある。

彼は自身が傷つこうとも戦い続けて、ボロボロになっていた。

あの激しさに周りを巻き込む恐れがある、そう詩朗は言いたいのだろう。


「……ああ、任せろ。気を付けろよ、詩朗くん!」

悔しいが、自分ではこの化け物を倒すことはできない。

だから、せめて自分のできることを……と。

村上星にとって初めて悪に背を向ける行為であったが、それは正しい判断だといえよう。


なぜなら今の月村詩朗は……


「行くよ……復讐……」


……怒りで自分を抑えることができないからだ。


「ウォオオオオオオッ!!!」


仮面を被り、詩朗の両腕から湾曲した刃を生やす。

全身の筋肉が、骨が、神経が、あらゆる自身の能力、感覚が研ぎ澄まされる。


「ウオォォォラァアッ!!」

詩朗の放つ拳、それは殴打と共に手首の刃による斬撃をもたらす。


仮面の女が彼の拳を掌で受け止める。

詩朗は力ずくで捕らえられた拳をそのまま押し込み、手首を捻り

拳を掴む相手の掌を切り裂く。


「…………」

掌をざっくりと抉られたというのに、彼女は反応しない。

言葉でも、身体でも。


仮面の女の肉体は、血を流さない。

代わりに削り取られた刃片がこぼれていく。


「こいつ……完全に魔刃になってやがるッ!オイ!詩朗!!気を……」

「ウラァアアアアッ!!!」

「オ、オイッ!!」


復讐の魔刃の忠告ですら、今の彼には届かない。


無残な骸となった母親達と、絶望の涙を流す子供たち。

それらが、詩朗を怒りで狂わせる。


本来なら今頃、子供たちと自宅で幸せな団欒が待っていたはずだ。

この暗い空の下、今日友達と遊んだ話でもしながら家に帰れたはずだ。


だというのに……


「おまえがァアアッ!!」


詩朗の咆哮と共に、手首の刃の向きが変わる。

手首の刃は、腕をまっすぐ伸ばすと肘や肩の方へと伸びるように生えていた。

それが180度回転するように動く。


手首から拳の先へと鋭い剣先が向く。

詩朗は両手の刃を構え、仮面の女へ勢いよく向かっていく。


「アアァアアアッッ!!」


相手を突き貫こうとするその刃は、猛牛の牙のようだ。

女は両肩にその刃を受け、そのまま詩朗に押されていく。


教室のガラスの窓を突き破りながら、外の子供たちの遊び場へ怪物達が移動する。

ゾウを模した滑り台に、叩きつけられるように女が追い込まれる。

肩に刺さった刃は体を貫き、その滑り台に食い込んでいる。

女は貼り付けにされるような形で動けない。


詩朗は両手首のその刃を、自身から引きはがす。

自分から生えている、いわば肉体の一部をそうするのだから、当然肉がえぐれ血が流れる。

だが詩朗は気にせず次の行動へ移す。


「噛め……」

「アァ!?」

自身の顔を覆う復讐の魔刃の前に自分の手の指を持ってきて命じる。

魔刃は驚愕したが、ためらいはない。

これは彼が、月村詩朗が考えた戦闘方法なのだ。


復讐の魔刃が、自身の仮面にデザインされた口のような部分で指を掴む。

そして、詩朗はその刃の歯で固定された指を、自分の手から振り払った。




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