39Save
暗闇の中で一閃。
剣を手に持ち、人工的に生み出された魔刃の鎧を身に纏う。
月村詩朗が構えると、対面の結合の魔刃が後ずさりする。
「何……あなた何なの!」
魔刃の力を使う人間というならありふれている存在だ。
結合の魔刃がつい先ほど遭遇した魔刃使いの少女のように、人間に力を貸す魔刃の力を借りる者がいる。
だが今、彼女を追いつめる存在は異質である。
魔刃の力に、人工的なものが混じっている。
「ッ……!」
また一歩後へ足を動かしてしまう。
それを自覚した結合の魔刃は、自分が恐怖していることを認めたくなかった。
人間に恐怖心を。
恐怖とは理解ができないものに対する感情だ。
結合の魔刃は人間を理解できないものなどとは思っていない。
人間とはただ感情的に生きる、単純な存在。
理解できないのではなく、理解しようとしなかっただけ。
「何……何よッ!!」
人間が、魔刃にとって理解不能なハズがない。
己の恐怖を否定するように、後に下がる足を止め、逆方向に突き進む。
「ハアアアアッ!!」
「……ハアァッ!!」
人間の体を借りている状態の魔刃の弱点、頭部を狙った拳。
だがそれが殴ったのは夜街の闇。
月村詩朗は躱しながら、さらに相手の腹部を横に切り裂いた。
彼の握る剣が結合の魔刃が宿る人間の臓物を露わにさせのだ。
腸が零れ落ちないように前かがみになった結合の魔刃を、詩朗は相手の肩の辺りを足で押すように蹴る。
その力の方向へ、バランスを崩した結合の魔刃が吹き飛ばされ、閉まった店のシャッターに受け止められる。
「うぐっ……人間、人間がッ!」
自分を追い込む人間に対しての恨みや、怒り。
それを拳に込め、背後のシャッターに打ち付ける。
八つ当たりに見えるその行動だが、そうではない。
拳がシャッターをなでるように動かすと、拳に張り付いた表面が引き剥がされる。
綿菓子を作るように、拳がシャッターを纏っていく。
そしてもう片方の腕は、切り裂かれた腹部にのびていた。
ゆっくりと、腹の中身を隠していく。
「人間の……人間が……!」
近づく詩朗と立ち上がる結合の魔刃。
「人間がぁあああああ!」
再び拳を相手の顔面へとめがけて振るう。
それを左腕で受け流した詩朗は、右腕の剣でまた同じく腹部に一撃。
塞がろうとしていた腹部の傷が開いて、さらに奥深くへと刃が入る。
「ぐぅうあああああっ!!」
腹部に食い込む刃に力がかけられるたびに、命を搾り取られているような叫びをあげる。
詩朗の空いている左腕は、彼の腰にあるベルトについたフォルダーから、何かの破片のようなものを取り出した。
それを剣の柄頭に差し込むと、左手も剣を握り、結合の魔刃の体ごと剣で担ぎ上げる。
「Save!『ダンペン』」
剣から機械音声が流れ、埋め込まれた赤いコアが点滅した。
「ウオオオオッッッ!!」
「……がっあ!!」
うなりを上げる詩朗が結合の魔刃を商店街のバリケードの高さまで打ち上げた。
「ぐっう!」
バリケードに背を打ち付けられた結合の魔刃は、そのまま落下してくる。
詩朗は落ちる彼女を捉えながら、点滅する剣のコアを掌で軽く叩く。
「Load!『ダンペン』」
叩かれたコアが点滅を止めると、剣の刃の部分が変化していく。
その形状は詩朗が昼間読んでいた歴史の教科書に載っている、七支刀のような形だ。
「オラァアア!」
その形状変化を起こした剣で、落下してきた結合の魔刃を叩きつける。
「ッアアアアアアア!!!」
結合の魔刃は空中で録に防御姿勢も取れずに食らったため、勢いよく吹き飛ばされ、長い商店街を転がっていく。
転がった先で、なんとか立ち上がろうとするも、足に力が入らず膝をつく。
「ウ……グゥウッ!」
「……とどめだ」
動けなくなった結合の魔刃の方へ近づいていきながら、詩朗は再び腰のフォルダーから破片を取り出す。
それを、先ほど差し込んだ破片と入れ替えると再び剣から音声が流れる。
「Save!『カクサン』」
詩朗が結合の魔刃から少しだけ離れたところで足を止めると、結合の魔刃は彼を睨むように見上げる。
詩朗も、跪いた彼女を見下ろすと、剣のコアを叩く。
「Load!「カクサン」」
その機械音声が流れたと同時に、形状変化を起こした刃が剣から分離した
宙に浮きながら、刃の断片達が詩朗の周りで待機する。
「……ハァ……」
詩朗が腰を低くし剣を構え、そして一気に空を切り裂く。
「ハァアアアアッッッ!!!」
それが、宙に浮く断片たちの発射の合図だった。
「あっ……いやぁあああああっ!!」
結合の魔刃は、自分の方へ向かって飛んでくる複数の刃の断片を防ぐ術がなかった。
ただ、反射的に腕を前に出して、身を丸め怯えるだけである。
これから、あの断片に自身の肉体とズタズタに引き裂かれることを。
………
「フゥン……どうやら後輩のヤツの勝ちのようだな」
遠くで詩朗らの戦闘をを見守っていた日野がそうつぶやいた。
「ああ、そのようだね……我えらば……ッ!?」
彼の顔を覆う仮面、先導者の魔刃がその時異様な気配を感じる。
それは知っている、かつて感じたことのあるものであり、
先導者はそれを地獄の炎の前で立たされているようなプレッシャーと表現していた。
「いけないッ!選ばれし者よ!彼らをッ……」
「……な……なんだ」
「……オイ、オイオイこいつはァ!!」
詩朗が放った刃の断片は確かに切り裂いた。
しかしそれは目標にしていた結合の魔刃ではなく、炎を纏った男の背中をである。
男の背中に突き刺さった断片は、凄まじい火力に包まれ、『焼失』する。
男が負った傷も、同じく……炎によって焼き消されていく。
「…………ス」
背を向けていた男が振りかえる。
その顔は、地獄の業火に焼かれた髑髏を模したモノだった。
「こいつは……王を守る配下の一人……」
「……焼キ尽クス」
「『焼失者』……」
詩朗の目の前に現れた乱入者の名を、先導者の魔刃がつぶやいた。