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マスカブレード  作者: 黒野健一
第二章 静寂/父と母
18/120

18静かな家

「さてっと」

真っ赤なスープまで飲み干した夕河が水を一杯飲んで帰ってきた。

水と激辛スープで腹がいっぱいだ。

「詩朗くんのせいでお腹がじんじんする……」

「こういうの好きなんだろ?」

夕河の枕を足で踏みつぶしてベッドの上ではねている。

「ほこりが舞うからやめなさい!」

「はーい……」

怒られた子供みたいにベッドの上で足を折りたたんでいる。

唯一の光源、モニターの前に夕河が座り対面のベッドの方の壁に大きな影を生む。

マウスが数回音を鳴らし、モニターの画面が切り替わる。


彼女が運営しているオカルトサイト『ますかれーどちゃんねる』が表示されている。

今日更新されたばかりの記事を開く。

『仮面シリーズ 襲撃犯の女、仲間割れ?』というタイトル。


「…………」

夕河が事件の概要を淡々と読み上げる。

それを黙々と詩朗は聞く。

なぜか防犯カメラの映像が載せられている。


仮面を被った二人が殺し合いをしている。

女が突き出した巨大な刃をかわしたもう一人の仮面を被った男は

首元に刃を突き立てながらカメラの外へと消えていく。

コメント欄ではまるでヒーローショーのようだとか、

これまでの記事の主役たちを並べて、勝手に強さランキングを作ったりして盛り上がっている。

「被害者の一人、君だよね?」

「……ああ」

うなずくしかない。

だが、次の質問には彼は答えられない。

「この仮面の男は……?」

「…………」


対魔刃部隊という組織の一人、黄鐘に魔刃についての事を

誰にも言わないことを約束した彼は正直に答えるわけにはいかない。

「知らない」

「……ホントォ?」


鋭く尖っている目線が刺さる。

彼の心はじりじりとすり減るようだが、何かを隠しているということすら気付かれるわけにはいかない。

詩朗は眉間に親指をあて、肘と膝で頭を支えている姿で答える。


「ああ、あの仮面の人な……なんか急に現れて俺を助けてくれたんだよ」

「……これ、うちの制服だよね?」

画面に映る映像には白いシャツの男、ということしかわからない。これは罠である。

校章がついているがそれは胸元についていて、映像では詩朗は後ろ姿しか映っていない。

「いや、どうだろう……どうしてそう思ったんだ?」

「……さぁ?なんとなく」

夕河は夕河で何か違和感を感じさせる態度である。


夕河が今日詩朗を呼んだのは事件に関わった人間に直接話を聞くためだ。

とはいえ、詩朗が話すこと……話せることなどほとんどない。

彼がなぜ美術館にいくことになったか……ということを中心に話をし、

事件のことは気を失っていて犯人にもあの仮面の男もわからないと話した。


「そうか……」

「すまないな、せっかくなのに面白い情報を与えられなくて」

「いや、君が無事ならそれが一番だ」

オカルトサイトのためなら学校も休む彼女がそんなことを言うとは思わなかった。

詩朗は素直に驚いたし、やはり周りに心配をかけたのだと再確認した。




「じゃあ、夕食は自分で買いに行けよ」

「……善処する」

詩朗はそれ以上ツッコミもせずに帰っていく。

彼の後ろ姿を見送ると夕河は玄関の扉を閉め、すごい勢いで鍵を閉めていく。

「……ッハァ……これで満足かい?」

部屋の奥、真っ暗なリビングには立ったまま動かなくなった二つの人影。

まるで時が止まったかのような静寂の世界に囚われたのは彼女の両親。

「ああ……同胞に久々に会えると思ったのだがね……」

発言したのはリビングのイスにもたれかかる一人の男。

顔に仮面を被せた、男だ。

「あれはおそらく復讐鬼だね」

冷酷さを感じさせるデザインの仮面がつぶやく。

「お前……魔刃と言ったな、なぜ彼を……?」

「別に?あの少年くんなんかどうでもいいんだ、魔刃を被った人間じゃないんなら、ね……」


どうしてこうなったのか……

これから語るのは、あの帰り道で別れた彼女の話だ。

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