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マスカブレード  作者: 黒野健一
第三章 変身/恋心/失われた笑顔
35/120

35熱いもの

お待たせしました……そしてすみません!

リアルが忙しくなるので不定期更新になります。

一応今日と明日は投稿しますのでよろしくお願いします。

……吸血鬼の地下帝国。

……火だるま少年の謎。


「はっー!!最近の都市伝説は派手だなぁ、俺やぁ、知ってるのはツチノコとか目のでかい……えーと」

「…………ひどい状態でしたね……正堂さん」

「ったく!言うな!!飯前に……!!」


二人の刑事が街の食堂で注文の定食が来るのを待っていた。

中年の刑事の方は、若い方の刑事が見ていたオカルトサイトを自分の少し古いスマートフォンで

面白そうな記事をみつけてはいちいち騒いでいた。


ただそれはオカルトが好きだから興奮している、というよりわざと気分を変えるために行っていたものだ。

若い方の刑事、村上星は今も顔を白くしている。


二人が少し前までいたのは、凄惨な事件の現場。

それもとびっきり猟奇的な殺し方をした殺人の現場である。


一家惨殺事件。

その字面だけでも辛いのだが、その遺体の状況が凄まじいものだった。


父、母、子供。

何の順番かというと体の大きさと、遺体の損壊度が激しい順番である。


そして三人の遺体はまったく同じ場所にあり同時に発見された。

それは寝室、ベッドの上だ。

つまりは同じ部屋で……だがもっと近くで……。


……どういうことかというと。


遺体は父親の中に母親が、そしてその母親の中から子供が発見された。

父親の胸から下を、まるでくりぬいてそこに母親をねじこんだように。

母親の腹の辺りに同じく子供の亡骸が。


腹の中身が視える透明なマトリョーシカ人形のように。

あるいは人で人の棺を作ったかのように。


一番損傷の激しい父親は、胸から下は皮とわずかな肉で人型を形成している。

成人男性の肉体から成人女性の肉体の大きさを引いたその分だけが残っていた。

差し引きされた肉や骨はベッドの周りにぶちまけられていた。

それは母親に子供をねじ込むために取り出した彼女の一部も混じっていた。


血肉で真っ赤に染められたシーツが村上の眼に焼き付いた。




これから昼食だが食べる前で良かった。

食欲は完全に失せているが、胃の中のものを吐き出すよりはましだろう。

「はい、焼き魚定食です」

「あーどうも!ほら、村上……」

肉より魚の方がましだが、村上はまだ食欲が出ずうつむいている。

「俺は……許せない」

絶望的な光景は、彼に傷を負わせた。

だがそれだけではない。

村上の胸の中の正義感という炎が燃え盛る。


「……くっ!!」

「ひゅえ!?」

憤りに耐えられなくなりテーブルを拳で叩く。

それに驚いた彼の後ろの席の女性が手に持っていたお碗を落とす。

中身の味噌汁が彼女のふとももの辺りにこぼれる。


「……あっ、あちち!」

「あーオラ村上ィ!お前が騒ぐから驚いて……」

「ああ、すみません!」


村上は灰色のハンカチを取り出し、まだ口をつけてなかったお冷の氷を包む。

それを彼女に渡す。

「大丈夫ですか……?」

「す……すみません……」

顔を真っ赤にして、申し訳なさそうにつむく女性。

村上は彼女のその、前髪で少し隠れた顔をぼっーと眺めていた。


「あ、あの……」

「え、はい!」

女性を見つめていた村上は、その当人の声で心の中で飛び跳ねるような思いをした。

それを表に出さないようにしつつ、彼女の質問を聞く。


「え、えと……これを洗って返したいので……お名前伺っても……」

「あ……村上、星……ほしとかいてセイと……えっと……」

「村上星さん……」

優しく微笑みながら、その女性は村上の名を繰り返した。

……それの彼女の姿は村上の視覚と聴覚をおかしくさせた。


「ふっ……」

彼女の方から先輩のいる席に戻ってきた村上は、どこか変なところを見つめて笑みをこぼしている。

「ふっ……ふっ」

「……おい……村上?」

椅子に腰かけたと思えば、尻を椅子の上に置いたまま180度回転し、女性の方を見る。

女性はそんな村上にもう一度微笑みながらお辞儀した。

それを見た村上は彼女に微笑み返し、また180度椅子の上で回転し、先輩刑事の正堂の方へ向く。


「えっへ……へへへ……」

「…………ッ」


壊れたか?

いや違う、村上星の人生において女性にこんな気持ちを抱くのは初めてだったためだ。

村上星、二十代後半、初恋である。


正直気味悪いその様だが、先輩刑事の正堂は少し安心した。

村上が部下になってからずっと思っていたことだが、村上は少し正義感が過剰なところがある。

特にマジンとかいうあの異形な存在について……

これまで何度か捜査線上に浮かびあがった容疑者が仮面の怪人であり、捜査権限を例の組織に奪い取られるということがあった。

それが村上には許せなかった。

いつだったか正堂は正確には覚えていないが、村上が一人で容疑者を追いかけたことがあった。

結局その時は容疑者にたどり着くことなく済んだが……


「(このまえのようなこともあるだろうしな……)」

河川敷でのマジン同士の戦闘。

彼らの生態というか、全貌はまだあきらかになっていない。

これまで遭遇した件から分かったのは、人間の力が及ばないということ。


正堂は今度の事件もおそらく、マジンが関わっているものだと推測する。

刑事のカン……というやつだ。

もっとも、凶器もなく争った様子もなしで、あの惨状を起こすのは不自然である。


また暴走されるぐらいなら、恋でもして腑抜けになっていたほうが良い。


「でゅへへへ……でゅへ!」

「……いや、どうだろう……大丈夫かコイツ?」




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