21静寂の思惑
「ぐがぁああ!!」
人間たちが寝静まった夜に響く叫び。
それは人のようで人のものではない。
本来は人を狩る側の存在。
「魔刃と言ったか……こいつらは」
突如現れた静寂の魔刃を名乗る青年。
彼の目的はまさにこれだった。
魔刃の習性、他の魔刃を喰らうことで自身の力とする。
静寂の魔刃の願いはただ一つ、静かに暮らすこと。
魔刃とも人間ともかかわらず静かに。
だがそれを許してくれないことを理解している彼は、せめて穏やかな生活を
脅かす存在を排除できればと考えた。
そんな彼が出会ったのは、あるサイト。
そこには他の魔刃の情報が多く集められていた。
「使える……!」そして機会を伺ってた。
ついに今日その日がやってきた。
静寂の魔刃はずっと待っていた。
他の同胞が大きな事件を起こし、その事件を嗅ぎまわる人間を待っていた。
「……次いこうか……」
少女を連れて魔刃を狩る。
わざわざ自分から離れないようにしているのは、静寂の魔刃が人間の組織を警戒しているからだ。
人間たちは混乱を防ぐために隠しているようだが、それは無意味だと思う。
魔刃の存在はやがて大衆に知られることになる。
それでも隠しているということは、まだ魔刃に対抗する力が整っていないからだと推測する。
「今がチャンスなんだ……!」
魔刃達はまだ全員が目覚めているわけではない、人間も魔刃に対する戦力が不足している。
今が最高のチャンスだった。
静寂の魔刃の望む理想は、誰からも危害を加えられることないこと。
あの魔刃の王の奴隷など望んでいない。
自由で、それでいて目立たず、非力でないこと。
魔刃王は復活させないし、人間達に力をつけさせるわけにもいかない。
「皆殺しだ……私以外の強者は皆殺しだ!!」
「……ッ!」
怪物と少女、二人だけの空間に大声が響く。
「おっと……すまない、驚かせてしまった」
彼女の両親を人質に取っていることに少しは罪悪感がある。
できるだけ彼女を怯えさせたくない。
少なくとも、味方である今は。
「それで、魔刃の情報はどれくらい集まっている……?」
「仮面の……魔刃を被った人間は今のところこの辺かしらね……」
数人のリスト、それらは実名や個人を特定する情報などはない。
「こんなのでわかるの……?」
「わかるとも、魔刃はこの街にしか存在できないからね……」
魔刃の都市伝説を頻繁に上げる彼女を特定できたのもこの理由だ。
地下で眠る巨大な剣のエネルギーはちょうどこの街を覆うように流れている。
魔人が活動できるのはこの街の中、そしてその狭い範囲にも関わらず魔刃が
人間に目立たないようにしているのは、人間の対魔刃組織の存在のせいだろう。
「やっぱりあるのね……そういう組織が」
都市伝説を追う者として予測はしていた、しかし情報は何一つ掴んでいない。
「そっちの方の調査をお願いするよ……」
優しく囁くが夕河はいまだ恐怖している。
追い続けていた非日常の存在に真正面から向き合うのは並大抵の精神じゃ勤まらない。
自分の弱さを思い知らされている。
「なに……今すぐにじゃなくていい、夏休みなんだ……宿題が一つ増えたと思ばいい」
魔刃はそういうが、焦らないわけがない。
夕河の父と母はいまだにリビングで、動けないままわずかに呼吸だけ行っている。