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マスカブレード  作者: 黒野健一
第三章 変身/恋心/失われた笑顔
33/120

33理解

昔……今から想像できないほどの昔の話。

そこには強き者がいた。

強き者は繁栄し、世界そのものとなった。

そして強き者は当然のように弱き者を支配していた。


そんな昔話の世界の、とある二人がなにやらもめている。


「行くのね……人のもとに……」

「……ああ」

「どうして……?」

「すまない……僕は愛してしまったんだ……人間を」


強き者が弱き者の上に立つ。

それは自然なことだと彼女は思っていた。

だが彼はそうは思わなかった。

彼は知っていたのだ、自分たちと彼らが同じであると。


「……今なら、彼の言うことも理解できるわ……」

パチリと、目を覚ます。

彼女が見上げる空はいつも暗く、そして優しく輝いている。


彼女が人間に憑りついてから数日。

宿主となった女の望みを叶るたびに、彼女が愛した者の言葉を思い出す。


「人と魔刃は同じ……ね」

彼女が愛し、そして自分の手から離れた者の言葉。

理解なんてできなかった。

自分たちが玩具にする程度にしか価値のない存在と、等しい?

人間で例えるなら、虫や犬や猫と人が同等の価値だと言っているようなもの。

……人間がそういう奇麗な思想が好むことを彼女は知っている。

だから、余計に気に入らないのだ。

彼が、人間のような考え方で人間を愛したことが。


しかし今の彼女は少しずつ、考えを変え始めている。

それは自分が新たな肉体として選んだ人間の女と、この数日過ごした結果だ。

今、彼女と彼女は一つの考えに統一されている。


本来魔刃というのは、宿主の心を自身のものに塗り替えることで

新たな肉体の器として機能する。

しかし、彼女の場合は違った。

初めから、この人間の女とはまるで自分の似顔絵のように、書き写したと言う程同じ趣向をもっていた。

だから彼女は興味を持った。


自分が今まで無価値だと思った、人間という存在に。



「私が起こされたということは……」

目覚めたばかりのその視界には、三つの命が映る。

大中小……男女子供……つまりは家族。

美しいほどに幸せで『あった』それを想うと、人々は二種類の感想を抱くだろう。

「微笑ましい……守りたい」

「羨ましい……壊したい」


命……三人のもつそれを奪いに、ゆっくりと歩み寄る女の顔は、大きく晴れた瞼と

尖らせた巨大な唇という作り物のようだ。

それもそのはず、そのとおり、それはその女の顔ではない。

彼女……『結合』そのものである。


「微笑ましい……」

幸せな存在を、誰かに壊されたくない。

例えそれが自分のものでもなくても、目の前の幸福が怪我されるのは我慢ならない。


「羨ましい……」

自分が幸せになれないなら、いっそすべて壊したい。

どうして?自分は幸せになれなくて他者ばかり幸福が訪れるの?

妬ましい……壊したい。


「……ええ、ええ!わかる、わかるわ……今なら人間というのが……」

理解できる、今なら。

人と魔刃は確かに同じだということが。


「守らなきゃ……幸福を……永遠に幸福を……!」


結合の魔刃……彼女が出した答えは、彼女と共に過ごす人間の女も同意した。

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