22知ってるんだろう?
喫茶店『バタフライ』は前日の争いで店内が荒らされたため今は休みをとっている。
普段、店長と孫の霧香が暮らしている方の住居スペースに案内される。
「怪我はもう大丈夫なのかい……?」
「……はい、気を失っていたんですけど、たいした怪我はないです」
一応周囲の人間に不自然に思われないように、包帯や絆創膏で怪我をアピールしている。
実際は癒しの魔刃を喰らった復讐の魔刃の力でほぼ治っている。
「店の片付けをしないと……な」
「手伝いますよ、僕も」
店を荒らした張本人の一人であるため、罪悪感がある。
それに、すごく落ち込んでいる店長の顔を見ているとじっとしていられない。
「昼に業者の人がきてくれるんだ、それまでに片付けられるところはやっとこうと思ってね」
腰を曲げて、割れたカップや食器の破片を集めている。
やはり表情は暗い。
「……すみません」と声に出したかったが、黄鐘との件で話すわけにはいかない。
今の詩朗にできるのは手伝うことだけだ。
店長が腹をすかせた詩朗に昼食をふるまった。
いつもの喫茶店のメニューと同じ味だが、詩朗はいつもよりじっくり味わった。
常連客達はこの味としばらく会えないだろうと、きっと寂しがっているに違いない。
「すみませぇ~ん!」
表から声がした。
修理に来た業者だろう。
店長が店の方へと向かうと、霧香と二人になる。
詩朗はまず、黄鐘に言われたことを彼女にも伝える。
魔刃のことを当事者の彼女にも知る権利があると思ったからだ。
「うん……あ、でも警察の人に仮面がしゃべったこと言っちゃった……」
「まぁ、それぐらいなら取り乱していたとか思うんじゃない?」
魔刃の事は霧香も秘密にすることにした。
誰にも話さず、誰に聞かれても知らないふりをすること。
「それじゃあ……僕はもう帰るよ」
「あ、詩朗……さん」
玄関で、霧香が話しかける。
「あの、あなたのおかげで私は、私の命は救われました。
それだけじゃなくて、お店の人も、おじいちゃんも……」
「……僕こそ、君が通報してくれなきゃ死んでたかも」
霧香は詩朗に「ありがとう」と伝えた。
だけど詩朗にとってはその感謝の言葉よりも彼女たちにはやく取り戻して欲しいものがあった。
「はやく、お店再開できるといいね……」
店を出た詩朗はそのまままっすぐ自宅に向かっていたが、偶然出会う。
「やぁ……奇遇だね」
「……夕河」
夕河暁はどことなく焦った雰囲気で話しかけてきた。
「これから、もう一人の生存者の女の子に話を聞こうと思ってたんだけどね」
「やめておけ、あの子は取り乱していただけだ」
面白いような話は聞けない、と詩朗が告げると夕河も意外なことに肯定した。
「ああ、もういい、君から話を聞くからね」
「話なら、昨日しただろ」
そう言うと夕河がなぜか、携帯の写真を見せる。
彼女の両親がなぜか押し入れに、それも不自然に入っている。
まるで立ったままの姿勢で、それを横にしたように。
「昨日、君が来た時に隠したんだ」
「……え?」
「昨日、君に夕食を買いに行かせて、その間に押し入れに隠すように命じられたんだ」
詩朗は困惑してしまう。
彼女が何を言っているのか理解できない。
「……知ってるんだろう、魔刃について……!」




