23命令
魔刃という単語は詩朗にとって、夕河の事情を一瞬で察する言葉であった。
オカルトにのめり込んでいる彼女が、ついに一線超えてしまった。
おそらく何かのトラブルに巻き込まれているのだろう。
「俺があの仮面の男だと分かっていたのか?」
「……なんとなく、確信したのは君と話をした時だけど」
「何故あの場で問い詰めなかった?」
「あの部屋にはいたんだ、すでに……君はもう静寂の魔刃に会っている」
あのときもしも詩朗が事実を答えていれば、静寂は彼が気付かないうちに殺しただろう。
詩朗が復讐の魔刃と適合しきれてないうえ、魔刃本体は別の場所にいるというのも知る前に。
黄鐘の言うことを聞いていたおかげで命拾いしたわけだ。
それを聞いて、詩朗は続けて質問する。
「魔刃と何があったんだ?」
「どうやら私は狙われていたみたいだ、家族を人質に取られ、他の魔人の情報を
私に調べさせるのが目的のようだ」
他の魔刃、詩朗には心あたりがある。
復讐の魔刃から聞いた話だと、魔刃の王を復活させる勢力とそれを阻止する親人間派の二つの勢力がある。
このどちらかの勢力の仲間や敵を探しているのか、あるいは……
「魔刃というのは、他の魔刃を喰らうことで強くなるって言っていたわ」
「強くなることが目的……」
第三勢力、人にも魔刃にもつかず自分の欲望のまま生きる者達。
人間のためというより自分のために魔刃の王に敵対する復讐の魔刃や、
憩いの場所を独占したいという理由で暴れていた癒しの魔刃のような
自分のために活動している魔刃なのだ。
「お前は、なんのためにここに来たんだ?」
ここの喫茶店は先日の件でたしかに魔刃とかかわったが、片方は死亡し
もう片方は行方不明になっているはずだ。
「私は今、魔刃に対抗する人間の組織について調べるように命じられているわ」
「……そうか……」
これについてはどう答えるか迷った。
真実を話すべきか、あるいは嘘を交えて答えるか。
夕河の両親の命がかかっている、迂闊なことは言えない。
「わかった……話そう、だけど俺もあまりわからないんだ」
対魔刃部隊の存在について詩朗が知る限りのことを伝える。
彼らに助けを求めようとも思ったが、組織の居場所も連絡先も知らない。
家に帰るときは目隠しさせられ車に乗せられたぐらいだ。
だが組織としての目的ははっきりとしている。
少なくとも夕河は自分にとって存在があやふやな組織が実在することはわかっただろう。
「そうね……やっぱり存在はしているのね」
夕河は自分の爪を噛みながら周囲を見渡す。
キョロキョロと、いきなり挙動不審になったので詩朗が思わずどうしたのか聞く。
「さっき言ったでしょ?昨日あなたは気が付かなかったけど静寂がそこにいたの」
今も周囲にいて話を聞いているのかもしれない、さすがに姿を消すような能力はないが
もし夕河を疑った静寂の魔刃がここにいれば、これから話す事を聞かれるのは不味い。
「……場所を変えるか?」
珍しく怯えている彼女の姿を見た詩朗が提案する。
これから話すことはとても重要なのだろう。
「ええ、そうしてくれると助かるわ」