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マスカブレード  作者: 黒野健一
第二章 静寂/父と母
30/120

30罪と向き合う

地下のさらに深い階層に連れてこられた詩朗。

黄鐘の後をついていくと一つの扉の前で彼女の足が止まった。

「あなたの償いの仕方はこの部屋の彼に聞きなさい」

「………………」

唾を飲み込んで扉に手をかける。


「やぁ、はじめましてかな」

扉の先でイスに腰かけた男がなんらかの意図を含んだ言い方をして挨拶する。

顎のひげ、四角い眼鏡、まだそんな年でもないだろうに染まってしまった真っ白な髪。

その男の顔の特徴のどれにも覚えがなかった詩朗は同じく挨拶を返す。

「はじめまして……だと思います」


男は詩朗のその様子を見て、何かを確信したかのように一度頷く。

「まぁ……座りなさい」

そう言いながら、男の目の前に用意されたもう一つのイスに招く。

頷きと礼の間ぐらいに頭を下げた詩朗はそのイスに腰かける。


はじめに男が語ったのは男自身についてだ。


「私の名は天野正次、魔刃部隊の装備開発をしている者だ」

「……開発の方がなぜ僕に?」

「私の研究の手伝いをしてもらいたい」


詩朗はべつに高度な技術もなければ、武器に対する知識もない。

夕河暁は彼女の能力を買われていたようだが、詩朗は自分自身に

なにか役に立つようなスキルは無いと思っている。


そのとおり、天野は彼になにかを開発しろという話ではなかった。


「これを使って戦ってもらう」

天野が立ち上がり、壁にある何かの装置を操作すると

床の下からショーケースのようなものが生えてきた。

イス二つ以外何もない、真っ白な部屋には何らかの仕掛けが施されていた。


「……剣?」

詩朗がそのケースの中のモノを見て呟く。

大きな宝石のようなものをはめ込んだ剣は鞘に収まっている。

見た目のイメージは、RPGの勇者の持つ聖剣というより

戦うロボットが振るう機械的な剣であった。


「君、両親はどんな仕事をしていたか覚えているかい?」

「……え?」

唐突な質問である。

過去形なのは家族構成を調べられたからか?と詩朗は思ったが

彼が戸惑ったのは、自分の記憶に両親の職業について何も覚えていなかったことだ。


「君の両親、奏さん詞さんは僕の先輩なんだ。この対魔刃部隊のね」

「え……?」

詩朗の両親は彼が幼いころに亡くなっていた。

祖母に引き取られ、おばの詠と三人で暮らしていた。

その祖母も亡くなり、今は詠と二人で暮らしている。


「君の両親は、対魔刃部隊でこの剣の開発をしていた……しかし」

両親は事故で死んだ。

幼い彼はそう聞いた記憶があった。

「殺されてしまった……開発途中でね」

「殺され……た?」


誰に……?なんで……?


いや、答えはすぐにでた。

「魔刃……!」


対魔刃部隊がまだ結成された間もない頃の出来事だそうだ。

組織にいた人間に味方する魔刃が、突如裏切りを行った。


「……魔刃なら、今もいるじゃないですか……!」

組織には『復讐』をはじめとした複数の魔刃が今もいる。

普段はケースの中で眠っているようだが、

昨夜の戦いでも、日野は『先導者』という魔刃を使っていた。


「彼らは『刃覚者』と呼ばれている。魔刃の人格支配に耐性のある特殊な人間だ」

魔刃には魔刃の力で対抗する。

人間の作る兵器では倒すのは難しいのだ。

だから一度死に仮面となった魔刃を集め、魔刃の力を使用し戦った。

だけど、能力を使えば使うほど魔刃の精神汚染により人格が歪む。

最終的には魔刃がその人間を乗っ取り復活することもあった。


だから人類には刃覚者の存在が必要だった。

そして、詩朗の両親はこの刃覚者について研究していた。


次に、天野は人格者のルーツを語りだす。

「刃覚者とは……」


刃覚者はかつて人間が魔刃に支配されていた時代に

抗おうとする人類に味方をした魔刃達が与えた力だ。

力を与えられた者達の子孫は、魔刃の手から解放された世界のあちこちにちらばった。

人類の数パーセントが稀にその先祖の力を発現するのだという。


対魔刃部隊で、大人たちに紛れて十代の子供がいるのは、

彼らがその数パーセントの希少な存在だからだ。


刃覚者の能力が発現するのは十代の多感な時期で、能力は使わずにいると

だんだんと失われていくため、十代以上の刃覚者は数が少ないのだという。

詩朗の両親は、人生の大事な青春次代を戦いに費やし、人生を歪めてしまう

この力を好んではいなかった。


「そして、二人が開発したのがこの剣、人工的に刃覚者と同じ能力を使うことができる装備だ」

「人工、刃覚者……」

とはいえ、開発途中のものを引き継いだ天野が一応で完成させたものだ。

試作品のようなもので、まだデータが不足している。

能力の効果は剣を持った人間にのみ影響し、10分しか使用することができないという。


「改良、量産、実用までまだまだなんだ。僕は君の両親の意思を継ぎたいとそう思ったんだがね……」

私ではまだ及ばない、そう言う天野に詩朗は首を横に振った。

「天野さん、僕は知りませんでした。父と母がこんな研究をしていたなんて」

詩朗のかすかに残る記憶では、普通のどこにでもいる父親と母親であった。

「僕も、手伝わせてください!父と母の想いを僕も叶えたいんです」


それは、詩朗がその剣を使い戦うということを意味していた。


「誰かの笑顔を守るために、僕の両親はそれを作ったんだと思うんです。

 だから、僕も笑顔のために戦いたい!」


「…………フッ」

日野は詩朗をみつめ、何かを考えるように黙ったと思うと笑みをこぼした。


「君は本当に、あの二人の子なんだな」



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