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マスカブレード  作者: 黒野健一
第一章 詩朗/魔刃との遭遇
3/120

3集会

終業式の日。

教室では全校集会の前の待機時間で夏休みの予定を語り合う生徒達が盛り上がっていた。

そんな中、一人教室の外から数枚のプリントを運んできた少年、月村詩朗。

彼は教室の掲示物を外し、それと入れ替える。

残ったプリントを持って、教室の隅の席で眠るある生徒の方へ向かう。


「夕河、これ」

「ん……ああ、いつも君は働き者だねぇ」

彼女は夕河暁、学校の授業には時々しか出席しないため今日ここにいるのは珍しいことだ。

詩朗いつも彼女への知らせを教師から託されている。

と、いうより自分から申し出たのだが。


「私はやーだよ、自分のやりたいことしかやりたくないんだ」

「うん、俺も同じ」


ふふっ。


「君さぁ、いつも他人に何かを与えているが……君はなんのためにそんなことを?」

「……人のためではないんだ……俺は、全部自分のためなんだ、与えてもらってるのは俺の方」

夕河はまた短く笑うと詩朗に問う。

「私は君にそれを与えられているかな?」

「うーん……夕河のそれは少し、欲しいのとはタイプが違うかな、それでも夕河と話すのは嫌いじゃないな」

「なら、いいのだけど」


二人のその会話の途中で、ピーンと教室のスピーカーから音が響く。

集会の準備が整い、移動を促す事を放送委員が告げる。


「さぁ、行こうか」

彼女は詩朗から受け取った数枚のプリントを、何かを記したメモ帳だらけのカバンに雑にしまう。

彼女に課された夏休みの課題はもうすでにしわくちゃにくたびれてしまった。




集会中、詩朗は校長や生徒会の話など耳を貸さず、今日から何をして過ごそうか考えていた。

彼はよく周囲の人間からお人よし、おせっかいやき、善人と言われるが実際の彼はそんな人間ではない。

そういったことをするのはすべて見返りがあるからだ。

彼が欲するモノのためにしていることなのだから、それを得られないのならわざわざ善い人ぶることはしない。


隣でこそこそ何かを話している生徒がいる。

彼らに注意をすることなんて絶対しない。

詩朗もその生徒たちのように不真面目な人間の一人である。


「……以上で終了します、何か連絡のある方はいらっしゃいますか?」



集会後、自分たちのクラスで通知表を配られていた。

ある者にとっては地獄を、ある者にとっては自分の頑張りを目に見える形で配られる時間である。


「うーん、まぁまぁかな」

受け取った通知表を自分の席で眺める詩朗はつぶやいた。

成績はすごく平均的。

それもすべての教科で平均点……なんて逆に個性のあるようなものではなく、得意な教科と苦手の教科で

プラスマイナスゼロになるタイプの平均的だ。

そんな平凡な通知表を見ていた時だった。


「お、おい!!みんな、あれ!!」

さっきまで友人と点数の競い合いで騒いでいたクラスのお調子者が窓の外を指さす。

校庭の中央では、ガラの悪い十人ほどの男達が円を作るようにして立っていた。

彼らはこの学校の元生徒で、本来なら自分たちの先輩であったはずの人間だ。

そしてその円の中心に立っている、つまり囲まれているのはこの学校の有名人であった。


「日野研司が、リンチだ!!」


すぐにクラス中がざわめきはじめる。

そしてこの事態に気が付きた他の学年、クラスの教室も同じである。


校庭にいた渦中の日野研司は全校生徒で塞がれた校舎の窓を眺める。

「……ふっ……とんだ見世物になってしまったな」

「へへへっ!てめぇが血と涙で顔をぐちゃぐちゃにするところ、みんなにもみてもらおーぜ?」

円の中の一人のスキンヘッドの大柄の男が愛用の喧嘩用グローブをハメてにやにやと笑う。

周りの男達もそれぞれ使い慣れた武器を構えながらスキンヘッドの男に同調して笑い始める。


「…………」

「どうしたァ?笑えよ、ビビっちまったかァ!?」

「……わかってないな」

騒がしい周囲の男達に呆れるように、口を開く。

ため息をつき、舐めた態度をとる彼をイラついた男達は睨め付け、威圧する。

だが日野研司には無意味だ。


「消えろ、全校生徒を前に無様な姿を晒したくはないだろう?」

「あァ!?なんだ今、言い間違いか?全校生徒に無様な姿晒したくないから許してくださいって言いたかったのか?」


「ふっ…………それはお前のセリフだろ?」

完全に自分を馬鹿にしたその言葉が耳に入り脳味噌に到達する前に、スキンヘッドは日野に殴りかかった。

「それはッッッ!!おめぇえええのセリフだッボゲェエエエェ!!」

理性を感じさせない怒りで満ち溢れた叫びと共に、日野の顔面をめがけて拳が放たれた。

だがそこにあった彼の、女子たちに間でこの学校の宝と言われているそのきれいに整った顔は、まるで

美術館に展示された像のように美しさと冷静さを保ちながらパンチの軌道の外にあった。


「ふっ……いいだろう特別授業だ!この日野研司が教えてやる」

「うらぁあああ!!」

後から木刀を振り下ろされるが、腕で掴み、その男を足でけり飛ばし木刀を拝借する。

一連の動きに迷いのないことから、喧嘩になれていることを察した周囲の男達はさっきまでの

彼を馬鹿にした笑みを崩し警戒する。

日野はそんな彼らに、自分が向けられていたのと同じ表情をしながら奪った木刀で自分の肩を軽く叩きながら言う。

「夏休みで使える、本当の喧嘩の仕方だッ!!」


「うぉおおおおお!!」

「キャアァアアッ!!日野くぅううん!!」

「やれッ!!いけぇえええ!」


夏休み前日ということもあり、異常なテンションが学校を支配する。

絶叫に近い観客たちの声の中、木刀一本で大人数を相手する。


数分後、ブーイングの中飛び込み、この騒動を止めに入った教師たちに日野が連れていかれた。

校庭にはボロボロにされた十人ほどの男たちが横たわり、そのさらに数分後にやってきた救急車が彼らを乗せていった。

サイレンの音は学校全体によく響き、先ほどまでの狂気じみた熱狂はまだ完全には冷めてはいないものの、帰宅準備をして

校門をでる者もいた。


月村詩朗もその一人で、つまらない通知表をカバンにしまっていた。

「やぁ、さっきのあれすごかったねぇ?」

「うん、この学校一の有名人がこりゃ夏休み中に他校にも有名になるね」

話しかけてきたのは夕河、パンパンに膨れたカバンを持ち、後の出入り口を通るついでに先のことを話題に出し。

「やっぱり夕河も興味あるの?」


成績優秀、奇麗な顔立ち、何者に対しても上から目線という強い個性から特に女子から好かれている男、日野研司。

先輩後輩問わず注目を浴びている彼が、とうとう今日やらかした。

今も教室の前の方の出入り口を占拠して他のクラスの生徒と彼について盛り上がっている女子達がいる。


「ああ、興味あるね」

「へぇ~以外だなぁ、生きた人間に興味あるなんて」

「アイツ、絶対未来の戦闘アンドロイドか地球人に擬態してる宇宙人だぜ、そう思うだろう月村くん?」




うん、とだけ返事した詩朗は他の女子グループにふさがれないうちに後ろの出口から廊下に出た。


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