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マスカブレード  作者: 黒野健一
第二章 静寂/父と母
28/120

28死の音

「ぐっ……がぁ……くそぉ……平穏な刃生が……理想の暮らしがぁ……」


彼がいたのは民家が並ぶ、住宅街の公園。

夜に公園で遊ぶ子供や、ベンチに腰を降ろし休む老人などはいない。

生え並ぶ樹の近くに、ほぼ倒れるような形で寝転がる。

ここには誰もいないが、仮に彼が他人に見られてもただの酔っぱらいかと思うだろう。


ただし遠くから見れば、だが。

樹の下の男は腕や足の一部が、まるで作りかけのパズルのように失われている。

彼のさわやかな顔立ちも、血と汗で崩れている。


「だが……逃げ切れたぞ……人間ども……ハハッ!」


人間の味方をしていた魔刃の力によって作られた剣は、彼の肉体を貫いた。

しかしその瞬間に合わせて、自らを『拡散』し、バラバラになった肉体のまま

この公園まで物陰に隠れつつ、やってきた。

細切れになった体は大方は元通りになったが、それでもどこかで失われた部位もあった。



満身創痍であるものの、逃れることができた。

優越感を感じつつ、周囲の警戒も怠らない。

静寂の魔刃は自身の力により、近くの物音ならすぐに感知ができる。


そして今、公園に向かう足音を確認した。

それは静寂の魔刃にとって願ってもない者だ。


「ハァ……せっかく馴染んできた体だったが……仕方がない!!」

魔刃が支配していた体を切り離し、新たな体を求める。

さわやかそうな顔のした男は、自身の生命保っていた存在が離れ力尽きる。

倒れ込んだ様子を見かけた、公園を訪れた足音の主がこっちに来た。


「……ッフ!」

愚かな人間め、これから肉体と精神をゆっくり侵食してやる!

と、ただの仮面を装う。


「大丈夫ですか?生きてますか?」

倒れ込んでいる男を揺さぶり、心配していたその人間は近くに妙な仮面が落ちていることに気付く。


「……拾えッ……!」

やってきた男の方へ強い意志を向けつつ、まだ動かない。

静寂の魔刃ということもあって無機質な物体を演じるのは彼の得意なことであった。


「……なんで……仮面!?なんで……!!」

男がその妙な仮面に手を伸ばす。

静寂の魔刃は表情を変えないが、心では邪悪な笑みを浮かべただろう。

だが、その男は伸ばした手で仮面には触れず、手を止める。


この倒れている静寂の魔刃の肉体だった人間を、何かの事件に巻き込まれた被害者とでも思ったのか?

証拠品にむやみに触れにない方が良いと判断したか?

静寂の魔刃がその男の行動を推測したが、彼にとってそんなことはどうでもよかった。

あとすこしで触れるほど接近できればそれでよかったのだ。


魔刃は肉体を失ったとしても、仮面から刃で足のようなものを使って歩ける。

まるで虫のような姿だから彼らとしてはあまり見せたくないのだが、この人間の意思は

やがて自分が支配するのだから関係ないと、仮面から刃を出し男に飛び掛かる。




飛び掛かろうとした。


だが、男はその仮面に向かって拳を振り下ろした。

刃の足によって跳躍した仮面は叩き落とされ、地に押し付けられる。

そして二発目、三発目と拳は何度も振り下ろされた。


「……ッ!ぐがぁ!?」

拳を受けるたびに、ヒビが入っていく。

魔刃の仮面を壊されるということは肉体の死とは違い、完全なる死を意味する。

自身の命をまさに叩き壊そうとする者に恐怖を抱きつつも、静寂の魔刃は最後の反撃に出ようとした。


この数日の間、夕河暁の情報により出会った魔刃の力。

喰らい、自分の力へと変えたそれをこの者に味わせてやろう。


「……ッガァ!『断片・拡散』!くらぁ……」

静寂の魔刃が自信を破壊しようとするその者に発した

最初で最後の言葉は途中で遮られた。

男の振り下ろした拳は、握りしめた状態ではなく開いた状態で、仮面の口の部分を覆うようだった。


「ッ……!?ッッッグッ!!」


そして徐々に入る力によって、静寂の魔刃の命は徐々に破壊されていく。

仮面を握りしめているその指の隙間から、魔刃は男の表情を見ようとする。

だが、男の表情はまるで死神の顔を模したかのようなもので見えない。


ただの人間が、拳で魔刃の仮面にひびを入れるなどありえない、その時点で静寂の魔刃は気づいてしまった。

自分が出会ったのは、人間ではないのだと。


……バギィッ!


男の手の中で発した、破裂するような音。

静寂を司る魔刃にふさわしい、静かな断末魔。


死神のような、骸の仮面を身に着けた男は、握りしめた手の中の

砕け散った命をまるで獣のように、貪った。



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