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マスカブレード  作者: 黒野健一
第一章 詩朗/魔刃との遭遇
4/120

4二人

夏休み前日の最後の登校日。

それも今から家に帰るというこの時間、誰もがうきうきと上機嫌になるだろう。

しかし、月村詩朗はそうではなかった。


「聞いているのかね?月村くん」

「……ええ、ええ連続殺人鬼でしょ」


ただの連続殺人ではない、仮面を被った怪しげな人物による殺人である。

そう訂正する彼女は夕河暁。

明日からの予定に心を躍らせながら帰ろうとしていた詩朗に付きまとうようにしながら、

彼に最近起きてる物騒な事件の話をしている。

事件は全てこの街が舞台で、自分もいろいろと情報を知っているつもりであるが彼女からは

初めて聞く情報も混ざっていた。


「これをみたまえ、これが犯人の姿だよ」

ガソゴソとまるでくじを引くようにカバンの中から取り出されたのは、しわのついたコピー用紙に印刷された

妙な仮面をつけた髪の長い人間の姿である。

おそらく女性であろう、詩朗はこの姿を見て驚く。

ニュースで聞いた話だと犯人は被害者を真っ二つに裂いて殺したとか。

凶悪な表情を浮かべたガタイの良い男を犯人像と浮かべていたのだ。

だがこの写真の女の腕は細く、また凶器のようなものも所持していない。


「これ、本当に事件の写真か?」

「ああ本物だとも、事件直前、数分前の監視カメラの映像さ」

詩朗が信じられないというような顔をしていると、事件直後と『途中』の写真も見せようと

夕河がまたカバンの中に手を突っ込み、探し始めたのでお断りした。


なぜ犯人の映像が残っていてそれをニュースで公開せず、まだ犯人も捕まっていないのか。

それを問うと、彼女が答えるには普通の殺人事件ではないからだ、とまた同じ言葉を返される。

「そう、これはただの殺人ではなく、仮面を被った者による殺人だ」

「……夕河さんが最近ハマってる仮面シリーズな、俺は昔の各地の都市伝説追跡の記事が好きだけどな」


彼女、夕河暁はネット上で都市伝説やオカルト的な話をまとめたサイトの管理人である。

各地をまわり、噂の検証などしていてその趣味の人間の間だと割と人気である。

だが、最近は彼女地元の街で起きている奇妙な事件を中心に記事を書いている。


「ロケット婆ぁ山とか好きだったんだけどなぁ」

「あれはただのデマだったよ、そもそも婆さん括り付けてロケット実験とかそれこそニュース沙汰だろ」

「オカルトサイトの管理人がオカルト否定してどうすんだよ、俺は今でも

 月で研究員に復讐を誓う婆さんを信じてるぞ!」

と、むきになって別に本気で信じてるわけでもない滑稽な噂話の擁護をする。


「というか夕河さんさぁ、この付近のことばっか書いていたら特定されるんじゃないの?

 女の子なんだから用心したほうが良いぞ?」

自分のお気に入りの存在を否定されたお返しに、すこし不安を煽ることを言う。

とはいえ、ただの意地悪心全開で言っているのではなく、彼も本当にネットの怖さを心配していた。

「安心したまえ、私はネット上では自分のことを女子高生だと思い込んでるオカルト好きのおっさん

 という風に扱われているからな」


「なんだそのおっさん怖い、ヘタな都市伝説より怖い」



そんなことを話しながら歩いていた二人の前に二手に分かれた通路が現れる。

彼女と彼の帰るべき場所の分かれ道。

月村詩朗はべつに暗い性格をしているわけでもないが友人がいなかった。

それは教師にも、他の生徒にも分け隔てなく平等に頼まれてなくても、仕事を常になにか手伝えないか

と探しているからだ。

それは良い人の行動であって、友人の多い人間のやる行動ではない。

それでいて孤独になれている彼はそのことに気が付かない。

そんな彼に学校で親しくするのは夕河暁くらいであった。


夕河暁、可愛らしいみためをしているから四月の間は彼女の周りににも人が集まっていた。

しかし彼女はあの校庭で囲まれていた日野研司と同じぐらい有名であった。

といっても、『人気者』の彼とは違う『変わり者』としてだが。


ここまで歩いてくるまで、先ほどの騒動で学校に残って盛り上がっている生徒がいるとはいえ

何人もの生徒たちにジロジロ見られていた。

それは年頃の男女が二人で歩いていて羨ましい、というようなものではなく。

またお人よしの月村があの変わり者と仲良くしてる、大変だな~というような感じだろう。


彼女と初めて会話したのは、彼女がこの街の仮面事件に興味を持ち学校を休みがちになり始めた頃。

この街では最近起きている真っ二つ殺人の他にも、仮面を被った者の奇妙な事件が起きていた。

オカルト好きな彼女がそれに食いつき、学校よりも調査を優先するようになったのだ。

そして、今日のように久しぶりに登校したときに、教師から彼女に出された、休んだ授業の課題を彼が運んだのがきっかけ。

だがその後からは彼女から話しかけるようになった。

今までそういう雑用を任さられ、感謝されたことは何度もあったが仲良くなるきっかけになったのは

彼にとって初めてであった。


「じゃあ月村くん、夏休み中になにか面白い事件に巻き込まれたらすぐに私に連絡してくれ」

「ああ、変な仮面を見つけたら写真撮って送ってやるぜ」


雲一つない青空に浮かぶ太陽の下で、彼と彼女はと手を軽く振り別れた。

「まぁ、夕河さんには悪いが何も起こらないだろうな、今年の夏休みも」

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