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マスカブレード  作者: 黒野健一
第二章 静寂/父と母
25/120

25怪刃

「ただいま~」

時計の短い針がちょうど8を指したころに月村宅のドアが開く。

老婆が経営している本屋で仕事を手伝っている彼女は、

今日はその老婆が腰を痛めたという急用で出向いていた。


詩朗は風呂に入っているのだろうか?と思いながらリビングの明りを灯す。

机の上の書置きが別のものに置き換わっていた。


「友人の家に泊まります、夕食おいしかったです。それから、ごめんなさい」

「……ごめんなさい?」




同時刻、夜とはいえ駅前には人気が多かった。

今から自宅に帰るのか、あるいは酒屋なんかに行くのか、仕事終わりの会社員が多い。


その会社員の群れの中の一人が騒いだ。

「おい、なんだお前!」

その目の前にいる異形の存在に思わず大きな声が出てしまったのだろう。

声でその存在に気付いた周囲の人間もざわめく。

戸惑いや恐怖といった声の中に、カシャリとシャッターのような音が混じっている。

それを確認した異形の者は、身にまとったボロ布の隙間から刃物を取り出した。

「うぉおおおおォ!!」

空を切りながら叫び始めると、周囲に集まっていた人間が一瞬で離れていく。

助けを求めながら、あるいは自分の命を守るため。


異形も、すぐにその場から離れる。

集団の中の誰かを標的に追いかける……というわけではない。

異形の薄汚れた足は繁華街の方へと向かう。




「……月村くん」

ブルーライトを浴びながら、特急で作って投稿した記事の反応を見る。

記事のコメント欄は、同時に監視しているSNSの反応と同じだ。

恐怖、好奇心、不謹慎だと思いつつも非日常を楽しんでいる者もいれば

ただただ早く警察に捕まれと怯えている者もいる。


「おやぁ?」

その声が耳に入った夕河は肩をビクッと震えさせる。

振り返った先の男は、自分の本体とも言える仮面を隠し、どこにでもいるような

さわやかそうな男性の顔に変え話しかける。

「街が妙に騒がしいと思えば……また新しい標的、が」


画面を覗きこむと男の眼に入りこんでくるのは、今現在騒がせている仮面男の存在の情報。

小学生が図画工作で作ったような仮面、ボロボロのマント、真っ黒に汚れた素足で駆け回る異形。

そして人々の前で振るわれた刃物。

間違いなく同族であると断定した静寂の魔刃だったが一つ気がかりなことがあった。


「……見覚えのないやつだな……」

魔刃全員を知っている者など王ぐらいなものだが、知らない魔刃と戦うのは彼にとってメリットが薄かった。

彼が静かに暮らすという目的と真逆の、戦闘をする理由は他の魔刃を喰らい、強者になることである。

もしも、自身の『静寂』という性質に反する魔刃であればどうだろう。


……例えば極端な話、『爆音』の魔刃だったりすれば自身の性質と打ち消し合い、無意味なだけでなく

最悪自身の弱体化が起きるかもしれない。

「……もうすこし、泳がすか……」

「………………!」

その一言、夕河は静寂の性格からそうなるかもしれないと予期していた。

わざとらしく、大きくウィンドウを開いて静寂に見せつける。

それはこの街の住人の一人がSNSに投稿した動画。


映し出された映像の中で、騒動の中心である異形の存在が刃物をカメラに向けながら何かを言っている。

「………?何だ?」

何を言っている……?と静寂の魔刃が夕河を押しのけて画面に食いついた。

そして夕河は下げていたPCのスピーカーの音量を上げた。


「私は『予知』……見ているな?『静寂』!!」

コメント欄に集まった人々はその言葉の意味を考察しあっていた。

だがこのメッセージの意図を正しく理解しているのはこの世界で一人だけだ。

「……誘っている……ッ!!」

美男子というような言葉が似合う顔が卑しく、歪んだ。


おそらく能力は未来予知。

それの力は静穏を望む彼、静寂の魔刃にとっては魅力的であった。

わざわざ動画に写り、自分の存在をアピールするぐらいだ、当然この異形『予知』の魔刃は

なんらかの意図をもっている。


予知ができて、これから静寂の魔刃がどうするかわからないはずがない。

それを承知……つまり迎い討つ力を持ち合わせているということだ。

「……クッ、クックックッ!誘っているのか!そうかァ!!」


「…………詩朗くん……!」

夕河がループで再生される異形のメッセージ動画のウィンドウを閉じた。

同じ部屋にいたあの魔刃は音も無く消えた。

夜風でなびいたカーテンが月光を部屋に招いた。


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