40もう読
今回は二話連続投稿しました。
「ヤ……焼キ、焼キ……尽ク……ス」
炎に包まれた髑髏の仮面の男は、ゆっくりと詩朗と復讐の魔刃の方へ寄っていく。
たどたどしい足でありながらも、恐怖心を煽らせる。
詩朗は震え、剣を持つ手に冷たい汗を落としつつも、構える。
「ヤ、焼キキ、ツク……」
「なッ……だれ……?」
自分を守ろうとした……?
突然現れたその男に話しかける結合の魔刃。
骸骨の仮面、人間離れしたその異様な雰囲気、間違いなく同族だ。
「ヤヤ、ヤヤヤッ?ヤ?」
その声に気付き、詩朗に向かっていた足を止め、首が折れそうなほどに曲げ、結合の魔刃の方へ振り返る。
そうした仮面の男、焼失者の魔刃は何かを思い出したかのように彼女の方へ、ガタガタと足を動かしていく。
「なっ……何ィ!?」
突然の挙動に驚く。
「ヤ、ヤキツク……燃ヤス?ス?」
首を右に左に傾げながら、動けない彼女を見下ろす。
「……回収スル?ス……ス!」
「うぐっ!な、にを……あなた味方じゃないの……!?」
彼女の首を、焼失者の魔刃を掴み持ち上げる。
「ス、ス、ス……」
プツ、プツと焼失者の魔刃の体から音が漏れたと思えば、彼の体からまるで血のように吹き出したのはマグマだった。
周囲を熱で歪めつつ、二人の魔刃はそのマグマに沈んでいく。
「きゃっ……なんなの!?」
「ススススススス、ス」
「待て……待てェ!!逃がすかァアア!!」
剣を引きずりながら、そのマグマに沈む姿を追おうとする。
「バカァヤロォ!!やめろォ!!」
その詩朗を、復讐の魔刃が怒鳴りつけ止めさせた。
「……ッ!逃げられるッ!!」
「バーカァ!逃れられたんだよ、俺たちが……ヤツからな」
グツグツと煮えたぎったマグマは、すぐに冷えて固まった。
その場所に、もう二人の魔刃の姿はない。
「うっ……」
「ツツツク、スス!!ス?」
マグマの中に沈んだと思えば、二人は真っ暗な洞窟のような場所に落ちたきた。
そこは赤く輝く鉱物が電灯代わりになっていて、それ以外に光源はない。
……コツン。
どこからかハイヒールが地面を突いて歩く音が聞こえる。
結合の魔刃は肉体を共にしている人間の女と共にその音の場所を探す。
「フフッ、ここよ」
コツン!というそれまでの音とは違う、重みのある音が背後から聞こえた。
振り返ると、こんな薄暗い洞窟が似合わない、薄着の女性が立っていた。
見た目は普通の成人女性だが、そんなはずはない。
背後に迫る気配も感じさせないほどの、得体の知れない存在だ。
「貴方を見ていたの、結合の魔刃さん」
「私を……?あなたは一体?」
結合の魔刃による質問を受けた薄着の女性は、結合の魔刃の前へと移動する。
洞窟内の赤い鉱石から放たれる光によって女性の肉体が照らされる。
そして彼女の体の影が洞窟の壁に映し出された。
「……私は、魔刃王の配下の一人」
彼女がささやくように口に出しながら、片腕を横に伸ばす。
肩からまっすぐ伸びる白い肌のきれいな腕だが、その影は本来の人間の腕の形をしてなかった。
「『傍観者』……ですわ」
「貴方も、魔刃なのね……助けてくれてありがとう……私、人間に襲われて……!」
結合の魔刃はこれまでの経緯を話そうとした。
人間に殺されかけるのは、魔刃にとって恥だと考え、それを釈明するという意味もある。
自分を襲った人間達が、いかに自分たちにとって脅威か、それを伝えたかったのだ。
しかし結合の魔刃そのものである仮面、白と黒のそれぞれの仮面を無理やり繋げたかのような形
のそれの唇のあたりに、傍観者の魔刃が指を置いて静止させた。
「ええ、ええ。私は見ていたのですよ、あなたを……あなたたちを」
人間が魔刃に対抗する技術を身に着けていることなど、すでに知っていたという。
そして女は次に結合の魔刃の頬を手で覆い隠した。
「ところで……なぜあなたは人間の意識を奪わないのですか?」
「……ッ!」
魔刃と人間の関係。
肉体を失った魔刃は人間の精神を侵食し、肉体を自分のモノへと変えていく。
脆弱な人間など魔刃にとって資源や家畜にしか過ぎない。
……だというのに。
「どうして……?」
「私は……彼女を……人間を理解した……もっと理解を……」
以前は結合の魔刃も、人間をそのような目で見ていた。
しかし、深い眠りから目覚め、人間の肉体を得るため接触してから変化があった。
結合の魔刃が依り代としたのは、夫と生まれてくるはずだった子供を一緒に亡くした母親だった。
自身も傷を深く負っていたが、何より心の傷が深かった。
愛する者を失い、そして愛にたいして強い想いがあった。
そこに結合の魔刃は魅かれた。
自分と近いものを感じた。
そして初めて結合の魔刃の想い人がかつて話した言葉の意味を理解できたのだ。
「人と魔刃は同じ……同じなのよ!」
そう言えば魔刃の王の配下の彼女は笑うだろうか。
「ふっ……ふふふ」
案の定だが……その笑い声には蔑むような感じはない。
まるでそれは自分の子供が初めて言葉を発したのを喜ぶ、母親のようだ。
「ええ、ええその通り、魔刃は人間と同じ」
微笑を浮かべたまま。
「あなたの言う通りなのだわ」
結合の魔刃にかける力が強くなる。
ビキッビキッと音をたてながら、魔刃の仮面にヒビが入る。
「うっ……うっっっ!!」
「あなたの物語、とても楽しかったわ……」
……バギッ
傍観者の魔刃の手の中にあるのは、もう元には戻らない命。
人間というものを理解した彼女の残骸。
それを近くで膝を曲げ、壁にもたれて待機していた焼失者の魔刃に向かって、
興味を失くしたモノを捨てるように投げる。
パラパラと宙を舞い、地面に落ちたそれを、焼失者の魔刃は餌をやられた犬のように貪る。
……読み終わった本は、よほどの名作でもない限り読み返さない。
肌を過度に露失した衣服の女性の姿をした化け物にとって人間とは……いや彼女以外の存在はすべて物語の主人公であった。
今、一冊の物語の結末に導き、次の一冊へと手を伸ばす。
「魔刃が、人となるように……人もまた……」
次のページには何が書き記されているのだろうか。